大事な友に、感謝



※変換なし




「ん…トイレ…」
草木も眠る丑三つ時、と言うには少し早いころ。私は尿意に目が覚めた。覚めたと言っても眠いからあんまり目は開いてない状態で厠を目指した。

しかし私は気づかないうちに道を間違えていたらしい。

「おい一年生、トイレはこっちだぞ」
「んー」
誰かに声をかけられて、曖昧な返事を返す。ほらほらとその人に背を押されてトイレに連れてってもらった。

「帰りは間違うなよ」
そう言って頭をわしゃわしゃと撫でられて、先輩は戸の中に消えた。私も何も考えず用を済ませて、それから気が付いた。あの人は誰だったんだろう?
寝ぼけていたからといっても、お礼を言ってないことが気になった私は、次の日の放課後にきり丸としんべエに相談することにした。

「なんかちょっと怪談みたい…」
「別にいいじゃん、お礼くらい。その先輩だってそんなこと忘れてるって」
「うーん…でもやっぱり、もし教えてもらえなかったら迷子になってたかもしれないし…」

律儀だなぁ。ときり丸は苦笑いする。
「何の話してるの?」
「僕らもまぜて」
「庄ちゃん、伊助」
「昨日乱太郎がさ、かくかくしかじか」

伊助はしんべエと同じようにちょっと怖がった。庄左エ門は顔色を変えずに分析してくれた。庄ちゃんったら冷静ね。
「その先輩の背丈はどれくらい?」
「あんまり覚えてないけど…結構高かったような気がする。手も大きかったし」
「じゃあ上級生か」
「知ってる先輩じゃないんでしょ?」
「乱太郎のこと名前で呼ばなかったんだから知らない人じゃない?」

「その先輩はどうして乱太郎が一年生だって分かったんだろう?」
「そんなもん体の大きさ見りゃわかるでしょ」
「だけど二年生という可能性だってあるじゃないか」
「一年長屋から歩いてくるのを見たとか」
「一年と二年は隣だし、上級生の長屋はちょっと遠いところにあるよ?」
「うーん、やっぱりそれ幽霊じゃないの〜?僕怖いの苦手だよ〜」
「幽霊じゃないってば、確かに背中を押されたもん」

「乱太郎は先輩を見つけてどうするの?」
「お礼が言いたい。私が迷子にならずにすんだのに、お礼も何も言わないなんて失礼じゃない」

私が拳を握って言うと、庄ちゃんは優しく微笑んだ。
「僕も協力するよ」
「本当に?ありがとう!!」
「六年生の先輩のところに行こう。もしかしたら夜の鍛練中に見てるかもしれない」

きりちゃんも暇だからとついてきてくれた。伊助としんべエは、見つからなかった場合のことを考えると怖いから、と見つけたら教えてあげることにした。



***

結果から言うと、見つからなかった。
六年生は勿論、五年生の先輩にも話を聞きに行ったけれど、揃ってそれらしき人は見ていないらしい。
その人の声は、髪の長さは、髪の色はと思い出そうとしたけれど…夜で眠たかったからと曖昧な記憶からはめぼしいものは何も出なかった。
きりちゃんは予想していたのか何ともなさそうで、庄ちゃんは力になれなくて申し訳ないといった感じ。私はというと、伊助やしんべエの言うように幽霊だったんじゃ…という考えが強くなってきて、怖くなってきた。
そんな表情をしていたんだろう、きり丸に「乱太郎まで怖がってどうすんだよ」と笑われてしまった。

「夕飯に見つからなかったら諦めるよ、ごめんね庄左エ門」
「いいよ、これくらい。僕も何もできなくてごめん」
何もなんてことはないよ。手伝ってくれただけで嬉しかったんだから。もうすぐ夕御飯の時間だなぁ。

「いっそトイレの前で待ち伏せするとか」
「全部の学年が使うんだから、わかんないよ」
「もしかしたら向こうから声かけてくれるかもしれねーじゃん」

「うーん、確率はちょっと低いね」
「あそっか、暗かったから向こうも乱太郎の顔見てないかも」
「やっぱり諦めるしかないか…」

肩を落とすと、鐘の音とヘムヘムの笑い声が聞こえた。タイムアップだ。けれどお礼を言ってないことがモヤモヤと胸に残って気持ち悪い。代わりに二人にしっかりとお礼を言った。
「きり丸、庄左エ門。私のどうでもいーい疑問に付き合ってくれて、ありがとう」
「どういたしまして。乱太郎のそういうところ、僕は大好きだよ」
「俺も。いい暇潰しになってくれて、ありがとう」
「えへへ、どういたしまして」
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