※奇病ネタ








 彼はいつもどこか怪我をしていた。膝を擦りむいていたり、頬に引っ掻き傷があったり、酷いときは火傷を負っていたり。そんな怪我をしているのに、彼はそれに気づいていない。此方が一言声を掛けてやると、何でもないように優しくありがとうと言うのだった。

「豪炎寺さんて、元からあまり痛がらないんですか?」
「特別、痛いと感じたことはないな」
「こんなに血が出ているのに? 水、染みませんか? 消毒液は?」
「大丈夫だ、痛くない。それよりすまないな、立向居。毎回付き合わせてしまって」

 そんなことないと大きく首を振る。だって、あの憧れの豪炎寺の怪我を手当してやることができるのだ。こんな特権、逃すわけにはいかない。それに、彼の傷に気づくのはいつも決まって立向居なのである。周りも気づいてはいるのだろうが、恐らくこの状況に慣れている者が多いのだろう。本人が痛くないのなら大丈夫だ、と考えているのかもしれないが、立向居は違った。例え今痛みを感じなくとも、傷口から菌が入ってしまってはもう手遅れなわけで、最悪サッカーが出来なくなってしまうかも知れないのである。
 そんなこと、彼にはあってはならないことなのだと、立向居は気づけばいつも彼の体を気にするようになった。休憩に入ればどこか怪我をしてないか確認しに行き、練習が終わればちょっとした擦り傷も立向居の手で消毒してやる。以前それはマネージャーのやるべき仕事だとしつこく指摘されたが、今では目を瞑っていてくれているらしい。

「豪炎寺さん、少しはご自分の体を気にしてください。これじゃあ豪炎寺さんが絆創膏だらけになってしまいます」
「ああ、それは困るな。気をつけるよ」

 そうやって冗談っぽく笑って見せる豪炎寺に流石の立向居も呆れてしまう。しかし、いつもクールに振る舞う彼からはまるで想像できない、変に抜けている部分を自分だけが見ることが出来るということが立向居を優越感に浸らせた。
 その優越感から、立向居は豪炎寺が怪我をすることを望むようになり、以前より豪炎寺に気を配るようになった。
 彼が怪我をすれば二人でいる時間がより増える。また彼の珍しい一面を見ることが出来る。
 そう思うと、立向居の口は自然と綻ぶのだ。




title by 獣


先天性無痛覚症:痛みを感じなくなる病気


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