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手と手を取り合いテーブルの下から駆け出した彼らは、とても眩しく、きらきらと輝いていた。





【You need I love you】





「…先輩方、とてもお幸せそうだったな」



パセリからの帰り、夕日に照らされたレンガ道をのんびりと歩きながら、聖川がぽつりと呟いた。そう言う聖川も嬉しそうに口が弧を描いていて、お前もね、と思いながらこくりと頷く。



「そうだね、ランちゃんにならレディを安心して任せられる」
「あぁ…あんな困難を共に乗り切った二人だ、俺たちの助けなどいらないだろうな」
「なに、お前もしかして寂しいの?」
「…少しな。学園時代から、七海から頼られるのは嫌いじゃなかった」



素直に少しだけ顔を曇らせる聖川に苦笑する。
あの、おっとりしていておっちょこちょいで気が弱くて、だけど音楽に対しては決して妥協しないレディのことを、聖川が妹のように大切に思っているのは知っている。もちろんオレにとっても彼女は特別な存在なんだけど。



「これからはきっと、恋愛相談にきてくれるんじゃないかい?」
「恋愛?それならばお前の方が適役だろう」
「どうだろうね…レディはお前に相談しに来るとオレは思うけど」
「お前でなく?なぜだ?」



あんな歌う人間の深くを、良くも悪くも抉ることのできる曲を作れてしまうレディだから。あの子はなんだかんだ、人を観察する力は鋭い。
だからこそきっと、あの子はオレには恋愛の相談はしにこないだろう。



「そりゃ、オレの愛は大勢に向けてのものだからね。すべてのレディたちへの愛ばかり囁いているオレに、たった一人の恋人に対する愛についての相談なんてナンセンスだろう?オレに相談しにきても無駄だって、レディは気づいているんだよ」



―――お前もわかってるだろ?
そう言って同意を求めるも、聖川は夕日が眩しいのかなんなのか、険しい顔のままだった。おや?と思いその顔を覗き込もうとすると、唐突に聖川の歩みが止まる。



「それは、以前の話だろう?」
「え?」



同じく立ち止まって振り返る。
問いの意図が掴めず問い返すと、すっと片手を握られた。



「…今は、お前もわかっているはずだ。たった一人の恋人への愛というものを」
「っ、」
「わかっていてくれるのだろう?」
「聖川!」



持ち上げられた手の甲に、いとおしそうに頬を寄せられる。そのまま下から切れ長の目に流し見られ、カッと頬に熱が集まるのがわかる。思わずその手をぱっと振り払った。



「なにを馬鹿なこと言ってるんだか」
「顔が真っ赤だぞ、神宮寺」
「夕日のせいだよ!言動だけじゃなくてついに目まで老眼になったんじゃないかお前」



くるりと背を向けて一人で歩き出す。しかしすぐに追いついてきた聖川は、再びそっと俺の手を握った。こんなところでアイドルが二人、恋人繋ぎで歩くなんてマズイだろう。そう思いつつ、それでも今度は振り払うことができない。きゅっとその手を握り返した。


さっき見た、手を取り合って走り去っていった二人が、忘れられなくて。



「………」
「神宮寺…?どうした?」
「…色々、考えたんだ」
「うん?」
「ランちゃんとレディが、あんなに辛そうで苦しんでいたのに、今はひどく幸せそうだったから」
「………」



お互いを信じあって、まっすぐ未来に向かって走り出す二人が眩しくて。迷いなく愛しあい、輝きを放つ二人が羨ましくて。

―――オレは、もし同じ事態に直面したとき、どうするだろうか?



「そうだな…俺たちは男同士。きっとこれから、様々な壁にぶち当たる。悲しいことも、辛いこともきっとたくさん起こるだろうな。…先輩のように、一緒にいない方がいいと思うこともあるだろう」
「うん、そうだね」
「それも確かに、一つの手だろう。離れてしまうという選択肢もないわけじゃない」



相手のためを想って、身を引いてしまう。誰よりもなによりも大切だからこそ、傷つけてしまう自分から遠ざける。
それはある意味、最大級の思いやりで、最大級の愛情表現なのかもしれない。
だけど―――…



「俺たちはもう子供じゃない。お互いの立場がある。守らなきゃならないものがある。わかっている。わかっているが―――…しかし、それをすべて承知の上で言わせてほしい」
「聖川?」



消える靴音。
ぎゅっと力の入る手。
こちらを見る、真剣な顔。



「俺は、お前からもう二度と、離れるつもりなどないぞ。なにが起ころうと、どのような思いをしようと、この手を離すことなど考えられない」
「っ、」
「幼い頃から、俺に色々な新しい世界を教えてくれたのはお前だったんだ。そのせいで今はもう、お前がいなければ俺の世界には色がつかないんだからな」



どうしてくれる、そう低く甘い声が優しく囁いた。
繋がれた手の甲に、ちゅっと唇をつけられる。
なぜだかきゅうっと目蓋の奥が熱くなって、ぎゅっと眉を寄せた。



「それにお前は、自分のせいで俺になにかあったら姿をくらませそうだから言っておくぞ。
―――俺から離れることは、絶対に許さない」



繋いでいた手を引っ張られ、ふわり、抱き締められる。



「俺がこの世でなによりも耐え難いのは、お前が俺の隣からいなくなることなのだから」
「…っ、」
「俺のためを想うのなら、傍にいてくれ。
…―――だから、泣くな、レン」



オレよりも少しだけ低い肩へと顔を埋める。
さらり、頭を撫でられた。



「…泣いてなんかないよ」
「あぁ、そうだな。わかったから、そう震えるな」
「ただ、お前が真面目な顔してクサイこと言うから笑ってるだけだ」
「普段のお前には敵わんがな」



くすくすと笑う聖川のシャツを、ぎゅっと握り絞める。
深く息を吸うと、オレとは違う、落ち着く畳の香りが胸いっぱいに広がった。



「…ねぇ、オレは、めんどくさいよ」
「承知の上だ、何年の付き合いだと思ってる」
「実家にだって嫌われてる。今まで誰に愛されたことも、誰を愛したこともない欠陥人間なんだ、わかってる?」
「………」
「だから、そんなことを言われると本気で信じてしまう…あまり期待させないでくれ」
「…期待してくれて、信じてくれて構わない。俺は本気なんだから」



ぎゅっと抱き締めてくる腕に力がこもる。
はっきりと言い切られたそれに、今度は本当に涙が零れた。



「お前は欠陥人間なんかじゃない…俺は、お前が初恋なんだから。お前はずっと、愛されてきたんだよ」
「…そんなの、知らなかった」
「他のみんなだってそうだ…お前が気づいていないだけで、お前を愛している人間は大勢いる」



頭の上へと落とされる口づけ。




「それでもわからないというのなら、俺がお前に教えてやろう」
「…お前が?」
「そんな顔をするな」
「真斗、」



顔を上げると、困ったように、いとおしそうに笑う聖川。

一瞬だけ重なる唇。
触れるだけのそれは、けれどなによりも幸せで。



「愛している、レン」



ぎゅっと握られた両手を握り返す。
この温もりを知ってしまった俺は、きっともう、手放すことなんてできない。





*end*

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