青々と広がるよく晴れた空の下、まだ新しめの制服に身を包み、少し幅の広くなった道の途中でプロンプトは立ち止まっていた。正確には、そこで人を待っていた。そうわかったのは懐かしい景色と制服、そして当時の強敵だった張り詰める感覚からだった。プロンプトは三年間、いつもここで待ち合わせをしていた。時間ぴったりに車でやってくる彼を、この頃はまだ妙な緊張感とせり上がってくる高揚感とともにそれを待ち望んでいたのだ。
「よお、プロンプト」
低いエンジンとともに現れたのは、随分と眠たそうに目を擦るノクティスだった。この国の王子である彼は毎日側付きの運転するお高そうな車でこの場所までやってくる。特別この場所でこの時間に待ち合わせをしよう、と約束をしたわけではなかったが、過去に何度か車でこの道を通るノクティスを先回りして偶然を装ったことがあり、それ以来プロンプトの姿を見た側付きがここで車を止めてくれるのだ。怖い眼鏡の人だと思っていたけれど、『ノクトとの良好な関係を築いてくれて感謝している』という旨のプロンプトへの礼と思われる言葉と、ちょっとした気持ちだ、とおいしそうなお菓子を貰ったことがあるので、プロンプトの彼に対する好感度はなかなかに高い。
「おっはよー、ノクト!」
「テンションたけー」
ふあ、と隠す様子もない大きな欠伸をこぼして、気怠そうに口を開く。その一連の動作がまるで猫のようだと、プロンプトはノクティスの隣に立って何度そう思ったことだろう。
嗚呼、いつもの光景だ。高校生として過ごした、三年間こうして並んで歩いた、眩しすぎるほどの時間。景色ばかり撮っていた趣味の写真が、いつの間にかノクティスとプロンプトでいっぱいになったあの頃だ。
懐かしい、なんて、つい言葉に出してしまいそうになって、隣に並ぶノクティスを見つめながら静かにそれを飲み込んだ。
プロンプトは三十路を迎えていた。十年間何処かに行ったきりだった太陽がまた顔を出すようになって、今日もプロンプトたちに光を与えてくれている。何事もなかったかのように、あの十年間なんて夢だったのではないかと思うくらいに、太陽は当たり前のように登っては沈んで、それを何度も繰り返した。
インソムニアは徐々に元の形に戻りつつあった。シガイの住処と化していたその土地は、人々の手によって少しずつだけれど、確実に回復に向かっている。プロンプトはその復興の手伝いや、知り合ったハンターに着いて行ったり仕事を紹介してもらったりしながら今日までを生きてきた。最近はひとりで写真を撮りに数日ぶらりと出歩いたり、たまに写真関係の依頼を受けたり、ということもしている。被写体のほとんどは景色だ。人を撮ることは自然となくなっていた。
軽快な音楽とともに体を震わせる携帯が枕元で唸っていた。顔を上げることなく手探りで携帯を探しては、問答無用に音を切る。うう、と自身からも唸る声を絞り出して、暖かい布団の中で体をめいいっぱい伸ばした。それからゆっくりと起き上がって、また閉じてしまいそうな目を必死にこじ開ける。あのねぼすけ王子はまだ寝ると駄々をこねる時間帯だな、と無意識に考えて、先ほどの光景を思い出した。何度目かの欠伸をして、目尻に光る雫が太陽に照らされてきらきらと輝いていたあの日々を。
「……ずいぶん懐かしい夢だったね、ノクト」
そして今日もまた、プロンプトの元にも朝がやってきた。当たり前のように、今までずっと、そうしてきたかのように。カーテンの隙間から差し込む光の筋が、優しく朝を告げていた。
頬についた泥を手の甲で拭おうとしたけれど、うまくいかずにただ泥の範囲を広げてしまっただけだった。頬のみにならず、プロンプトは全身泥にまみれ、服は肌に張り付いて酷く気持ちが悪かった。一刻も早くシャワーを浴びたかったけれど、この感覚は嫌いではなかった。水溜まりに反射する自分の姿を見て、ひとつ大きく頷いた。どこからどう見ても無事一仕事終えて来ました、というような様である。理由は別にそれだけではないのだけれど。とにかく今日も一日、プロンプトは仕事のためにあちらこちらと駆け回ったのだ。
「なーに水溜まりと睨めっこしてんだ」
「前のめりになって顔から突っ込むなよ」
突然後ろから聞こえた声に驚いてバランスを崩しそうになったが、大きな手に支えられてプロンプトは無事地面へと着地することができた。振り向けば、だから言っただろう、と呆れながらサングラスを押し上げる懐かしい顔があった。
「イ、イグニス……!」
「おいおい、助けてもらって俺そっちのけで感動の再会ってか?」
嫌味っぽく放たれた言葉とは裏腹に、プロンプトを掴んだ手はそのまま泥で所々固まってしまっている頭を豪快に、けれど優しく撫で回した。
「ごめんごめん! 振り向いたらイグニスがいたからつい!」
「ったく、この歳になっても泥んこだしよ」
「これは仕事を頑張った証拠だよ! 働いた男の勲章ってやつ」
ふふんと鼻を鳴らすけれど、どうやらふたりにはいまいち伝わらなかったようで、もう少し落ち着きを持ったらどうだ、とイグニスに目で言われている、ような気がする。
ノクティスがいなかった十年間、三人は共に行動することはなかった。現場でたまたま会えばお互いの近況を報告しあったりしたものの、意図的に一緒に居よう、と提案することはなかった。プロンプトもそれがいちばん良いのだと思った。寂しくなかったと言えば嘘になるけれど、あの時はそれぞれができることをする時だったのだと、今改めて考えても同じくそう思った。他の二人もそう思っていたのか、夜が明けた後も当時と同じように三人は共に行動することはなかった。ハンターの間で飛び交う噂で二人の話を聞いたり、遠目で姿を見て一瞬足を止める程度で、まるであの頃に戻ったかのようだった。空は明るいし、シガイはいないし、インソムニアは機能しはじめているし、何もかも環境が違うはずなのに、そう思わざるを得なかった。まるで、未だに何かを待ち続けているかのように。
「っていうか、二人ともチョー久しぶりじゃん! どうしたの? この辺でなんか依頼?」
「別件だったけどな。さっきたまたま会ったんだよ」
「同行していたハンターからプロンプトに依頼した仕事について聞いてな。まだこの辺にいるだろうと言っていたから、なんなら探そうかと話していたところだ」
「あっそれって写真の話? すっごい報酬弾んじゃってさー!」
「ああ、絶賛していたぞ。また頼みたいとも言っていたな」
長年趣味を写真撮影に費やしてきたためか、プロンプトの写真を気に入って金まで払ってくれる人が増えていた。今はハンターとして野獣狩りに精を出しているが、そのうちカメラマンとして世界中を駆け回ることを視野に入れても良いかもしれない、なんて思っている。まだまだ当分先の話だろうけれど。
「話し込むのもいいけどよ。こんなちっせえ水溜まり囲ってないでどっか店にでも入ろうぜ」
「それもそうだな。……しかし、プロンプトは一度着替えてきた方がいいんじゃないか?」
「久しぶりに会ったのに呑気に着替えてらんないよ! 早く行こ!」
太陽がゆっくりと沈んで、一日の終わりを告げている。もう少しで空の番人は交代だ。見慣れたはずの夕暮れで、プロンプトは夜の訪れを感じる。風が冷えて、頬についた泥もいつの間にかカラカラに乾いていた。ぼんやりと点きはじめた街灯は、プロンプトたちの道を照らしている。二人の横顔が橙色に輝いて、ひどく眩しい。あの頃の自分がカメラを取り出す姿が見えたような気がして、思わず目を閉じた。
誰もが恐れた、光すら忘れたあの夜が、これからやってくる。ゆっくりと世界を飲み込むように。太陽は地平線の彼方へ眠りについた。
ジョッキいっぱいに入っていた酒を一瞬で飲み干したグラディオラスを隣に、プロンプトは骨つきの肉をひたすらに頬張っていた。イグニスはグラスに注がれた酒と野菜の盛り合わせを交互かつ上品に味わっている。
二十歳を過ぎてからと言うものの、プロンプトはあまり酒を飲むことはなかった。グラディオラスはしきりに酒が飲みたいと愚痴をこぼしていたが、プロンプトは別に飲まなくても困らないくらいには口にしていなかった。ノクティスも同じだったようで、そこにあれば飲むけれど、それより甘いジュースの方がお好みのようであった。けれどまあ三十年も生きれば味覚も好みも変わるらしく、グラディオラスと張れるくらい、とまでは言わないが、そこそこに酒を嗜むようにはなっていた。ここ最近は果物類の酒を炭酸で割って飲むことにハマっている。早くも三杯目に突入したお隣さん曰く「ただのジュースじゃねえか」らしいけれど。
「いやあ、グラディオ飲むねえ」
「この機会逃したらいつ飲めっかわかんねえからな。飲めるときに飲んどくんだよ」
「うわ〜、明らかに体に悪そうな……」
「それを言うならプロンプトもだ。肉だけじゃなく野菜も食べろ」
「わわっ、わかってるよ! もお、ノクトじゃない――」
ノクトじゃないんだから、と言う言葉を、慌てて胃の底に飲み込んだ。けれど気が付くのがひどく遅かった。慌てた自分の顔がだんだん引きつっていくのがわかる。野菜をプロンプトの皿に盛り付けようとしていたイグニスも、ジョッキを仰いでいたグラディオラスも、まるでこの空間だけ時が止まってしまったかのように、しばらく三人は動かなかった。ものの数秒か、はたまた数分経ったのか、プロンプトはイグニスを止めようと立ち上がったままだったので、静かに座り込んだ。今度は足元と睨めっこをしながら、ごめん、と小さく呟く。徐々に周りのガヤガヤとした酒屋ならではの音が聞こえてくるようになった。
「――そうだな。プロンプトは、ノクトじゃないんだ」
「イグニス……」
「別に責めてるんじゃねえぜ。何年も名前呼んでたんだ。癖っつうのはいつまで経っても抜けねえもんよ」
「しかし、野菜を食べなければならないのは変わらないからな。ふたりとも、何か他に追加するものはないか」
「酒頼む。同じの」
「お、俺はいいや……まだ残ってるし」
最悪だ。プロンプトは心の中で何度も繰り返した。せっかくの再会なのに、楽しい雰囲気だったのに、二人に気を遣わせてしまった。思い出させてしまった。昔から言っていただろう。何もないただの一般人なりに空気を読んでいるのだと。自分がムードメーカーになるのだと。彼の笑顔のために、何年も務めてきたことだろう。自分には、それしかなかっただろう。
唇を噛み締めて、溢れ出しそうな何かを必死に堪える。正面なんて向いていられなかった。
プロンプトは生活の中で、いつも傍にノクティスを想っていた。この景色を一緒に見たかった。ここの美味しい親子丼を食べさせてあげたかった。まだまだ賞金稼ぎに各地を駆け回りたかった。イグニスとグラディオラスとプロンプトと、そしてノクティスと、四人でテーブルを囲って酒を飲みたかった。そうやってノクティスを想わなければ、正気でいられる気がしなかったのだ。
何かを待ち続けていたのは、他の誰でもないプロンプトであった。世界に朝をもたらした、不器用で口下手な王子にいつまでも縋っていた子どもは、プロンプトだったのだ。ノクティスと過ごした時間は二人に比べても随分と短いけれど、プロンプトにとってはあの時間が全てだった。ノクティスの隣で見た景色が、プロンプトの世界だった。女々しいと彼には笑われてしまうけれど、ノクティスが居ない世界なんて、あの闇に包まれた十年よりも暗くて冷たくて恐ろしい世界だ。イグニスが手を引いても、グラディオラスが背中を押しても、ノクティスがいないのなら顔を上げる意味を見出せないのだ。
「……おれ、今の生活結構楽しいんだ。自分で出来ること見つけて、困ってる人手伝って……ほら、写真だって、お金払って買ってくれる人とかいるし。イグニスのご飯が食べられないのは寂しいし、グラディオと敵を倒した数競ったり出来ないのも物足りないなーって、思うよ。けど、それ全部含めて、今楽しいなって、思えるんだ」
ひとつひとつゆっくりと紡ぐ言葉たちを、ふたりは黙って聞いている。お待ちどうさま、という声とともにジョッキが四つテーブルに置かれた。
「でもね。最初はノクトがいなくても楽しいって思えるのって、すごく嫌だなって思った。嫌だし、ひどいとも思った。なんか、悪者になった気分っていうか」
「プロンプト、それは――」
「うん、わかってる。……ノクトはきっと、それを望んでるんだ」
手の甲に落ちてくる水滴に気がついて、慌てて手の甲で強く拭った。泥と一緒になって汚れてしまったけれど、そんなことはどうでもよかった。
「だから、あの時みたいに、こうしてひとりで頑張ってたらノクトが帰ってくるんじゃないかなって。似合わない髭なんか生やして、ひょっこり会いにきてくれるんじゃないかなって。一回そう思ったら、なんか楽しくなってきてさ。また今度ノクトと一緒にここに来よう、あの景色をバックに写真を撮ろうって、いろいろ考えるのがすごく楽しいんだ」
へへ、と鼻の下を擦ると、目の前のイグニスは泣きそうな顔をしていた。隣に座るグラディオラスはわからなかったが、先ほど置かれた酒は減っている様子がなかった。自身の顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているのも構わずに、プロンプトは話し続けた。
「今朝は夢に出てきてくれたんだ。ふたりとも高校に入学したてで、俺はまだドキドキしながらノクトが来るのを待ってた。いつもの場所で、イグニスが車を止めてくれてさ。懐かしかったなあ。ねえ、イグニス覚えてる? 俺にお菓子も作ってくれたんだよ」
「……ああ」
「もうね、お陰でイグニスの好感度爆上げだよ。ちょっと怖いな〜って思ってたのに、いやちょっとだよ? ほんのちょっとだけだけど。でもホントはノクトと似た者同士なだけなんだなって、すぐにわかったんだ」
おい、と小さく、プロンプトを制するような声が聞こえた。隣に座るグラディオラスである。大きな体から発せられたものとは思えないほど、頼りない声だった。
「やめろ、プロンプト」
グラディオラスの方を向くと、目は合わなかった。テーブルの上で拳を握って、それは僅かに震えている。
一体、何を制する言葉なのだろうか。プロンプトはわからなかった。この場を湿っぽい雰囲気にすることなのか、ノクティスの名前を出すのをやめてほしいのか、現在のプロンプトの生活のことなのか。考えてもわからなかったから、頷くことができなかった。
「……俺、楽しいよ、グラディオ」
「…………」
「たのしいんだ。もっと強くなろう、もっと頑張ろうって思えるんだ。だから、俺――」
「思い込むようにしている、の間違いだろう」
グラディオラスと比べて冷静で静かな声が鼓膜を震わせた。イグニスに視線を移すけれど、プロンプトには感情を読み取ることはできない。ただ降りかかるイグニスの重圧を受けながら、ただまっすぐとその濁ったサングラスを見つめた。
「後につらい思いをするぞ、プロンプト」
掛けられたのは優しい言葉で、けれどグラディオラスと同じようにプロンプトを制する言葉でもあった。
「どうして決めつけるの?」
「わかるからだ」
「どうして? イグニスは俺じゃないよね?」
「そうだな」
「俺のことは俺にしかわからないよ」
そう言うとイグニスは少しだけ俯いて、何か考え事をしているような素振りを見せた。
イグニスの口からはいつだって正解が出てくるから、プロンプトはこの少しの間がいつも怖かった。プロンプトが正しいと思っていても、イグニスが否定するとそれは正しくないものとして部類される気がして、怖かった。
「――俺も、プロンプトと同じだからだ」
ヒュ、と空気を飲む音がした。プロンプトではなく、隣に座るグラディオラスだった。本当に、驚いているようだった。イグニスを見ても嘘を付いているようには思わなくて――彼が嘘を付くような人間だとも思ってはいないけれど――思わずへえ、といつもの調子で声を出してしまった。
「だから、俺が言うのも説得力がないがな」
力なく笑ったイグニスは、何もなかったかのようにジョッキに手を伸ばした。グラディオラスが飲んでいたものと同じものなのでかなりアルコール度数が高いのだろうけど、まるでエボニーを飲むようにその酒を飲んでいる。酔いたいんだろうな、とプロンプトは根拠なく思った。酔っていたことにすれば、後々言い訳が楽になる。なんて大人はずるいのだろう。
「俺は同じだなんて言わねえぞ」
ずっと黙っていたグラディオラスが、口を開いた。今度はイグニスとプロンプトがグラディオラスに視線を向ける。鋭い目が、どこか遠くを見つめていた。
「あいつは胸張って生きろっつったんだ。それを守れなくて何が王の剣だ」
ひどく言葉が刺さった。十年前のどの戦闘よりも、それはもう深く、心臓に。
「俺はお前らとはちげえ。前向いて、胸張って、あいつがくれた夜明けを生きる。――ノクティス王子がそれを望む以上、それを全うするのが王の剣としての務めだ」
先ほどのプロンプトを制した言葉とは裏腹にその言葉は力強かった。イグニスに肯定されたと思ったら、グラディオラスはそれ以上の言葉でプロンプトたちを否定した。俯いて後ろを振り向いてばかりいるのは間違いだと、確かにそう言った。
「それでは俺は、王の剣失格だな」
「おいイグニス、お前いい加減にしろよ」
「本当のことだろう」
「イグニス!」
ガタンと音を立ててグラディオラスが立った勢いで椅子が後ろに倒れた。プロンプトは倒れた椅子を直そうともせずにまだグラスに残った酒を見つめる。怒鳴るグラディオラスも、それに動じないイグニスも、プロンプトの視界にはなかった。目の前の自分の酒ではなく、ジョッキに入った酒を一気に仰ぐ。これっぽっちも甘くなくて、それどころかひどく苦い味がする。眉間にしわを寄せて、おいしくないなあと呟いた。
「お前がそんなんでどうすんだ! わかってんだろ! お前がいちばん! わかってやってたじゃねえか……!」
世界は今、十年前よりもはるかに平和で、しあわせだ。だって空は明るい。太陽が人々を上から見守っていてくれている。けれど誰も、あのノクティスがこの夜明けをもたらしてくれたなんて思わないし、どうして夜が明けたのかわからない人も、興味すらない人もいるだろう。
いつだって強くあって、強くあろうとして、堂々と前を向いて、運命に従っていたあの王を。気怠げで、面倒くさがりで、けれどお人好しでおつかいを何軒もはしごして。愚痴を漏らすくせに肝心なことは言えなくて。誰よりも人間らしく生きていたかったひとりの男を、プロンプトはよく知っている。名前を掲げて世界中を飛び回りたいくらいに、彼がどんなに強いひとだったのか語り歩きたいくらいに、よく知っている。だから彼がいない世界は、知らないことばかりだ。
空がどんなに暗くても、インソムニアがシガイの住居と化していても、プロンプトのしあわせはそこにあった。ノクティスがいる世界こそが、プロンプトが生きる場所だった。
それが、プロンプトの出した答えであった。