※オリキャラしか出ません。しかも夢主の家族。





私の弟がもうすぐ学び舎から帰ってくる。

弟、剛は忍びの道を極めるため、山中にある忍術学園とやらに住み込みで修行をしている。その学び舎には10から15までの同じ道を進む童がいるらしい。

この間届いた文には兄である私へと、母上、父上宛ての個別の手紙が入ってあった。全く、律儀な弟よ。

大和家は代々武士の家系である。しかし雑渡という忍びの家系から母上が嫁がれた今代から、弟が忍びの道へ進んだ。勿論長男である私は剣の道を極めようと、日々精進している次第である。

その弟は今や13の齢となり、学び舎では後輩を持っているという。あれは口下手で意思疎通能力に欠けるが、どうやら上手くいっているらしい。

以前帰省したころより成長しているだろうか。剛が戻ったら何をしよう。剣の稽古にでも付き合わせようか。

ふらりと立ち寄った茶屋で団子を食いながら、早々の帰省を待ちわびていた。


***

小腹も満たされ、上機嫌で家路につくと親しみのある背中が目に入った。
しかし髷が長いし少し知っている者とは違うような…?訝しく見ているとそれは後ろを向いた。

「兄上」
「おぉ剛か!なるほど見た背中だと思った!また背が伸びたなぁ」

兄上ほどでは。と謙虚に頭を振る剛。
「後ろの私によく気がついたな」
「気配を探るのは…慣れておりますゆえ」

「そうか!いや流石我が弟だ。今度はいつまでいられそうなんだ?」
「今回の休みは農家の子らが収穫を手伝うためのもの。用が済めば早々に学び舎へ戻るつもりです」
「なんだ、そうか」
「…申し訳ありません」

少しがっかりすると、剛が謝ってきた。謝らせるつもりはなかったが、まぁいいか。

「それにしても随分な荷物だな」
「…土産物を用意しております」

ほぉ!
「それは楽しみだ!」

学び舎での話を聞きながら帰路につく。弟は以前に比べて少し饒舌になったような気がする。

この藪を抜ければ少々で村に着く。のだが、さて。先ほどから視線を感じてはいたが…。

「剛、気付いているか?」
「はい。賊です」
「だろうな。数は分からんが多いのは確かだ。このまま村までつけられてはいかん」

そっと腰にある刀に触れた。
数はなんにせよ此方には刀があるし、忍びになる剛がいる。賊なんぞにやられては名折れだ。


「兄上、逃げましょう」
「は?」
「賊といえど相手は複数名の大人。此方は武士の卵と忍びの卵がたったの二人です。勝算はありません」

な、
「何を言っている!武士が敵に背を向けるなど!!」
「兄上」
「もういい!!怖いなら一人で逃げるがいい腑抜けめ!!」

なんて気の弱い弟だ!賊などに背を向けるなど何という名折れ!!
藪に向けて、私は一人刀を抜いた。
「我こそは大和が長子、将英である。物陰に隠れ悪行なしたる山賊ども!今ここで成敗してくれる!!」
言うや否やニタニタと下品な笑みを携えながらそこかしこから賊どもが現れた。既に囲まれていた。

「兄上!」
「黙れ恥知らず!!貴様は物陰にでも隠れていろ!!」
三下など瞬時に蹴散らしてくれる!!!

「ぃやあ!!」
「隠れた方がいいのはあんちゃんじゃねー、か!」
「!!」
勇んで刀を振り上げるも、真正面から胴を横殴りにされ無様に転がった。

「カッコ悪いねぇおに――」
「我が兄を愚弄するな」
土産物だという箱から武器が出て、賊の一人を音もなくおわらせる。

大将だろう男が一瞬眉を顰め、叫んだ。
「身ぐるみ剥いで殺しちまえ!!」
「わああああああああああ」

立ち上がった私に襲いかかる賊ども。剛?あんな腑抜けどうでもいい。
自分に向かってくる賊どもにひたすら刃を向けた。





顔を殴られ上腕を切られ、負傷と共に段々と力がなくなっていく。しかし数は着々と減っている。

カラン

私は遂に刀を取り落してしまった。
「兄上!」
うるさい

息の上がったゲスい男が立ちはだかる。しかし私に逃げる力は残っていない。

トスっ

音と同時に目の前の賊が崩れ落ちた。
「!?」
男の後ろ首に手裏剣が刺さっていた。その奥で忍具を片手に尚も戦い続ける剛。
なにが逃げようだ…。そんな大量の忍具を持って、お前の方が戦う気満々ではないか。土産物はどこへやったという?

尚もリズムよく脈打ち、限りを知らぬように流れる血。
まずい…視界が暗くなっていく。

***

手を強く握られている感覚から、薄目を開けると見慣れた天井があった。私は帰ってきたらしい。

そのままぼうっとしていると握られた手が微かに震えているようにも感じた。
見やると、剛が両の手で私の手を握りこみ、うずくまっていた。

「お前は兄の手を潰す気か」
かすれ気味の声で言うと剛は勢いよく頭をあげた。

「兄…上…」

珍しく刮目する弟。今にもこぼれ落ちそうとはこのことか。

「なにをしている。人を呼んでこい」
いつまでも呆けている馬鹿に指示を出してやると弾かれたように部屋を出て行った。

ああ、体中が痛い。

そういえば私はどのようにして帰ったのだろう?
剛が連れてくれたのだろうか…?
しかし私が意識を失う前にいくらか傷を負っていた。無事ではなかった筈だ。

…まぁいい。そんなことはどうでもいい。


しばらくしないうちに父上母上を連れて剛が戻ってきた。

「将英。怪我の具合はどうですか?」
「母上、多少痛みはしますが何のことはありません」

三人が来室したと同時に身を起こす。
父上は私の無事な姿に安堵することだろう。なんといっても私は長子なのだから。
そして剛の弱気な振る舞いにお叱りなさるに決まっている。学園で何を学んでいるのか、と。

「話はよく聞いた」
「はい」
「…はい」

無事に帰ってきたこと、嬉しく思う。と、
さあ、言ってください。


「大人相手に勝算があるわけもなかろう!賊だからと見くびったか!!」

厳格で口数の少ない、常に堂々とした父上が珍しく怒りに声をあげた。
立ち向かったことをほめられこそすれ、何故私がお叱りを受けねばならんのだ!!

「しかし──」
「口答えは許さん!!」

「剛」
「は、はい」
弟は怯えてか、下を向いていた。
すうっと一つ深呼吸をする父上。

「お前は忍術学園で何を学んでいる!!」
あまりの声の大きさにビリビリと振動が伝わってくる。

「…申し訳ございません」


ふぅ、と怒りを鎮めるように大きく息を吐き、父上は言った。

「将英、おまえの刀を取り上げる」
!?

「お、お待ちください父上!」
「今一度、精神から修行しなおすように」
「父う…!ぐっ…」
引き留めようと身を動かすが激痛に襲われる。

「まずは安静にすることだ」
「…」
「よいな」
「…はっ」

そんな…何故だ…くそ…!


「剛、来なさい」
「は…はい」

弟は、父上に呼ばれ共に出て行った。奴の顔には笑みが浮かんでいたに違いない。うつむく私には見えはしなかったが。

なぜ俺がお叱りを受けねばならんのだ!?
しかし理由は一つ。やつめが事実を湾曲して父上に伝えたに違いない…!そうだ、次男の分際でこの俺を蹴落とそうとしているのだ!!!
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