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綺麗にハモった三人に、うんうん予想通りの反応だと口角をあげる。立ち上がって信じられない物を見るような目でジェームズを見つめるシリウスに、にこりと笑いかけた。
怒鳴りもせず睨みもしない――できない愕然とした様子が、シリウスの心中を如実に表していた。



「おま…何言って……?」
「使えばいいじゃないって言ったんだよ、パッドフット」



そう言い放ったジェームズの顔を凝視したまま固まるシリウス。
意図をはかりかねて難しい顔をしているリーマス。
視線を忙しなく行き来させるピーター。

悪戯仕掛け人達の様子がおかしいのに気づいたのか、談話室さえ静かになって、目という目がジェームズとシリウスを向いている気さえする。何が起こっているのかさっぱりわかっていないのだが、彼ら四人がやらかすことはいつだって注目の的なのだ。
そんな好奇の視線と痛い沈黙の中で、ジェームズは傍観を貫くらしいと悟ってまだ考えながらも口火を切ったのはリーマスだった。



「…で、でもジェームズ」



ジェームズとピーター、そして談話室の目という目が自分に向くのを感じて、リーマスは口を開いたことを一瞬後悔した。
彼らといることで、視線に晒されることには慣れてはいたけれど、こうも私的なことにまで興味をもとれるとうんざりする。いいじゃないか、ちょっといざこざがあったって。悪戯仕掛け人だって秘密もあれば喧嘩もするし、口をきかないときだってある。
そう内心で愚痴るリーマスだったが、ジェームズを見つめたままのシリウスに気づき、意を決して再び口を開いた。



「もし使っちゃったらそれは…それは僕らが、シリウスを…」
「いや?それはないでしょ」



周囲にはなるべくわからないように慎重にしゃべり出した途端、その言葉はジェームズにばっさりと否定された。三人の訝しげな視線を受け止めながら、ジェームズはにっこりと、しかしどこか冷めた笑みを浮かべた。



「僕は、シリウスを商品として売り出した覚えはないよ」



そんなつもりで言ったんじゃないと言いかけて、自分が言おうとした考え方は、どういうつもりであろうと結局はそこに帰着することに気がついてリーマスは口を噤んだ。

シリウスを商品として売ろうなんて思っていたわけではない。
だけど、送られてきた小切手を使うと彼を家に戻さなければならないから使えない、彼を渡すわけにはいかないからお金は使わない、という考え方自体が、彼を金でやりとりできるものとして認識していることと同じなのだ。

しかしまだ納得いかないのか、再び固まってしまったシリウスの方を窺いながら、でも、でも、とピーターが呟くように訴えた。



「でもだからって、使っちゃうのは…」
「ブラック家に悪い?後ろめたいかい?」



冷たく大きな声を出しながら、しかし笑みを崩さないジェームズに、談話室の温度が急激に下がる。普段は楽しみを提供することに勤しむジェームズの、滅多に見せない側面に、戦々恐々とするグリフィンドール寮。
ジェームズが怒るのはいつも仲間達―――つまり三人に関係することだったために慣れてはいたが、自分達があまりにも目立ちすぎていることにやっと気づいたシリウスが口を開くのと、ジェームズが畳みかけるのは同時だった。



「ジェームズ…」
「それとも何かい?それを使ったが最後、僕らはシリウスに近づけなくなるような素晴らしい呪いでもかかってるのかい?」
「ジェー、もう良いよ」
「そんな便利な魔法があるんなら、是非とも教えていただきたいね!みんなこぞってヴォルデモート卿へ献金するようになるだろうさ」
「ジェームズ!!」



あちらこちらで悲鳴と言うのも忍びない引きつった声が上がり、ガタガタと椅子から転げ落ちたり物を落としたりする音が辺りに満ちる。ピーターも同じ様にひっと悲鳴を上げたが、ジェームズとシリウスは顔色一つ変えず、リーマスは若干顔色が悪いものの動じることはなかった。



「…ジェームズ、落ち着けよ」



周りが動転したことで逆に気が落ち着いたらしいシリウスは、親友の黒髪をくしゃりと撫でた。
自分とは違う、ジェームズの性格を体現しているかのようにあちこちに跳ねるこの黒髪をシリウスは気に入っていた。歪んだ信念が正しいと主張するかのようにあまりにも美しく乱れることのない、家名の通り漆黒である自らの髪が嫌いであるから一層そう思うのかも知れない。
そして今度は、リーマスとピーターの方を見て、笑った。



「ありがとうな」
「…シリウス?」
「ん?あぁ…嬉しくてさ」



どうすれば良いのか、真剣に悩んでくれたリーマス。
自分よりもシリウスを優先してくれたピーター。
ふざけるなと、本気で怒ってくれたジェームズ。

何が自分にとって最善なのかを考えてくれて。
それについて言い争いになるほど話し合ってくれて。
そして何より、結論は違えど、三人が三人とも、それぞれシリウスのことを想ってくれているのが伝わってくるから。



「したらなんか、もうどうでもよくなっちまった」



そう言って苦笑するシリウスに、談話室の温度が戻っていく。
戦闘体勢だったジェームズもシリウスがいいならいいけど、と肩をすくめた。ついで、そこで提案なんだが、と眼鏡をキラリと光らせた。



「せっかくブラック夫人が献金してくださったんだ。ちょいと有効活用してやろうじゃないか」
「有効活用?」
「なにをする気だい?」
「ジェー?」



そのあとに続いたジェームズの言葉に、三人ともニヤリと口角を上げた。




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