「俺、絶対旦那より愛せる自身あります」
今日も、窓の外を見るのも嫌になる程の天気である。
「オビ、冗談もたいがいにしろよ。幸せにしてやれるのは俺だし、一番理解してやれるのも、しているのもこの俺だ」
雨音は煩いし、分厚い雲のせいで部屋の中も薄暗いし、なにより仕事に向き合う事を自分の体が全身全霊で拒んでいる。しかしやらねば減るものも一向に溜まるばかりで、それを思うとよりいっそうやる気を奪われてしまう。
「旦那ウザがられてるんじゃないんですか? 異常に過保護ですし。ねぇ、主」
「確かに過保護かもしれんが、これは愛情のうちだ。あいつもわかっていてああいう態度を取っているんだぞ。そうだよな? ゼン」
もしかしたら、働き過ぎているのかもしれない。体がとても重いし、なんだか耳鳴りもしてきた。風邪かもしれない。風邪を引いたんだ。俺は風邪を引いた。
そうと決まれば俺は白雪に薬を貰いに行かなければならない。
「ーーおい、お前ら。俺は薬を」
「どう思います主! ミツヒデさん怖くないですか!」
「嫌われているのはむしろお前だろう、オビ」
こんな酷い天気の日に蝉のような煩い声が聞こえただなんて、今日の俺は本当にだめらしい。
「お前ら……それ一語一句漏らさず全て木々に言って来い!!」
***
「……何、ゼン」
「あいつらお前に用があるそうだぞ、木々。聞いてやったらどうだ。というか聞いてくれ、頼む」
「お断りする」
「木々!」
仮にも王子である俺が頭を下げているというのに、側近のこいつは視線さえ寄越さない。立場が逆な気がするんだが、気のせいだろうか。
「頼む、頼むから一緒に来てくれ!」
「頑張って」
「せめて目くらい合わせてくれよ……」
「あれ、木々さんにゼン! こんにちはー」
「白雪……!」
「さっきミツヒデさんとオビがよくわからない言い合いをしてたけど、何かあったの?」
そういえば、俺は白雪に用事かあった気がするんだが。
「やっぱり木々さん絡みだったんですね! ふたりが凄く真剣だったから木々さんかゼンの事だろうと思って」
「いい歳してなにやってるんだか」
「でも、私もふたりの気持ちわかります! 木々さんすっごく綺麗だし、美人だし、私が男の人だったら絶対彼女さんにしたいですもん!」
「白雪の彼女ならなってもいいよ」
「ほんとですか! やった!」
「……………」
ああそうだ、俺は風邪を引いてるんだ。
白雪、薬を貰えるか。あれ、聞こえてない。白雪、風邪気味だから薬が欲しいんだが。聞こえてないのか、白雪。
ふたりして無視するのは酷くないか。俺の体調は別にいいのか、そうなのか。
いいさ、薬はリュウに頼む事にする。
title by odoro