「綾部」
「喜八郎」

大和が頷き返す。

「綾部」
「喜八郎」

少し間をおき、大和が頷き返す。

「あや──」
「だあああああああ!!!何をやっているんだ貴様らは!!一体何度そのやり取りを繰り返すつもりだああああああ!!!!」

「…」
「うるさいよ滝夜叉丸」

「うるさい!?うるさいだと!?お前たちの延々と続く謎のやり取りの方がうるさいわ!!!」

「…すまない」
「剛が謝る必要はないよ。勝手に騒いでるだけだから」

「勝手にではない!!お前たちが会話らしい会話をしていないからだろう!聞いているこっちがイライラする!!何がしたいんだ!!!!」

いくら器の大きい私でも我慢ならん!!そこに直れ!!!
と、地団駄を踏みながらいうと大和は正座、アホ八郎は胡座をかいた。

「それで!お前たちは!何が!!したいんだ!!!」
「ただ綾部に──」
「喜八ろ──」
「それだあああああああ!!!!!」

思わず自分の美しい頭を抱えてのけぞった。

「それだ!!喜八郎!貴様が会話を成り立たせていないのだ!!!お前が普通の返事をしてやらないからこうなっているのだ!!!何がしたい!!」

再びダンダンと足を鳴らして問うと、このアホはぷいと明後日を見た!
「アホ夜叉丸には教えてあげなーい」
「なああああああにいいいいいい!?」

「平、落ち着け。綾部も冷静に」
「僕冷静だもーん」



「剛、綾部の名前は喜八郎だよ」
私を落ち着かせようとする大和の袖をつまみながら、喜八郎はごくごく当然のことをのたまった。
「…知っている」
私も知っている。


「僕は剛を名前で呼んでるのに剛が僕を名前で呼ばないのは不公平だと思いませんか」
「不公…平?」

…ああ。なるほどな。このアホは大和に名前で呼んで欲しかったのか。

「だったら最初からそう言わんか、アホ八郎」
「うるさいカス夜叉丸」
「なんだとおおおおお!!!???」
「…」


「剛って呼ばれるのイヤだった?」
「そんなことは…ない。しかし…」

ううん…。と大和は黙った。
考えが纏まったようで、しばらくしてから布の下の口が動いた。

「名前は…親から戴いた大切なものだ。そう誰にでも呼ばせるのはよくない。大事な人に呼んでもらうため、とっておくのがいい」

「剛は僕の大事な友人だよ」
「…もっと先にもっと大事な人ができる。だから──」
「大和は名前を呼びたくないのか?」

突然会話に入ってきた私に、不思議そうな視線をよこす。

「大和は名前で呼ばれてもいいのに、お前は相手を名前で呼びたくないと。そういうことか?」
「いや…そうではなく…」


「私たちはこれから忍びになるんだ。学園時代の数少ない、親しき友くらい名前で呼び合っても構わんだろう」
「…」

しばらく間を置いて大和は頷いた。


「剛、剛」
「どうした……き、喜八…郎…」

名前を呼ばれた喜八郎は満足げにニヤリと笑った。
やれやれまったく、世話がやける。

「剛ー。剛ー」
「…」
恥ずかしいのか、呼び慣れていないからか普段から話さない大和はさらに黙っている。


「僕トシコちゃんのところに行ってくるーん」
かなり上機嫌になった喜八郎は押入の踏み鍬を取り出した。

「あまり深く掘るなよ」
「んー」

嬉しそうな同室の後ろ姿を見送る。

「平、礼を言う。ありがとう」
「平ではない。滝夜叉だ」
「…」
「光栄に思えよ」
「あ、あぁ。滝夜叉丸」

こちらも嬉しそうに目を細める同期に、フッと笑ってやった。
やはり私は格好いい。

そういえば
「剛、何か喜八郎に用があったのではないか?」

言ってやると、剛は思い出したような顔をした。だが、もういいのだ。とでも言うように話す。

「綾部の掘った落とし穴で平…た、滝夜叉丸が怪我をする…夢を、見たから…」
「夢?」
「よく…正夢をみる」
「なにい!?」

つまり私が喜八郎なんぞの落とし穴に引っかかると!?
それはならん!今上機嫌の喜八郎は、巧妙で深い穴を掘るに決まっている!

「急いで喜八郎を追いかけるぞ!!」
「しかし…女性のところへ行っているなら──」
「トシコちゃんは落とし穴のトシコちゃんだ!!!」
「!!…こっちだ」


喜八郎おおおおお!!!!!
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