クリスマス中止のお知らせ
「24と25日空いてるか?」
「今のとこ空いてるけど…」
何だよ、と元親は聞いた。
終業式も終わってホームルームを仕切る担任を待つ今。だらだらと喋るのは彼らだけではない。
中身のない小さい鞄から携帯を取り出す名前。その向かいの席を陣取るのは彼を想う長曽我部元親その人である。
友情から恋情へ変わったのは些細なことだった。相手は男で自分も男。しかも自身の好みのタイプは「ボン!キュッ!ボン!」だったはずだ。こんなひょろひょろじゃない。しかしそんなことも忘れてしまうほど元親は名前に惚れていた。名前はノンケだろうし、正直今の状態が一番いい。当たって砕けるなんてとんでもない。
「毎年この時期は両親が出かけるんだ。俺一人だからうち来いよ」
それはあれだろうか。お泊まりということだろうか。
聖なる夜に?好きな人と?一つ屋根の下?むしろ同室?隣の布団で?想い人が寝てる?拷問でもきっとまだ楽なんじゃあと元親は思った。
「色気のねぇクリスマスだなぁおい」
その辺のカップルどもはイチャイチャ過ごすんだろうに、と。いやまぁ自分たちもある意味楽しめるだろうから気にもならないが。
後半は言わなかったがそんなことをニヤリとしもって言うと、名前は何とでもないといい放った。
「ただの12月24日だろ?」
「名前のそういうところ…好きだぜ」
「俺にホモの気はない」
「俺もねぇよ」
軽く返してはいるが元親の心はズタボロだ。 嗚呼悲しきかな同性の壁。自分が女だったら可能性はあっただろうかと考えるも、同性でなければ更衣室での上半身裸や水着姿は見れないわけだし、そもそも若干コミュ障な名前と話をすることさえ無かったかもしれないのだから、男でよかったと思うべきである。
頑なに『クリスマス』ではなく『24日』というのは何か意味があるのだろうかと考える元親であったが、名前の男気の前であっさりどうでも良くなった。
「どうすんの?」
「あ?あぁ、いくいく」
担任が来たのでおざなりな返事になってしまった。そのあとは延々としょうもないことを考えて過ごす。
どんな部屋なんだろうかとか、性格からして家具は少なそうだなとか、けれど毛利と話してるのをよく見るから本の類いは多そうだとか、エロ本はあるか、何処に隠してるだろうかとか、どんなものがあるかとか、AV女優は誰が好きだろうかとか。
考えることが不健全なことばかりになったことに気がつくと、ちょうどホームルームが終わった。
「何持ってくかなー」
手下の野郎共と騒ぐのとはまた違うのだ。名前とはどう過ごそうかと、その夜未だ興奮と期待の冷めやらぬ元親であったが、一通のメールでどん底に突き落とされることになる。
『自分で誘っといて悪い。24日の晩バイト入った。』
こうして約半日で元親のクリスマスは終わりを告げた。
仕方ないか、と返事を送る。
『まじかよ!(`ω´)おい言いだしっぺ!!』
『ホントに悪い。俺も一緒に居たかったんだけど』
「!?」
嗚呼分かった。こいつは俺を萌え殺す気だ。
一方名前は携帯を片手に苦い顔をしていた。
「ちょっとあからさまだったかな…」
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ネタメモで留めておくつもりが、ついに書いてしまったBsr…。
文章リハビリ部第31回「クリスマス中止のお知らせ」に提出しました。