「あれ、この薬色が綺麗ですね」

 薬草の採集を終えた白雪が薬室に戻ってきた。その奥で薬室長のガラクは何やら作業をしている。机の上には薄い桃色をした液体が入った小さい瓶が日の光に照らされている。

「ああ、お帰りなさい白雪くん。そうでしょう? 後は月光に一晩当てるだけで完成」
「なんの薬なんですか?」
「惚れ薬よ」
「へぇ、って、惚れ薬ですか!?」
「書類整理してたら懐かしいのが出てきてね〜。折角だから作ってたのよ。そんなに手間もかからないからね」

 自慢げに胸を張るガラクは何処か楽しげである。誰にどういった理由で使用するのか気になったが、そこまで聞く勇気は白雪にはなかった。

「さて。これは明日の朝までまでここに置いておきましょう。白雪くん、絶対に弄らないように!」

ビシッと指を突きつけられた白雪は素直に頷く事しか出来なかった。



***



「……なにそれ」
「わからないから木々に聞いたんだ!」
「私より白雪に聞いた方が早いんじゃない」
「それはそうだが、白雪が見当たらないんだよな……」
「何でそんなの持ってるの」
「さっき、急に薬室長に渡されたんだ。役に立つだろうからって」

 翌日、朝早く稽古を終えた木々とミツヒデは頭を悩ませていた。ガラクから渡されたという小さな瓶には濃い桃色の液体が入っている。

「開けてみた?」
「いや、まだだ。開けるか」

 丁寧に蓋を開けると、アルコールに似たキツめの香りが鼻を擽った。

「……危険そうだな?」
「舐めてみれば」
「明らかに危ないだろ……」

 開けたところでそれをどうしようという考えはないらしく、強いアルコール臭を漂わせた瓶をただ見つめている。
 そこへ何故だか楽しそうに満面の笑みを浮かべたオビが飛んできて、二人の間に入った。そして、わざとらしい口調で二人に問いかけた。

「あっれー! 何ですかその薬! あっやしー!」
「あんたが怪しい」
「いやいや、この薬絶対なんかありますよ。って事でミツヒデさんどうぞ」
「どうぞって何だ! というかいきなり出てくるなよ!」
「俺の事なんか気にしないでいいですって。それよりはいっ! ぐびっといっちゃって下さい!」
「誰が飲むか!!」

 いきなり出てくるなりミツヒデに薬を飲む事を催促し明らかに怪しいオビに痺れを切らした木々は小さく溜息をついた。ガラクがミツヒデ宛に渡した薬というのなら飲んでも身の危険はないだろう。しかし、以前薬室でミツヒデがやらかした様に何らかの症状が出てしまうかもしれない。
 どちらにせよ、口にしたくないのは確かである。

「木々嬢ー、旦那に何とか言って下さいよー!」
「俺は飲まないぞ。オビに催促されると余計怪しく見える」
「それじゃあ私が飲もうか」
「そうだなそれがいい………って木々!?」
「えっ、マジですか木々嬢」
「このまま言い合ってても時間の無駄でしょ。ミツヒデ、貸して」
「ちょ、待てっ! 待て木々! きちんと白雪に聞いてからの方が…」
「焦れったい」

 慌てたミツヒデの手から難なく瓶を奪い取り、それを一瞬見据えた後、何の躊躇いもなく一気に飲み込んだ。オビは開いた口が塞がらないといった様子で、一方ミツヒデは血の気が引いていき顔がどんどん白くなっている。当の本人の木々はというと、特に異常は内容でいつもと変わらぬ表情で立っていた。

「あれ木々嬢、何も変わりません?」
「特には」
「びっ、びっくりしたじゃないか木々! 何かあったらどうする……、」
「……ミツヒデ?」

 すぐ側まで駆け寄ってきた筈のミツヒデは木々の目の前で立ち止まってしまった。木々と目を合わせたまま微動だにしない。明らかにミツヒデの様子がおかしい。

「ミツヒデ? 大丈夫……」
「愛してる、木々」
「は?」
「一瞬たりとも目を離したくない、木々……」
「……………」
「ぶはっ!! ちょ、旦那……ッ!!」

 薬を飲んだ張本人を差し置いて何故かミツヒデに症状が現れたらしい。
 取り敢えずこれか何の薬なのかははっきりしたわけだが、なぜ症状が出たのが木々ではなくミツヒデなのだろうか。

「薬室長、何でミツヒデさんに症状が?」
「それはね白雪くん、あの薬は飲んだ本人ではなく飲んだ人と一番始めに目があった人に症状が現れるようになってるからよ」
「それで木々さんは無事なんですね……!」




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オチは埋めた。


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