君の手にあるものが欲しい



学園の周りを、今日も機嫌良く歩く。
今朝は兵助や勘衛門にも最近機嫌が良いなと言われた。
八はよくわかっていなかったようだが…あいつは少し鈍感なんだ。雷蔵はすぐ気付いていた。理由もだ、私に注意をしたほど。

そりゃあ機嫌も良くなる。寝る前はその日の反応を思い出すほど。
暇があれば今日はどんなちょっかいをかけてやろうかと考えるほど。

これは恋だと言ってもいい。
ただ、あの子はまだ男色なんて否定するだろう。私はこんなにもお前でいっぱいだと言うのに。

今日三年は確か女装で門の前に固まっていたから、町まで行って実習だろうな。何かの試験だろうか?もう授業はないし、様子を見に行こう。



変装をといて素顔で町を歩く。
さっきから用具の富松や、何人かの化粧のつたない者とすれ違ったが…誰も私だと気付かない。
きょろつくものや不安げな顔がよくあるが、どういった試験だろう?

「そこのお嬢さん、落としましたよ。」
「あ、すみません。ありがとうございます。」
聞き覚えのある…いや聞きたいと望んだ声がした。
声変わりのまだな少し高い声。わざとなのか、恥ずかしがっているのか、少し声が上擦っている。
そして足に包帯を巻いていた。

「おや、足に怪我を」
「そうなんです。だから今日は少し歩きにくくて…。」
私ったらドジだわ。なんて言う剛。
「よければそこの団子屋で休憩なさい。」
「ありがとうございます。」
なるほど、男に茶店へ誘わせるのが試験なのか。それで皆不安そうな顔をして優しい男を釣っていたんだな。確かに以前そんな感じのことをやった気がしないでもない。
そんなもの、私がいくらでも成り代わってやるのに。

今日は一人で町に?
いいえ、友人と来たんですが…はぐれてしまったようで。
などと会話をする。
つまらない。その席を私に譲れ若いの。
そう思うが早いか私は行動にうつる。

チリン…
目の前で糸をつけた小銭を落とす。
「あ、そこの方、小銭を落とされ…あれ?」
小銭はスルッと剛手を抜ける。
するするする…。

とすん
「いたっ…。」
「どうかなさいましたか?お嬢さん。」
まさか私の尻に突っ込んでくるとは…誘っているとしか思えないじゃないか剛。
「す、すみません!小銭を落とされたので拾」
「おや貴女は!久しいじゃないか!!町まで来ていたんだね!」
「え?」
「今日は何をしに?簪買いに?それとも紅を?親御さんは元気かい?あぁ、足に怪我をしているじゃないか!さぁ私がおぶってやろう!」

スッと持ち上げる。まだまだ軽いな。
「ぅわ!え?あの、お…お待ちください!」
ちらと見た青年はテンポについていけず、ぼけーっとこちらを見ているだけだった。


「そうだ、お腹は空いていないかい?美味しいお団子屋を見つけたんだ!」
「あの、そ…それより降ろしてくださいまし!私は一人でも歩けます!」
「無理はしてはいけないよ、私は貴女を落としたりしないさ!」
「あ、その…申し訳ありませんが、人違いでは…ございませんか?」
「さぁ着いたぞ!」
「ひ、人の話を聞いてください!!」
ふふ、顔を真っ赤にして言っても可愛いだけだぞ剛。

「すまない、みたらしと草団子を一つずつもらえるかい?」
「まいど!」
持ち上げた時と同じくスッと降ろす。
「足元に気をつけて。」
「わざわざありがとうございます…。私…自分で歩けましたのに…。」
未だ赤くして言うのに、ただ笑顔を返す。

「怪我している女性に手を出さないなんて、男が廃る。」
「まぁ、優しい方。」
すると看板娘が注文のものを持ってきた。
「草団子をお食べ。好物だろう?」
「へ?どうしてご存知なのですか?」
「私は貴女のことは何でも知っているさ。」
「先ほどといい…やはり人違いをなされているのではありま」
「ごちゃごちゃ言わずにさっさとお食べ。せっかく店員の入れてくれた茶が冷めてしまうよ。」
しゅん…。
とそれは、雷蔵的に言えば子犬がさらに小さくなったように、剛はへなった。
いつも見ているけど、女装となるとやはり可愛い。籠に入れて飼ってしまいたい…。
今度八にこのくらいのサイズの竹籠を作ってもらおうか。いや、食満先輩に作ってもらった方が丈夫そうだな。

それから私たちはちょこちょこと会話をし、店を出た。
「お代まで払っていただいて、申し訳ありません…。」
「ここで女性に払わせる方がどうかしている。気にしないでおくれ。それよりお礼をいただきたいかな。」
「お礼…ですか?」

おいで、と腕をひき家々の影へと回る。
「な…何を…?」
「乱暴なことはしないさ。ただお礼がほしいんだ。」
その怯えた表情…ぞくぞくする。これから簡単なお礼をもらうだけのつもりなのに、もっと色欲的な悪いことがしたくなる。
まだ何もしてないのにこの背徳感…。

「さぁ、どうしてもらおうかな。」
「ど、どうか…無理なことは言わないでください…ね?」
苦笑いして軽く頭を撫でる。手を頭に持っていっただけでピクリとされた。
そんなこと言われたら…そんな反応をされたら、余計にぞくぞくするじゃないか。
天然か?本当に罪なやつだよ。

「目をつむってくれるかな?」
言うと剛はギュッと目を閉じ口も真一文字にし、着物の首元を握りしめた。
あぁ、緊張している剛も可愛らしいなぁ。

そして私は剛に口づける。
ん!?
とくぐもった声を出すがもちろん無視だ。そのまま深く深くしていくと胸をドンドンと叩かれた。これくらいにしてやるか。

「ぷはっ!なっななな何を…するのですか!!」
「おや、ファーストキスだったかい?」
「そ、そんなここここと…!」

ガサッ
「あら?剛子ちゃん?こんなところで何をしているの?」
「三之す…お三!あなたこそこんな所で何をしているの!?」
「町が私から逃げていくのよ。」
「……。」
またかよ。と極小さな声で聞こえた。次屋のお得意の迷子発動でまたも剛との良い時間を奪われてしまった。
まぁいい。今回は大分な収穫だ。女装は見れたしあんな顔やこんな顔、口吸いまでしてしまった。
これ以上やると雷蔵にたこ殴りにされそうだ。
「あぁ、いつの間にか時間が経ってしまったね。私はそろそろ帰るとするよ。またね、剛子ちゃん。」

そして返事をさせる間もなく走り去る。カッコいいだろ?
小さく
「お前課題は?」「まだ町にも行ってないのにまだだって。」と声が聞こえた。




「鉢屋。」
学園に帰る途中、先生に呼び止められた。おや?これはもしかしたら怒られるかもしれないな。
「はーい、なんでしょう?」
「あれは三年の試験なんだ。勝手な行動はするな。」
「知ってまーす。すみませーん。」
「…はぁ、お前が大和のことを気に入っているのは少し前からわかっていたが…。最近は少し酷くないか?」
「酷くないですよー?まぁ、私も程ほどにしておきますんで!それじゃあ!」
「…よろしく頼んだぞ。」

そして気配は消えた。
いやー、今日は大漁だな!
私だったことは明かさないでおいてやろう。
いや、わざと明かしてもそれはそれで面白いかもしれない…。口を抑えて真っ赤な顔をするところが見れるかもしれないなぁ。
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