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「…随分荒れてるね?」
「これが荒れずにいられるかっての」



なんとか部屋に戻ってきたと思ったらすぐにドサッとベッドへと倒れ込んだシリウスに、ジェームズは苦笑する。水を差し出すも、いらないと言われて仕方なく自分で飲み干した。



「なんかもう…自己嫌悪で死にそう」
「シリウス…」
「はは、なんだって俺は―――…」



ベッドに寝転がり、右手を翳して。
しかしシリウスは最後まで言い切ることはしなかった。
そうしたところでジェームズには、透かしたその手に流れる血を嫌悪しているのだということはわかっていたけれど。



「何が嫌ってさ」



ふっと起き上がり、シリウスはジェームズを真っ直ぐに見つめる。そして綺麗に笑ってみせた。



「あいつらの考えてることがわかっちゃうことかな」
「………」



どうしてジェームズには手紙が送られてこなかったのか。
どうしてピーターには送られてきたのか。
どうしてリーマスには送られてきたのか。

それがどういう意図なのか、手に取るようにわかってしまう。
まるで――――自分がそう、考えているかのように。



「…あーもう、こうやって卑屈になんの嫌いなのに」
「はは、そうだね。くよくよするのは君には似合わないよ」
「なんか馬鹿にしてねぇ?」
「してないしてない。褒めてるんだよ」
「そりゃどーも」



思わず顔を見合わせて小さく笑う。
2人分の静かな笑いが部屋に広がった。
ガヤガヤと下から聞こえてくるパーティーの喧騒。
きっと2人がいなくなったことなど、リーマス以外は気づいていないだろう。



「…ねぇシリウス、子供はさぁ、親を選べないんだよ。それは子供の罪じゃない」
「………」
「だけどね、生き方は変えられる。決して簡単な事じゃないけれど…だけど君はもう、一歩目を踏み出してる」



血を誇り、血だけを貴び、血に縛られた家。
それに疑問を持ち、投げかけ、ぶつかろうとした。
しかし排他的で強硬に根付いているその考え方を、変えようとぶつかろうとさえさせてくれなくて。



「君が悩んで、苦しんで、闘ってるって、僕らはわかってるよ」
「…―――だけど俺は、結局逃げ出しただけだ」



ブラック家の嫡男として生まれ、育てられてきた。
そして自分たちはこのままではダメだと、そう思った
だから変えなければならないのに。
純血主義の根幹の一つともいえるブラック家を、変えられる立場にいたというのに。


自らが当主になるまでの、そのほんの数年さえ耐えられなくて。



「投げ出した…。俺だけが抜け出せたからって何になる?子供は親を選べない…それは、誰よりも俺がわかってるんだ。わかってるのに…!」



それでもどうしても、もう一度帰ろうとは思えなくて。
あのまま暗く禍々しい屋敷で、ブラック家を押しつけられ続けていたら、正気を保っていられる自信がなくて。


純血主義ではないけれど、純血のポッター家の機嫌は損ねたくない。
どこの馬の骨とも知らないピーターはブラック家には相応しくない。
純血だろうと半純血だろうと、人狼のリーマスなど言語道断。


この考え方が歪んでいるのはわかっている。
変えなきゃならないのはわかっている。
だというのに、変え方がわからない。



「…逃げ出したっていいんじゃない?」
「え?」
「こうして逃げ出して、純血主義のブラック家嫡男がグリフィンドールにいるっていう事実が大事なんだよ、きっと。その事を知って、やっぱりこのままじゃダメなんだって思うスリザリン生が出てくるかもしれない」



ギシリとシリウスのベッドへと腰かけたジェームズが、ぎゅっとその白い手を握った。



「僕らはまだ学生なんだ。まだまだ僕らの人生は始まったばかりだろう?」
「ジェー…」
「これからだよ。これから、僕らで変えていこう。
―――君が、この腕に流れる血を誇れるようになるように」



ちゅっと手首の血管の上へと落ちてくる唇。
そのままチラリと上目使いで見てくるジェームズに、シリウスは泣きそうな、それでいて嬉しそうな顔で笑った。



「お前…いい男すぎて泣けてくるね」
「おや、それは光栄だね。それで?パーティーに戻るかい?それともこのまま…」
「ったく、色男の頼みは断れねぇよ」



そうおどけて肩をすくめるシリウスに、ジェームズは了解と天外のカーテンをシャッと閉める。自ら寝転がったシリウスに跨がり、ジェームズはふわりと笑った。



「一緒に変えていこう…一人でなんて、いかせないよ」



そう言って、シリウスの目尻から零れた涙をそっと拭った。





*end*
Angraecum(アングレカム)
花言葉:祈り、いつまでもあなたと一緒



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