お姉ちゃんは心配症
※名前変換なし



それはとある休日のこと。
ただのとある休日のこと。
夏休みでもない日のこと。

私の弟は突然我が家に帰ってきた。

「お姉ちゃんただいまー」

あまりに突然のことで、今度は忍術学園でイジメられたのかと思ってしまった。
だって

「どうしたのそんな泥んこの恰好で!!」
「えへへー」
弟は笑うだけで答えようともしない。

うっかり勢いで怒鳴って問い詰めてしまいそうだけど…落ち着きなさい私。
リリィお婆さんと毎日口喧嘩したあの頃の私とは違うのよ!

「お姉ちゃん、たーだーいーま!」
「お、おかえりなさい喜三太」
あ…これ忍術学園のことは話さない方がいいわよね?
うっかり忍術学園はどう?楽しい?だなんて聞いてまたあんな困った顔でもさせたら…!!

「き…喜三太、お腹すいてる?」「ううん!さっきしんべヱとお団子屋さんでちょっと食べてきたから!」
し…しんべヱって誰!?
ちゃんとした子…かしら?
まさかお団子代全部奢らされてたりしないわよね…?

「そ…う、そうなの!美味しかった?」
「うん!それでねお姉ちゃん、今からちょっと来てほしいところがあるんだ!」

あ、話そらされた…?つまりそういうことなの!?
でも奢らされて払えるほどの余分なお金なんてあったのかしら?
あっ!もしかしてそのためにお姉ちゃんに黙ってバイトなんてしてないわよね!?

ああ…でもそんなこと一々言えないのかもしれないわ…。
優しい子だから…。
そうよ!優しい子だからイジメられたりはめられてることに気付いてないのかも!

と、とりあえず…そうよ!汚れを落とさせないと!!
「喜三太、まずは湯船でその汚れを落としましょう?」
「えぇー?そんなの後ででいいよう!」

それは着物を脱ぎたくないということ!?
もしかして見えないところに傷でもあるのかしら…!

ダメだわ…考えだしたら本当にそんな気しかしなくなってきた…。
どうしよう…お姉ちゃん喜三太のために忍術学園に手紙出すべきかしら?
でもそんなことして余計風当たり強くなったら…!

「お姉ちゃん行こうよう!」
「ダメよほんと…姉さん心が折れてしまうわ…」
「えーなんでなんで?」

なんでって…そんな…ああどうしましょう…喜三太の笑顔が苦しいわ。
お父さんお母さん…お姉ちゃんはどうしたらいいのですか?

「お姉ちゃん具合悪いの?」
「そんなことないわ!えぇ!行きましょう!!」
お姉ちゃんどこまでもついて行くわ!女は度胸よ!!


***

手を繋いで田んぼ道を歩く。
しばらく見ない間にふにふに可愛かった手が少し固く…なってる?
やっぱりこの子またイジメられてるんじゃ…。
友だちだなんて言って誰かの分の宿題させられたり授業の準備させられたりしてるんじゃないかしら!?

「きっとびっくりすると思うんだー!」
「あ、あら本当に?」
お姉ちゃんはもうあなたが不憫でびっくりしているわ…。
ああ…大丈夫かしら…なにかあったときは私がこの子を守ってあげなくちゃ!

「そういえばお姉ちゃん、よしろー先輩みたいな方言抜けたね!」
あんの山伏なりかけの中途半端野郎が…!
未だに私の愛しい弟と遊んだりしてくれやがって…年が一つ上でも許さないんだから!!
あ、でももし喜三太が喜んでるってんなら…仕方ないからちょっとだけ譲歩してあげるわよ!!

「そうね、お姉ちゃんも頑張ったの!方言だと外で働くのは恥ずかしいから」
「えー?恥ずかしくないよう!お姉ちゃんの方言可愛かったってよしろー先輩が言ってたよ」

「まぁ、本当に?」
あんなのに言われても嬉しくないわ…。

「ところで喜三太、どこまで行くの?そろそろお姉ちゃん疲れてきたわ」
「もうすぐー!」

愛しい弟は機嫌よく手足を振って歩く。


「あ!そうだ!お姉ちゃん、ここからは目瞑って!」

「え?でも目を瞑ったら歩けないわよ?」
「僕が引っ張るから!はやくー!」

言われるまま目を瞑った矢先、ほんの少し固くなったかもしれない小さな手に勢いよく引っ張られる。

「きゃっ!き、喜三太、もう少しゆっくり歩いて!でないと転げてしまうわ」
「転けたら僕が支えてあげるから!早く早く!」


わたわたしながら引っ張られていると喜三太がさらに足早になりながら誰かに呼びかける。
「せーんぱーい!みんなー!!」
それに答えるように誰かが返事を返して、それと同時に足が何かに引っかかって

ついに私は転けた。

「あっ!」
瞬間的に目を開けたけれど間近の地面は一定距離のまま動かない。
「大丈夫ですか?」
まるで南蛮物語の殿様のような声に誘われるまま体を起こされる。

そこには喜三太同様に泥がついた…

「よ、与四郎さん!?」
「いえ、俺は食満といいます」と苦笑いで答えた。

「忍術学園の先輩なんだよー」
下を向くと喜三太はさらに泥がついていた。私と一緒に転けたのね。
お姉ちゃん怪我なあい?と聞いてくるので、大丈夫よ。と答えた。

「どうもありがとうございます」
食満さんに、気にしないでくださいと爽やかに言われるが…何故かしら奴と同じ顔というだけでどこかイラッとくるわ。

「お姉ちゃん見てみて!」
喜三太に再び手をとられ、反対の手が指差した先には

とても大きな花畑があった。
黄色や桃色、たくさんの綺麗な花が目の前に広がっていた。

「まぁ…!」
「びっくりしたー?」
「…えぇ、とても綺麗で…びっくりしたわ…すごい」

行こう!とまた手を引っ張られ中に入っていくと、同い年くらいの子どもたちが走り回っていた。
「しーんべヱー!平太ー!」

しんべヱ!?お団子を奢らせる悪い子ね!!

「あー!喜三太ーこっちこっちー!」
意気込んで向かった先には、予想に反してぽちゃ可愛い糸目と顔色の少し悪いプルプルした男の子がいた。
あれ?しかもなんだかぽちゃ可愛い男の子は少し裕福そう…?

「僕のお姉ちゃん!」
「はじめまして…喜三太の姉です」

「はじめまして!僕一年は組の福富しんべヱです!!」
「僕は一年ろ組の…下坂部平太ですぅ…」
顔色の悪い子は声が少しデクレッシェンドで、最後に小さくはじめまして、とぎりぎり聞こえた。

「しんべヱはねぇ、大富豪の息子なの!僕なんかたまにお団子奢ってもらっちゃってるんだー!」

「え!?」
奢らされてるんじゃなくて奢ってもらってるの!?
驚いていると二人はさっきのお団子も美味しかったねー!とほがらかに笑い合っている。

「そ…そうなの?ありがとうね。」
そう答えながら頭を撫でてあげるけれど…あれ?もしかして私の勘違い?

「あのー…お姉さん…」
「どうしたの?えーっと、平太くん?」
しゃがみこんで目線を合わせるけれど平太くんはもじもじしてなかなか話そうとしない。

「平太くん?」
「どうしたの?平太ー」
え…なになに?
私何か変なことしたかしら?
それとも着物汚れてるのかしら?

え?え?と困っていると

「富松先輩と…作ったんですぅ…」
言いながらおずおずと花輪が差し出された。
ところどころで少し歪な、素敵な花冠が。

「わぁー!」
「すごーい!平太器用だねー!」
「まぁキレイ!ありがとう平太くん!」

後ろ手に頭をかき、可愛らしく照れる平太くん。

「平太、お姉ちゃんの頭にかけてあげてよ!」
「うん…」

更に頭をかがめる。
ほんの少し重みが増して、落ちないよう手を添えながら頭を戻すと、三人の嬉しそうな笑顔が目の前にあった。

「ありがとう平太くん。似合ってる?」
「似合ってるよー!」
「お姉さんキレイ!」

そうだわ、富松さんにもお礼を言わないと!
「富松…先輩はどちらにいるのかしら?その方にもお礼言わなくちゃ」

「富松は同級生を見つけたとかで慌てて追いかけてっちゃいましたよ」
後ろを向くとすぐそこには食満さんが。

「まぁ、そうなんですか…。喜三太、代わりにお礼言っておいてもらえるかしら?」
「はーい!」

「喜三太のお姉さん、来たところで申し訳ないんですがそろそろ我々は学園に帰らないといけません。」
「まぁ、そうですか…。名残惜しいですが仕方ありませんね」



帰り際、喜三太はこう話してくれた。

今日ね、委員会の皆でお出かけだったの!よくやるんだー!
そしたらしんべヱがあのお花畑見つけてね、しばらく遊んでたらお姉ちゃんに見せたくなったの!!

走ったら大丈夫かなーと思ったらいっばい転けちゃうし、でも僕泣かなかったよ!
一人前の忍者になるんだもん!!

ああ…だからあんなに泥んこだったのね。
優しい喜三太。友だちもいい子がいるみたいだし、先輩も(顔は与四郎さんとよく似てるけれど)いい方に恵まれて…。
お姉ちゃん安心したわ。

「ねぇ喜三太、忍術学園は楽しい?」

「うん!すっごーく楽しいよ!!」

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