どうやら女子という生き物は、『ホワイトクリスマス』というものに憧れるらしい。
偶然耳に入ってしまったその会話は、近くで話し込んでいるとある女子グループのものであった。デートの時に降っていたらロマンチックだとか、雪の降る中イルミネーションを彼氏と練り歩きたいだとか、そんなもの、そもそも相手の男が居ないと成立しない話だろうに、よくもまあ大した想像力である。
「……妄想すりゃあ寂しくねぇってか」
「んっ? モウソウ?」
「なんでもねーよ」
恐らく、こいつの脳内には『ホワイトクリスマス』などという単語などかけらもないのだろう。下手をしたら、その意味さえ知らなさそうだ。
そもそも、憧れる意味がわからない。ただえさえ寒いこの時期に雪など降られてしまっては、デートだのイルミネーションだのと騒ぐ前に外に出る気でさえ失せてしまうではないか。一面の雪景色など願ってもいない。
「なに、モウソウって、泉がすんのか?」
「クラスの女子。何で俺なんだよ」
「あ〜、女子ってそーいうの好きだよな!なんか、キラキラしてるっつーの?」
それだ。俺が何故こんなにも腹立たしいかって、正しくそれが理由なのだ。今の自分では叶わない夢をキラキラと飾り付けて妄想の塊をでっち上げる。それが変に癇に障るのだ。
「でも俺、ちょっと分かるかも」
「は?」
「だってさ、こうなったらいいな〜とか、こうしたいな〜っつーことだろ? 俺だってあるし」
「……お前はどうせ飯か野球だろ。どこもキラキラしてねーよ」
「えっなんでっ!? キラキラしてんじゃん!」
そんなんでキラキラすんのは俺らぐらいだと目の前の頭を叩く。だいたい、雪が降ってしまえば野球が出来ないのだ。所詮高校野球児にシーズンオフなど関係ない。雪が降らずに、スペースさえ確保できればこっちのもの。日が暮れるまで、夏と変わらず野球に明け暮れることができる。
こいつのことだから、雪が降っても関係なしに野球をやっていそうだけれども。
「……まあ、お前にとって野球と飯がキラキラしてんなら、俺は野球と田島だな」
「まじ!? 俺キラキラしてる!?」
「お前がキラキラしてどーすんだよ」
きっと、あれだ。女子がホワイトクリスマスだのとキラキラした妄想を語って居ることに苛ついたのではなく、俺も彼女らと同じだったということに苛ついたのだ。男だというのに頭の中は女々しいと気付き、自分に腹が立ったのだ。自分が自分に腹を立てるなど、なんと馬鹿らしい。
「なあ田島、今年のクリスマス一緒にケーキ食おうぜ」
「ケーキ! ケーキ食いたい! それじゃあ泉プレゼントも用意しなきゃだ!」
「プレゼントぉ? 男同士でか」
「いーじゃん! 俺泉欲しい!」
「バカか!」
俺たちには多分、女子が夢見るようなキラキラしたものは似合わない。けれど、代わりに俺たちだけのキラキラがある。
きっと、そういうことなのだ。
title by パニエ
申し訳程度のクリスマス