幸せの青い鳥


「てめぇ!エースこのやろう!!」

どたどたと二つの大きな足音と共にナマエの怒鳴り声が響く。
俺は書類を片してた手を止めドアへと視線をやった。
なんだ、うちの末っ子がまたなんかやらかしたのかよい?

「なんだよ!ナマエが俺に構ってくれないからだろー?」
「構う!今すぐ構ってやるからその紙を今すぐこっちへよこせ!!」

へっへ!自分で取りにこいよ!
と続くエースの声。
…だいたい状況はつかめたよい。

ナマエはつい最近うちの船に乗ってきた男。
一人海の上を歩いているところを拾ったら「せっかく買った船が海王類に喰われてしまった」とかで次の島まで面倒見てやることになった。
元々違う世界から来たらしく、悪魔の実やらの俺たちと同じ常識は持ち合わせていない。
勿論最初、俺たちはそんな話信じられないとこいつを見ていたが、親父が豪快に笑い「ここぁグランドラインだからなぁ!!」と一言でまとめちまったら手も足も出ない。

しばらく居候させてやるよ。とも言い出すので、親父がいいってんなら俺たちもいいよい。と言ったら何故か俺が基本的な世話を見てやることになった。なんでだよい…。

船を食った海王類をしとめていたので、それを飯にナマエのため(ただの理由付け)、宴が催された。

一人称は「私」で基本的に気さくでいいやつなのに、エースに関わるとああいった口調になる。
まぁ休憩がてら甲板まで見に行ってやるかよい。


「エース、それを放すんじゃねぇぞ!風に乗って飛ばされでもしたら…!あと絶対燃やすな!!」
そこには腰を低くして今にも飛びかかりそうなナマエと

「へっ!こんな紙切れ一枚が何だよ」
何かがびっしり書かれた紙切れを持ち、船縁に立つエースの姿があった。

「ただの紙切れじゃねぇ!それは私の研究まとめだ!今すぐ返せ!!」

そうそう、ナマエは前の世界では科学者だったらしい。
等価交換とか物質の再構成だとかなんとか。説明されたがほとんどよくわからねぇ。
海の上を歩いていたあれも、海水の塩をどうとかして足場にして…ともかく俺たちには難しすぎる。
何だっけ、れん…れんこん?


そして空気を読んだかのように強い一陣の風が舞い踊る。

「ああああああー!」
思わず瞑っていた目を開ければ空高くへと何かが飛んでいくところだった。今は白い点にしか見えない。
まぁ言わずもがな。

「エースこのやろう!!私の2日間の徹夜を一気に無駄にしやがって!!」
「わりぃわりぃ」

ぶつ…と何かが切れる音が聞こえた気がした。
「謝罪の言葉はそれだけか?」
「ん?」
「海に落ちろ!びっくり人間!!」

言うやいなやナマエは両手を合わせ近くにあった鉄の棒を握った。
そこからバチバチと眩しいほどの光が上がり収まったころ、そこには立派な刃物ができあがる。

「うらぁ!!」
「うお!?危ねぇじゃね…」
「問答無用!!」
おらおらと足を重点的にしかけるナマエ。おいおい、落ちたら大変だぞい。

そして案の定エースは足を踏み外し海へ落下。
「エース隊長!!」
幾人かの隊員の声と同時にあがる小さな水柱。
「待てこら!」
逃がさねぇぞ!と続くナマエ。
こりゃ終わったな。


「おーい、誰か縄梯子出しといてやれーい」

俺が一言かけると次第に動き出す弟たち。
しばらくしてから、おぉ、ありがとう。と小さく聞こえるからもう大丈夫だない。
タオルでも持ってってやるか。

再び甲板に上がってきた、ナマエに抱えられたエースは随分ぐったりしていた。

「重てー。よっこいせっと」
とエースを転がし自分も座り込むナマエ。
「ほれエース、ナマエに言うことは?」
とサッチが声をかけるとか細く聞こえる謝罪の声。

「ん、タオルだよい」
「おー、マルコは気が利くな!マメな男はモテるぞー」
あ、マメって小さいってことじゃないからな。

と笑う。誰もそんなこと思ってねーよい。と後ろから髪を拭いてやる。

「俺にも…タオル…」
「自分でやれよい」
エースがか細い声のまま言うのでタオルを投げつけてやった。
今回は自業自得だろい。

「ナマエ、おめーまた徹夜したのか」
とサッチが言ったので上から覗きこめば目の下にうっすらと隈があった。さっきは後ろ姿ばっかで見えなかったからな。

「少しな。ようやく終わって寝てたらこいつが遊ぼうぜー!とかって来るしよー」
「しかもせっかくまとめたのに風に飛ばされちまうしない」
「ほんとだよ…」

あー…。とか言いながらもたれかかってくるナマエ。
「ちょっと寝るわー」
「こんなとこで寝たら風邪ひくよい」
「そうそう、シャワー浴びてベッドで寝ろ」
「もう無理だー」
体力の限界だー。と言って思いきり寝る体制に入る。

あ、そういえばさー。
「エースってカナヅチなんだな」

…。
「そりゃあおめー、悪魔の実の能力者なんだから仕方ないだろ」
サッチが説明すると、悪魔の実?
と聞き返す。悪魔の実のこと忘れてるない。

俺は片腕を不死鳥にしてナマエに見せる。
「ほら。これだよい」
「おー。もふもふー」
と自身の腕を俺に巻きつけるナマエ。
こいつ完全に寝ぼけてるよい。
だけど悪い気はしない。


「なぁマルコさんや」
「なんでいサッチさんよい」
「お前それ無自覚?」
あ?
「それってどれだよい?」

それそれ、とナマエの方に指を指すサッチ。
その先には未だ俺の翼に両腕を巻きつけて眠るナマエ。ちなみに俺のもう片腕はナマエの腰に回ってる。

これがどうかしたかよい?
小首を傾げて再度サッチを見ると「お前が首傾げても可愛くねぇんだよ」と返された。
論点がずれてるよい。

「気付いてねぇんならいいわ。」
サッチは海水に浸かり、未だワカメのようにのびているエースを引きずって去っていった。

よくわかんねぇやつだよい。


澄み渡る青い空に混ざりそうで混ざらない海の青。
あー…今日も平和だよい。

あ、そうだそうだ。
こいつ確か錬金術師なんだ。思い出せてよかったよい。

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