ことの発端と目論み
ちまたでは「飛里風(トリップ)」なるものが流行っているらしいな。



私の知識としては、それは文字通り千里を風のように飛ぶこと。おなごにごくまれに起こることで、本人の無意識下で起こるある種の神隠し。

時代の最先端を行く我がアオトゲタケ城城主は組頭と私を呼び出しそう言った。この方はそれだけを口にして、下がれと言ったが、その後のことは予想できる。私にそれを装ってあの忌々しい「忍術学園」の機密情報を持ち出すか、忍者の卵共の心を掌握するのだ。
この強い城がいくつかの戦で負けそうになる時、だいたいは忍術学園の卒業生が戦力の大事な部分にいる。殿が気付いていないわけがない。


そんなわけで、私は遠い未来から飛里風した女になりきることになった。これはただの町娘になるのではない、そのため未来に関する情報を全て一から作り上げた。からくり忍者と組頭、部下のくのいち達が楽しそうに創作していたが…私にはその楽しさがわからない。興味もないがな。

組頭の意向により声が出ないという設定にした。使う文字も丸みをおびたよくわからないものをくのいち達が考案し、私なりに書きやすく修正を加えた。部下に修正したものを見せると「あんまり可愛くなくなっちゃったぁ」と言われたがよくわからないしわかる気もない。

それから数ヶ月かけて表情をやたらめったら豊かにし、いつも笑顔で何にでも興味を示し、鈍感で視野が狭く何もわからない…それこそ虫も見たことのない女になりきる練習をした。髪や手先足先も町で良さそうなものを買い、念入りに洗い匂いをつけた。少々つけすぎたかと思ったが部下には「仄かに香って丁度いいですよん!」と言われた。私には臭いように感じる。考え込むと息を止めてしまうクセや、必要のない身振り手振りも体に染みつけた。

そういえば、表情豊かにし出して一週間ほど後、組頭は勿論部下、城の警備兵にまでその方がいいと言われた。私は無表情すぎるらしいが、当初は大変疲れた。



そして、忍術学園に潜入する日がきた。

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