「よくぞ長子を守り抜いた」
「はっ」
「ご苦労」

父上の自室で二人、向き合って話していました。

「文は読んだ」
「はっ」
「して、どこまで見えている?」

どこまで…!?
どこまでってこう…なんとなくぼんやりとー…えーっと…。
「ほんの一寸先まで」

内容はちょっと未来が見えるこの目のことです。試験が始まる少し前に文をだして相談していました。今まで言えなかったのは異端だと思っていたから。それに相談してどうなるのかさえもわかりませんでした。
そしてもちろん相談前に綾部くんに…間違えました。喜八郎君に相談しています。ここ最近彼に相談しないと何も決心できない僕です…。情けないいいい…!

「我が父もその父も、更に昔より先読みの力を得て剣の技を磨いてきた。大和家がここまで繁栄したのは力を利用した節もある」
「ではこの目は…」
「本来は長子のが継ぐべきであった」
ごめんなさい兄上ええええええぇ!!!!!

「私から祖父・曾祖父までは一人子であった故、お前にいくとは思わなかった。しかしあれは些か浅慮なところがある。丁度よかったのではないだろうか」
「…」
僕は無言で頭を下げた。兄上に申し訳なさすぎるうううううおおおおお…!!!!

「気にとめることはない。そのまま忍びの道を精進せよ」
「はっ」

それから、と続けた。
「見たものに捕らわれるなよ」
「…え?」
「所詮未だ来ぬものである。お前が見たものは未だ見ていないものだ」

???
見たものは見てない?
み、まだ…え?
見たけど見てないもの?
見てないから見ていないもの?
こぬ?ま?み?
え!?

「恐れながら父上、私の理解力の低さ故に――」
「そのうちわかる」
「…はっ」

もう話は終わりかなと思っていると、父上は目を閉じて考えこんでいらっしゃった。
ままままままだなにか!?
そうビクビクしてると言いづらそうに口を開く父上。今日はよくおしゃべりになられるなー。

「お前のことだから他言はしていないだろうが」
あ。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!
ぼくすごくいっぱいの人に話しちゃってるかも!!話してなくても噂まわってそう!!ひいいいいい!!!!
誰が知ってるかな…えーっと三反田くんでしょ、あや…じゃない、喜八郎くんも知ってるし保健委員はみんな…知ってるのかな…?
だとしたら善法寺先輩に川西くんに、鶴町くんと猪名寺くん…六人…。
うわあああああ口が軽い僕をお許しくださいいいいいいいいいい!!!!!!!

「申し訳ございません父上」
「話しているのだな」
「…はい」
「今は親しい友でもいつかは別離の時が来る」
「以後気を付けます」

正直なところ別離の時がどんなものか想像つきません…。
うーん。今はわからないことが多いようです。
そういうのってやっぱり経験を積まないとわからないんでしょうね!!父上かっこいいです!尊敬します!!

「剛」
「はい」
「精進するがよい」
「はっ。大和家が第二子剛、名に恥じぬ成果を…必ずや」

父上はひとつ頷いた。
「話は以上。ゆっくりと休め」
「はっ」

僕は急いで自室に戻った。
はああああああ!!!僕がんばりますうううううう!!!!
父上のあの言葉!!最後の言葉!!!
改めて言われると気合入っちゃうじゃないですかあああああああ!!!
と、僕は自室で顔をおさえてごろんごろんとしていた。

父上が僕の去った後、ぼくと全く同じことをしているとは知らないまま。

あ!そうだ兄上!!
あ、いや、全然そんな…忘れてたとかじゃなくて!!
様子はどうだろう!?見に行きたいなー。でもお薬飲んで寝てるかな?
随分怪我をなさっていたし…。少しだけでも剣のお手合わせしたかったな…。

学園に帰るのは明日のつもりだし、僕も少しゆっくり休んでいこう。
そう思っていると障子の前に人影があらわれた。

「剛、夕餉ができましたよ」
「はい母上、すぐに参ります」
「怪我の具合は?」
「大したことはございません」

ほんの少しの会話をしながら居間へ向かうと叔父上が待っていた。
「やあ」
「叔父上、此度は山賊どもからお助け頂き誠にありがとうございました」
「どういたしまして。大きなけがをしなくて良かったじゃないか」
「…はい」
兄上は動ける体ではないので、自室で簡単に済ませたらしい。

「剛、あなたは立派に将英の命を守りました。多少の怪我は仕方ありません。だから負い目ばかり感じず少しは自身を持ちなさい。あなたの悪い癖ですよ、マイナス思考なところ」
母上はお優しい。私一人ではどうもできなかったのに、叔父上に助けていただいてようやく命拾いできたのに…。
僕泣きそうです。
ううううう!!いえ。この歳で泣くなんて恥ずかしいことはいたしません!!涙は最愛の人が死んだときだけだと父上から言いつけられているので!!!

「さあ、食べましょう」
「はい」
「いただきまーす」

「そういえば父上は…」
「町内会長さんに呼ばれていきました」
「こんな時間に?」
「ええ。あ。父上で思い出したけど、あの人が突然救急箱を玄関に置いたのには驚いたわ。まるであなたたちが怪我をすることをわかっていたみたい」
「…え?」
「まさかー。自分で怪我でもしたんじゃないの?」
「そうかもしれませんね」
あはははは
と笑う二人に、僕はどういう表情をするべきなのか全くわかりませんでした。
…ということはですね。母上も先読みのことは知らない…と?

叔父上は忍者隊の首領ですしね…。
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