あなたが最期に望んだ名前
お題配布元【選択式御代

死ネタ/百合
***
「トモミ、またきたの?」

くのたまも上級生になれば生徒が減ってくる。入学時から仲の良かったユキちゃんと涙の別れをして、もう二年は経った。私は彼女と違って本気のくのたまだから今も此処に、忍術学園にいる。

「はい、撫子先輩」

病にふせる先輩のもとにくるのは私の日課。最初はただの風邪だと思って放っていたら、少し悪化していたらしい。咳がとまれば保健室から出してもらえるから。シナ先生がそう言ってから、もう何日も先輩は出してもらえてない。

「あー…腰が痛い」
「体、なまってませんか?」
「なまってるに決まっているわ。寝てばかりは退屈だし、かといって起きて書物を読んでいたら保健委員がうるさいし」

コホコホ

「全く鬱陶しい咳だこと」
「でも私はこうやってゆっくりたくさん話ができるから、嬉しいですよ」
「なあにそれ、イヤミ?」
「ふふっ、違いますよ」

あなたを一人占めできて嬉しいとは言えなかった。
私になんでも開けっ広げに話す、女性にしてはさばさばした、鋭い目を持ったあなたが好きです。一度任務をご一緒して以来、私はあなたしか見えていません。全部頭にしみついてるんです。作戦を伝える声も、敵兵をのしたあの体術も、目的の書物を手に入れた時のにやりとした顔も。あぁ、嫌だわ。これじゃあなんだか、もうすぐ先輩が


「先輩っ!大和先輩!!」
いつも通り保健室にいくと、苦しそうなひどい咳と切羽詰まった乱太郎の声がした。
「乱太郎!!どうしたの!?」
「トモミちゃん…。急に容態が悪くなって、僕先生呼んでくるからお願い!」
「わかった!!」

待ってください先輩、私まだ伝えたいことたくさんあるんです。
「撫子先輩、大丈夫ですか!?気をしっかり!」
元気になったら組み手の約束したじゃないですか。
「先輩!!」
口元にやっていない空いてる方の手を握った。それは筋肉が落ちて細くなり少し骨張っていて、まるで――。


咳が静まった先輩は、普段の目をしていなかった。
「××…さん…」
彼女が最期に呟いたのは、知らない男の名前だった。そうして撫子先輩は目から光を無くし、遠くへいかれた。私の想いを知らず、私の告白も聞かず、私の手だけを握って。

先生方が来たのはそれからだった。足が早い乱太郎にしては遅かったように感じる。間に合わなかった新野先生は、ひどく落ち込んでいるように見えた。

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