※浅雛が死にたがってる。
※椿父捏造








 嗚呼、また今日も増えてしまった。
 そう小さく呟いたのは、殺風景な部屋の隅で一人蹲る浅雛菊乃だった。その部屋には必要最低限のものしか置いておらず、ベッドの他、机と椅子しかない。しかも窓がない所為で時間帯がわからなくなる程暗くなり、闇に包まれてしまっている。
 何故浅雛がこのような部屋にいるのか。何故家具が少ないのか。何故、窓がないのか。
 部屋を少し見渡せばわかるのだが、壁紙は既に剥がされていてコンクリートが剥き出しになっている部分があったり、椅子の足が折れていたり、机が使い物になる状態ではなかったりと、この部屋は荒れていた。これらは全て、浅雛が行った行為である。
 以前は窓もあり、家具も今よりはかなり部屋に置かれていたりしたのだが、浅雛の病が発症してから、家具も窓も目茶苦茶に破壊し、浅雛の怪我が絶えなかった。だが家具や窓がなくなった今も、浅雛は部屋の中で荒れ続けている。壊せるものは全て壊し、自分の声が出なくなるのに気づかずにただひたすら叫んでいた。



***



「父さん、もう……やめてください、」
「そんなわけにはいかん。はっきりとした症状を見なければ的確な対応が出来ないんだぞ」
「ですが……!」

 巨大なスクリーンには浅雛が一人荒れ狂う姿が映し出されており、その前で椿佐介とその父が何やら揉め事を起こしている。ここは椿の父が勤める病院の一室であり、極一部の人間しか入れない格別な部屋だ。そして、この部屋は今や浅雛の病についての研究室のようになってしまっている。
 椿はここの部屋が大嫌いだった。あんなにも愛おしかった彼女を、いつもすぐ隣にいた彼女をそのスクリーン越しにしか見れない事が不快に感じた。そして、あのような姿の彼女しか見れない事にも。
 浅雛が一人苦しんでいるのにも関わらず、椿の父や研究家等が興味本位でまともに救おうとしないのだ。異例な症状である浅雛に高い値段を付けて某研究所に売り付けようとまでした。そんな彼等に椿は嫌悪感を抱いた。何故彼女がこのような目にあわなければならないのか。何故彼女なのか。
 そう問い詰めても、答えなど返ってくるはずもなかった。




title by 白群


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