お察しください
チャイムが鳴って授業終了と同時にハチが全速力で購買へ走って行った。いつ見ても爽快なものである。それぐらいしないと一個上のナナマツ先輩とやらに肉巻きおにぎり他、ハチの好物が買い占められるらしい。三年は四階だけどハンデにはならないとのことである。
私はマイペースに教科書を片付け鞄ごと荷物全部持って屋上に向かう。用心用心。とかやってたら廊下で兵助と、ほくほく顔のハチとも合流して結局揃って歩くことになった。雷蔵は図書委員、勘ちゃんはまだ学校来てないらしい。三郎?あの雷蔵フェチは言わずもがなだよ。念のため言っとくと雷蔵にくっついて図書室行った。

「屋上もさむくなってきたのだ」
「そうだなー。でも階段とかは埃っぽいしな」
「どっか空き教室借りれないかな?」

ここで互いのクラスが出ないのは、男子5人に対して紅一点という状態をごちゃごちゃ言ってくる馬鹿が二年になってもいるからである。去年一年間我慢しながら同じことを何度も立ち代り入れ替わり聞いてくるのを、我慢して対処したにもかかわらず春頃教室で食べてたら、授業前にまた聞かれたのだ「ねぇ、あの誰と付き合ってるの?」と。えぇ、顔が歪むのを我慢して答えてやりましたよ。誰とも付き合ってないよって。
何が腹立つってすでに付き合ってることが確定してることよ。誰とも付き合ってねーわ。むしろ誰が付き合うか。こいつら欠陥だらけだからな。

「今日は何に豆腐混ぜたの?」
「厚焼き玉子。卵一個なのにこの厚さ!!さすが豆腐…なんにでも合うところがまた素晴らしいのだ!!」
幸せそうに食べるよなー。と思って逆隣りのハチをみるとこっちも幸せそうにカツサンドを食べていた。
「それ数量限定のやつ?」
「おう!!前食べたの夏休み前でよー。やっと七松先輩に勝てた…!!」
兵助はナナマツ先輩を知ってるらしく、やったな八左衛門!!と声をかけていた。


「遅れて飛び出てばばばばーん」
言いながら勘ちゃんがやって来た。ちょっと肌蹴た制服を見るにお姉さんとのお楽しみ帰りか。両隣が快く挨拶してるのに挟まれて、私は勘ちゃんの首から目線が外せなかった。思い切り表情を歪ませてドン引きの顔。

「うわぁ」
「え、撫子ひどくない?」
「は?別にひどくなくない?」
「そんなことないよー。なあ八左衛門、撫子ひどくなくなくない?」
「うーん…まぁさほどひどくなくなく…なく…ややこしい!!」
ハチもあまりいい気はしてないようである。

「顔合わせて一番にその反応は!その顔は!ヒドイ!!勘ちゃん傷つく!」
「傷ついても10分くらいしたら忘れるクセに」
んなことないしー。とか唇突き出しても可愛くねえんだよ。その首のキスマークが色々と台無しにしてるわ。ただのキスマークならまだしもリップかなんかしらんがピンクのラメで大きく縁取りされてて言い逃れのしようがないわ。いくつもあるのがさらに駄目だわ。
正直に言おう気っっ色悪い!!

「それ」
「それってどれ?」
「…」
口にするのが嫌だ。恥ずかしいわけじゃなく、ただただ嫌悪感しかわかない。指さして生ごみを見るような目でもう一度それ、と言う。さっき言ってた勘ちゃんの欠陥はこれな。しりがるっていうの?年上のお姉さんとっかえひっかえしてお前それ何人目?今何股してんの?って思う。こんな人とは付き合いたくない。

「えー?」
「あー…首、すげーな」
おお…!ハチが言ってくれた!気付け!!気付け勘ちゃん!!だがしかしヤツは首?といって見下ろすも自分の首が鏡なしで見れるわけもなくああこのネックレス?とほざく。

「結構ゴツいよね。装飾細かくて気に入ってんだー。お姉さんからもらったの」
おまけに前からつけてたよ?とかいう始末である。問題はその『お姉さん』だよ!どびっちめ!!どびっち勘ちゃんめ!!!

「勘ちゃんの『ちゃん』はビッチちゃんの『ちゃん』か」
「勘右衛門の要素いっこもねーよ」
「ちゃんちゃん何言ってんの?」
「ちゃんちゃんこ?」

兵助は頭いいくせにどっかぬけてる。

「兵助はよく気になんないね」
「気にはなるよ。ご愁傷様と思ってる」
ご愁傷様?と勘ちゃんと揃って首をかしげるがハチはなんとなく分かったようだ。
「あの顔はあれだ、完全に蚊にかまれたんだろって思ってる顔だ」
「あぁ…」
肌寒くなったこの時期にか…いやまぁまだたまに見つけるけど。兵助の中ではピンクの縁取りは引っ掻いた後か。勘ちゃんはまた蚊?と首をさらに曲げる。当然無視ですがなにか。

「なんで撫子はそんな嫌そうな顔でこっち見るのー?」
「ちょっと…ちょっと嫌だな、見るの」
「見ていい気分にはならねーよな」
「えー?」


***

そのままぐだぐだとできるだけ首に目線をやらず話題もふらず話していると屋上の戸が開く音がして、入ってきたのは教科書とかを持った雷蔵だけだった。
「まだいたの?次移動だからそろそろ行かないと遅刻にされるよ」
「やべ、そうだっけ」
「三郎は?」

私の疑問に雷蔵はトイレ、とだけ答えた。雷蔵がどんな反応をするのかちょっと楽しみだなーとチラッとハチと顔を見合わせる。

「うわ、勘右衛門すごいキスマーク!!」
あ。こいつあっさり言った。なにそれ面白くない。

「え?マジで?」
そして当のこいつも超あっさり。兵助に至っては興味すらないのか何も言わず勘ちゃんの首をもう一回見て携帯をいじっている。

「撫子化粧落とす何か持ってない?」
「あ、あるある。リムーバー持ってる!」

ティッシュと一緒に渡すと甲斐甲斐しく勘ちゃんの首を拭いてあげ出した。ハチが普通そこは女子の撫子がやるもんじゃね?とか言いだしたけど彼氏でもない男の首なんかなんで私が拭いてやらなきゃいけないのか。

「そもそもあんまり見たくないって言ったし」
「あー、だから撫子嫌そうな目で見てたんだ」
「まぁ特に女子は嫌がるでしょ。こんな首中キスマークだらけで真っピンクなクラスメート、気持ち悪くて見てられないよ。ね、撫子」
「う、うん…」

「えー?雷蔵だって年上の彼女できたらこれくらいなるよ」
「僕はできたとしてもそのまま来ないよ。汚いし気持ち悪いし気色悪いじゃないか。身だしなみくらい整えなよ、はい取れた」

じっとしていた勘ちゃんは眉根を寄せて顔だけこちらに向けて言い放った。
「二人みたいに何言いたいのかわかんないのもあれだけど、雷蔵のガツガツ言ってくるのもだいぶ傷つくわ」

ハチと一緒に頷いてやることしかできなかった。
その後ろでチャイムが鳴った。
そんで雷蔵が珍しく勘右衛門を平手打ちした。




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「しりがる」「びっち」は男子に使うものではありません。知ってます、わざとです。
文章リハビリ部 第26回『お察しください』に提出しました。

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