豪炎寺という男が奏でる音は、不動には眩しすぎた。チームのキャプテンである円堂もまた眩しかったが、豪炎寺の場合は機械的なものを感じた。まるで人間臭さを感じさせない彼は不動にとっては初めてのタイプで、最も苦手とする人物となった。

 他の連中とは違い不動を邪険に扱うこともなければ、むしろ普通にチームメイトのうちの一人として接してくる。当然『仲間』から不動がどういった人物なのかは聞かされているはずであるのに、全く気にした様子はなかった。
 不動は困った。今まで面倒な輩は適当にあしらっておけばいいものだと思っていたのに、豪炎寺にはそれが一切通用しなかった。嫌味をぶつけても何ともないような顔をしてこちら側にぐいぐいと入ってくる。そのくせこちらから押し入ろうとしても向こうの壁は果てしなく分厚くて、とてもじゃないが不動には壊せそうになかった。

「ナイスパス、不動」

 綱海のように暑苦しく肩を組むこともなく、風丸のようにハイタッチを交わすこともない。ただ一言、それを言うためだけに前に現れて、いい終わればさっさと自分のポジションに戻っていく。きらきらとした音を不動の元に置いて、再びボールを追いかけて走り出した。
 眩しかった。彼が奏でる音も、ボールを追いかける背中も、時折見せる柔らかい笑みも、思い出せば勝手に涙が出てくるほどにどれもみんな眩しかった。眩しすぎて、豪炎寺を見るのが怖かった。

「不動」

 自分の名を呼ぶあの音が怖かった。そのきらきらした音が自分の名を読んでしまうのは何だかとても不釣り合いであるような気がして、嫌気がさした。
 何故あの男にこうも振り回されなければならないのか、不動は不思議でたまらなかった。向こうに何らかの意図があるならば対処できたかもしれないが、最悪彼は無自覚である。なんてタチの悪い話なのだろうか。バカバカしくてヘドが出る。

「なーに、豪炎寺クン」

 肩を組んで鼻先が当たるくらい顔を近づけてやった。豪炎寺の身体は一瞬硬直したが、表情は大きくは変わらなかった。相当嫌なのだろうと思うと、自然に口元が綻んだ。自分は今、豪炎寺の壁の中に入っている。豪炎寺の吐息と惑う視線がその事実を何よりも証拠付けた。

「俺はさァ、アンタが死ぬほどわかんねえよ。豪炎寺クン」

 近くで見る豪炎寺は綺麗だった。同い年の、ただの中学生だというのに、とても綺麗だった。眩しかった。吐息も、長い睫毛も、色素の薄い髪も、ほんのり焼けた肌も、みんな眩しかった。
 いつかこのきらきらした何かが不動を包み込んでくれたなら、そう思った自分が何よりも怖かった。




title by ギルティ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -