目を開けてなくても、私の意識はあった。何もできない代わりに、考えることはできた。
不思議な縁だと思う。最初はただの偶然で、同じスリザリン生に会った。妙な同級生だった。自分とて呪いだの性質の悪い道具に被害を受けていたのに、巻き込まれた私を探そうとしてくれた。時々治療のために魔法薬を渡してくれたこともあった。同僚の同級生、それ以上でもそれ以下でもなかったはずなのに。私が勝手に、救われていただけだ。
闇の帝王が消えた。同時に彼は、リリー・ポッターの死を知った。
世の中はお祭り騒ぎとなった。同時に彼は、自分の死を願った。
私は彼が校長と話した後、学校を出ようとするところまで見送ろうとした。そのころ、ダンブルドア校長の意向でホグワーツ校の用務員補佐に就職していたから。彼は私がいることに気付いていなかった。何を話していたかは知らないけれど、真っ青で虚ろな様子が気になっただけだった。まさか、死の呪文を自分に唱えようとするなんて。咄嗟に腕を握り止めて、失神呪文をかけてしまった。目覚めた彼は覚えていなかったけれど。
あのとき、物理的に呪文を止めるのではなく、武装解除で止めたのであれば、結果は変わっていたと思う。私は彼に触れなかったし、私はここにはいなかった。彼の最期を知ることはなかったのに。
いくつもの偶然が重なった、と私は思っていた。
だけどあの魔女曰く、この世に偶然はなく、あるのは必然だけ、らしい。
東洋の魔女は言った。私は今、どこでもないところにいると。感覚としては水の中。呼吸も栄養もいらない水中。光も闇もない、どこでもないところ。あの魔女は、なんだかんだで優しいのだろう。願いと等しく、対価と等しく、望みを叶えてくれた。
私は、見ている。
ピーター・ペティグリューの目を通して。
ホグワーツのマグル学教授が殺された時も。
ハリー・ポッターがベラトリックスに捕まる時も。
ペティグリューがハリーを殺すことに戸惑った時も。
魔法の腕が自分を縊り殺す時も。
同級生であった。会話したのは、のぞき見のレンズをつけた一度きり。本人はレンズの存在にも気づかなかったはず。目的のために利用した。それだけ。それだけと、思わなければ、私は進めない。
瞼を、押し上げる。
「おはよう」
魔女が言った。
「おはようございます」
私が言った。
『…寝すぎたか。頭が重いぞ』
蛇が言った。…あれ。
「なんでヴァルヴェルデ君が一緒に寝起きの顔をしていらっしゃるの」
私の体は、庭の池に浸かっていた。うわ、びしょびしょ。でも、普通サイズの池だ。そして、池傍の石に普通サイズじゃない蛇が蜷局をまいていた。
「この子が、自分の眠りを対価にしたのよ」
「へ?」
「何を得たかは、教えないけれど」
「えぇー。どうしたの、ツンデレ?」
『…貴様』
蛇が、飛んだ。
顔面に、ぶつかってそのまま私、沈む。まずい、息できないんですけど。重い。起き上がれない。水の中。
「ちょっと、じゃれてないでお風呂入ってきたら?風邪ひくわよ?」
『「じゃれてない!」』