バレンタインにぐだくだ



バレンタインなど滅んでしまえ。


「なぁ左──」
「すまん剛、僕は今から町へ行って甘味を貰ってくる」
「…あぁ」

行ってくるがいいさ、好きなだけ。
南蛮だかよくもしらん異文化を易々と信じ込みおって…。
貴様は町へ行って好きなだけ甘味を貰ってくるがいいさ。おかげでお前の友人はここで一人ぽつねんとしているぞ。とても可哀想な状況だぞ。

どうせ左門は町に好きな女でもいるのだろう。齢十二の分際で生意気な。私も同い年だがな。同い年だがあいつは生意気なのだ。

「実際同い年といっても私の方が生まれは早いのだぞ?やつが何の月かは知らんが私は水無月生まれだ」

「へー。そうかそうか」
「左門って獅子座でしょ?」
「ああ。俺と一緒」
「獅子座は七月末から八月末辺りだな」
「そんな変わらねぇじゃねぇか」

「何を言う!一月も違うぞ!もしかすると二月も生まれは違うかもしれんではないか!!」

はぁあ。つまらん。
私はぐてんと寝転がった。
一体どうしてこんな大事な何もない休みに愛する友人は町など行くのだ。せっかくこうして他の者らを集めて皆でぐだぐだしようとしていたのに。何故今日がバレンタインデーなんだ。

「作、左門について行かなくて良かったのか?」
「あいつが来るなっつったんだ」

そりゃ来てほしくはないだろ。逢い引きなんだから。

「食堂の方から変な匂いがするぅ…」
「くのたまたち今年は何作ったんだろうな」
「僕が食べさせられなければ何でもいいさ」

とか言いながらどうせ孫兵はくのたまから黒い甘味を貰うのだ。私は知っているぞ。去年も一昨年も頬を紅色に染めた同い年のくのたまから風呂敷包みを受け取っていることを。

「そして貴様は何の躊躇もなく委員会の生物たちのエサにしていることを!!」
「剛が何か騒ぎ出したぞ」
「孫兵ー。何か言われてるよー」
「ジュンコ可愛いよハァハァ」
「駄目だ。聞いてねぇ」
「剛うるさい」

はぁあ。つかれた。

「左門ー、左門ー。我が愛する友人よー。私の世界は貴様一人とて欠けてはならんのだ。愛すべき友人全員が揃わねば私の世界は不完全なのだ」

じたばたと手足を動かし体全体で不満を訴える。

「左門が足りん」
「足りんのはてめぇの頭だ、この脳タリン。よくそんな恥ずかしいことさらっと言えるな」
「脳タリンだからな」
「のクセにい組だけどね」
「あぁジュンコ、どこへ行くんだい?」
「もう一人の変ない組がどっか行くぞ」

目の端でジュンコを追いかけ出て行く孫兵を見送る。
あぁあ。皆一緒じゃなくなった。

「さて、僕そろそろ委員会行くから」
「僕も当番だ」
「俺も暇だし筋トレしよ」

なぁんだ、皆それぞれ予定があったのか。私の頼みでわざわざ集まっていたのか。皆忙しいのか。

なぁんだ。

「俺は用事ねぇからもう少しここにいていいか?」
「…ん?」

てっきり一人ぼっちかと思っていた。
「作…べぇ」
「俺はいちゃいけねぇか?」

「そんなことはないが…。委員会はないのか?」
「今日は何もねぇ。たまには二人でぐだぐだすんのもいいだろ」

ニカッと笑う作。

「仕方ないな。では私と二人でのんびりまったり過ごすことを許してやろう」
「元々おめぇが呼んだんじゃねぇか」
にしし…と笑いながら隣に寝転がってくる。

そうだな。何人かでだらだらするのもいいが、二人だけでだらだらするのもいいかもしれない。


「富松せんぱーい。くのたまが呼んでますー」
「え?」
「貴様もか!この裏切り者!!」

やはりバレンタインなど滅んでしまえ!!
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