※監禁描写有り
「君たちは本当に仲が良いね、バーン」
二人しか居ないこの広すぎる空間に、一瞬耳を疑う音が聞こえた。誰と、誰の話をしてんだ?
「なに、君とガゼルに決まってるじゃないか」
当たり前だろう、とでも言いたげなその態度はかなり俺をイラつかせた。あんた、どういう神経してんだ。俺とあいつのどこをどう取ってもいいとこなんてありゃしないだろうに、それを仲が良いだって? 馬鹿にするのも大概にしてほしいものだ。
「特にガゼルなんて、君の事が好きで堪らないんじゃないかな。好き過ぎて、おかしくなりそうだ。ほら、見てよ」
おかしいのはあんたの頭だろうが。そんな台詞が喉まで出かかったが、ぐっと堪える。こんなこと、言えたもんじゃない。
視線を上げると、大きなモニターに映像が映し出されているのが見えた。荒過ぎて、何が映っているのかわからない。
「あそこの、扉の前に屈んでいるのがガゼルだよ。毎日毎日、うるさいくらいに君の名前を叫ぶんだ。助けてくれ、出してくれ、ってね。あまりにもうるさいものだから、更に罰としてしばらく食事を抜いているところなんだ。まあ、以前よりはマシになったかな」
今度こそ耳を疑った。こいつ、何をしてやがる?
「辛くて寂しい思いをしているのは君じゃない。ガゼルだ。君までそんな顔をする必要はないじゃないか。ここは大声をあげて笑うところじゃないのかい? ライバルが一人減ったんだ。これって、すごくめでたいことじゃないのか?」
映像の視点が変わる。さっきのものよりガゼルの姿がよくわかる。ボロボロで、薄汚れて、よりか細くなったガゼルの姿が。ドン、ドン、と不規則な扉を叩く音と、時折聞こえる声にもならない言葉たち。それらは扉を越える事はなく、虚しく地面に落ちていく。
「全く、可哀想な子だ。チームメイト全員の罰を一人で背負うなんて。このままでは彼は死んでしまうよ」
死んでしまう。身も心も、既にボロボロであるガゼルは、その気になれば簡単に死んでしまう。生きる事よりも、死の道を選んでしまう。
早く、早く助けなければ。人一倍弱いくせして、人一倍責任感が強い彼を。今まで共に戦ってきたライバルが、俺に助けを求めている。
足が勝手に動いた。グランが何かを言おうとしていたが知ったこっちゃない。勢いよく部屋を飛び出してガゼルのもとへと急ぐ。
早く、早く、助けなければ。
「君たちは、本当に仲が良いんだね」
title by 白群