12
見慣れぬ制服を着た生徒が増えた。三校対抗試合をするらしい。己の過ごした中で懐かしみはない。また余所者が来たのか、そういうこともあったか、という感じだ。己の過ごし方としては行動範囲が狭まれた分苛立ちが募る。住処としてこの用務員室に籠るか、森に潜むしかない。憤りを小娘にぶつけようにも、本人も一層引きこもるようになっていた。今では食堂にすら行かない。去年ならば薬学教授が怒鳴り込んでくるが、今はそれもない。とうとう見捨てられたかと愉悦を感じていたが、どうやら違うらしい。最低限教授はやってくる。

「変わりないか」
「はいー」

という会話がほとんどだ。ただの生存確認の域である。小娘も教授も、休み明けからぴりぴりしている。世間に関心のなかった小娘が日刊預言者新聞をとるようになったのも一因だろう。届けに来た梟を襲えないのは心底口惜しい。

新聞で不穏な記事が出だす少し前より、小娘は魘されるようになった。今もだ。

「…ッー…」

自室のベッドで横になって集中していたと思えばこれだ。顔をしかめて言葉にならない呻き声をあげる。正直やかましい。顔色が悪くなっていく様もまともに呼吸できていない様も、見ていて鬱陶しい。さすがに、叩き起こしてやろうかと思って身をくねらせベッドに上がる。顔面めがけて尻尾を振り上げて、下ろせばいい。

「だめ!」

残念。寸前で起きた。何やら制止の言葉を叫んで目を開け、そして己を見た。

「…っあ」

珍しい。小娘が心底己におびえるとは。寝起きのせいか。普段は蛇に対する本能的恐怖を抑えていたか、と思いながら尻尾を布団に戻す。

「ヴァ・・・ル?」

ん?何故確かめる。

「何だ、ヴァルか」

何故そこで安堵する。どうして己を確かめるように触れる。鱗の身を撫でられた。ペットのような扱い、普段なら牙を立てて拒否するだろうに。今更よけると逃げるようで癪だ。

『魘されていたな』
「ん…一人、死んだ。食べられた」

ただの夢ではなかったらしい。憔悴した声で未だ顔色悪いままだが、上がっていた息は落ち着きつつある。かすかに魔力を感じる。小娘は確か、のぞき見、と言っていたか。

『あの妙なレンズの力か』
「そう」
『ほう』

己に核心めいたことを言うのも珍しい。やはり、寝起きで判断能力が鈍っているのか。ついでにいろいろ聞いてやろうと思い浮かぶ。

『何を集めている』
「情報」

それぐらいは一年以上ともに過ごしてわかる。小娘が闇陣営から逃げていることも。

『あの老人には』
「まさか」

闇と敵対している現代の校長は、味方にもなりえないらしい。小娘の立ち位置は未だに不明だ。あの教授にすら、知られることを恐れているようだ。己にとって人間はサラザール・スリザリンとトム・リドル、あとは屍か石しか知らない。人間とは難解な生き物だ。弱さゆえの知恵か。

何にせよ、わからぬことは多いが探ろうとするほど興味はない。しかし、契約に縛られている以上己は小娘の傍にいるだろう。瀕死で弱った時につけられた縛りは、己が回復した今も破れぬ。束縛された己の身に去年ほどの憤りはなくなった。ただ、小娘の現状を傍観しているのが暇つぶしになっているだけだ。

『追い詰められたときは吾が止めを刺してやろう』
「わ―、優しさが身にしみるわー」

棒読みで返されたので無防備な首に冷えた蛇身を滑らせた。上がった悲鳴にとりあえず満足する。


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