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 現在、午後十一時を過ぎたところ。そもそもアップが日付超えるんじゃないかって言われてた撮影だったのに、この時点でもう自分ちの前に立ってるってだけでぼくかなり頑張ったと思う。もうぼくの誕生日あと一時間もないよ!でもぼく気付いちゃったんだよねえ…早く帰れとは言われたけど、どこに、とは言われてないってこと。でも気付いた時にはもう自分のマンションが見えちゃってたし、とりあえず帰ることにした。誕生日にランランに会えないなんて絶対嫌だから、どうかこの選択があってますように…!まあ間違ってたところでランランのアパートまで押し掛けるけどね!
 さて、勝負の時だ。鍵を差し込みカチャリと捻る。ドアノブに手を掛け、一つ深呼吸。さあ、尋常に…!

「ただい」
「「「「「ハッピーバースデー!!」」」」」
「えっ!うわわっ!」

 ドアを押し開けたと同時、大勢の祝福の声に出迎えられる。間髪入れずに伸びてきた手に中へと引きずりこまれて情けない声が出る。咄嗟になんとか靴を脱ぐことはできたものの、予想外すぎる状況に頭が追い付かない。え、ちょっとどういうこと?なんでこんなみんないるの!

「えへへーびっくりした?みんなで嶺ちゃん驚かそうって!」
「違うでしょう音也。私たちは寿さんの誕生日をお祝いしにきたのであって、驚かすために集まったわけでは…」
「まあまあイッチー、誕生日サプライズが目的なんだからいいじゃない」

 わいわいとリビングに全員集合している状況に目を白黒させる。ちょっと待って、ぼくの誕生日を祝いに来てくれたのはわかったしすっごい嬉しいんだけど、なんで急にこんなこと?というか、そもそもなんでうちなの!どうやって入ったのきみたち!

「偶然だよ」
「へっ?」
「みんな今夜が暇だったのは偶然。でもそれ聞いて、レンがサプライズしようって言い出したの。一昨日言い出したから準備が大変だったんだからね」

 感謝してよね、とつんとするアイアイの当たりもなんだか今日は柔らかい。なにこれなにこれ、ランランに引き続きアイアイにまでデレられちゃうなんてお兄さん困っちゃう。というか本気で恥ずかしくなっちゃうんですけど!

「オレの時もみんなツイッターでサプライズをしてくれたからね、嬉しかったからお返しだよ」
「鍵はランマルから借りた」
「ありがとうレンレンーというかアイアイはなんでそんなぼくの考えてることわかるのかな?超能力者?」
「レイジは考えてることが単純だからすぐわかるよ」
「うわーいアイアイがぼくのこと理解してくれててお兄さん嬉しいよー!」
「ねえちょっと、ボク今嫌味言ったつもりだったんだけど、聞いてた?」

 思わず調子に乗ってがばっと抱きつくも、いつもだったらエルボーを喰らって撃沈するはずなのになぜかいつまでたってもなにも起こらない。嫌がりながらもぼくをノックアウトしようとはしないアイアイは、借りてきた猫のように大人しい。やばい、なにこれかわいすぎる。誕生日ってこんな良い日だったっけ!
 逃げないのをいいことに、アイアイに抱きついたままで他の面子からのお祝いの言葉を受け取る。後輩はみんな祝ってくれるし、仲間は揃ってデレ期だし、ぼく毎日が誕生日だったらいいのに…!と、思った時だった。

「寿、貴様!いい加減にせぬか!美風を放せ!」
「イタッ!なにどしたのミューちゃん、もしかして嫉っ…」
「早くろうそくを吹き消すのだ!貴様が消さなければケーキが食えないだろうが愚か者!」
「え、ああ…うん、ぼくミューちゃんまでデレちゃったらどうしようかと思ったよ…」

 カッと音が聞こえそうなほどの勢いで目を見開くミューちゃんの通常運転に、思わずほっと息をつく。よかった…ミューちゃんにまでデレられちゃうなんて正直気持ちわ…違った、調子が狂うから。そうやって鉄拳を下してくれる人も大事だよね、うん。

「カミュ!今日の主役になんてことをするのデス!」
「ふん、この男をどう扱おうと俺の勝手だ」
「わあ!ケーキがかわいいお人形さんですう」
「題してスーパーれいじくんケーキ!つってな!」
「丹精込めて作りましたゆえ、どうぞ召し上がってください」
「えええすごい!これ食べちゃってもいいの!?」

 差し出されたケーキの完成度にみんなで感嘆の声を上げる。すごいな、これ売り物にできるレベルじゃない?ていうかぼくのグッズとして売り出したらすっごい売れちゃうんじゃない?って思ったけど、アイアイとトッキーに全否定されそうだから口に出すのはやめておこう。だって怖いもん。

「すっごいねーさすがマサだね!超おいしそう!ねえレン?」
「…なんでこっちに振るのかなイッキ。でもまあ、上手くできてることは認めてやるよ。だけど、ろうそくはどこに刺すんだい?」
「えっ」
「あっ…」

 ケーキを囲んでわいわい騒いでいたみんなの動きが一瞬止まる。このケーキ、あまりにも忠実に作られすぎててろうそくを刺せる部分なんてない。いや、別に体に刺してくれてもぼくは構わないんだけどね?ちょっと磔みたいで痛そうだなって感じだけど!

「すみません寿さん!ろうそくを立てる場所を作るのを失念しておりました、もう一度作り直して参ります!」
「馬鹿じゃないのお前、そんな時間あるわけないだろ」
「しかし、ではどうすれば…」
「じゃあ帽子さんに立てればいいんじゃないですかあ?」
「それだ!ナイス那月!あ、でも手に持ってる風でも…」
「もういいよ面倒くさい、ボクがぶっ刺すから」
「え!?おいちょっと待て藍はやまるなああああ!」

 ブッスリ。いつの間にかぼくの腕の中から抜け出していたアイアイの手により迷いなくろうそくが突き刺された場所は、寸分のズレもなく、股間以外のなにものでもなかった。










 わいわいギャーギャーと、ここが他人の家だというのを欠片も気にしない仲間たちのおかげでいつになくぼくの部屋が賑やかだ。こんなに賑やかなことって今まであったっけ?いやないな、初めてだな。明日になったら苦情が来てるかもしれないけど、そんなの気にならないほど楽しいからなんでもいい気がしつきてしまう。思わずにやける口元。
―――嶺二、てめぇ気持ちわりいぞ。
ランランの、声が聞こえた気がして。はっと顔を上げて視線を巡らすと、向こうの方でミューちゃんと飲みながら話している姿が目に入る。あの二人、いつも喧嘩してるようでいて、なんだかんだ仲良いんだから。お兄さん安心だよ。
 って、そうじゃない!あんなところからの声なんて聞こえるわけがないのに、さっきのはなんだったんだろう。あまりにも好きすぎて、ついに幻聴まで聞こえるようになっちゃったとか?なんて考えていると、なにか言ったミューちゃんに笑っていたランランが唐突にぼくの方を向く。ぱちりと目が合ったから小さく手を振ると、少し驚いたような表情をしたランランがふっと笑った。

ばーっか。

口をぱくぱくと開閉してそれだけ言って、もう一度笑うランランに、ぐわっと体温が上がった。
なにあれ!なんなのあれ!!やばい、かわいすぎてぼくどうにかなりそうだよランラン!なんだよそれ!!

ぼくがランランの行動に身悶えてブルブルと震えていると、爆発しそうに熱の上がった頭の上に冷たいグラスがコツリと当てられる。その冷たさに驚いて顔を上げると、そこにはにっこり笑ったオレンジの髪の後輩が立っていた。

「隣、いいかな?」
「え?ああ、どうぞ」

 思わずどうぞと答えたものの、正直ぼくは彼を相手にしてる余裕がない。ああもうかわいい。ていうかもしかして、今日ぼくまだランランと話してなくない!?
 え、やばいどうしよう、明日までもう三十分もないんですけど!気付てしまった事実にぼくはこんなに焦ってるっていうのに、その隣でレンレンはくつくつと笑っている。なんなんだもう!

「ねえブッキー、楽しいかい?」
「え?ああうん、すっごい楽しいよ。まさかみんなに祝ってもらえるなんて思ってなかったからすごく嬉しい。企画してくれてありがとうね、レンレン」
「そうかい?それならよかった」

 ただ、欲を言えばもう少しだけランランと話したかったけど。こんなにみんなに祝ってもらえて、色んなプレゼントをいもれえて贅沢者なんだってわかってる。わかってるんだけどね。
 こんな素敵な贈り物をもらったのにほんとわがままだなあと思いながらも、視線は席を立ったランランを追う。慣れたようにベランダの外へと向かうのを目で追っていると、レンレンがこちらへ身を乗り出してきた。ふわり、笑ったレンレンが内緒話をするようにぼくにだけ聞こえるように言葉を紡いだ。

「それじゃあ、そんなブッキーにもう一つプレゼントをあげるよ」
「プレゼント?」
「うん、そうだよ。とびきりのプレゼント」

 ―――これを最初に企画したの、ランちゃんだったんだよ。
 耳から入ってきた情報を脳が処理した瞬間、体が勝手に立ち上がっていた。ぱっと振り返ると、レンレンがにっこりと笑っていて。

「これ、オレとランちゃんしか知らないから、秘密ね」

 人差し指を唇に当てながらそう言って、ぱちりと綺麗にウインクをする。思わず任せろ頷いて、一目散にベランダへと向かう。ごちゃごちゃしててあっちこっちで騒いでるからぼくが急いでいたところで誰も気にしない。あれ今日の主役ってぼくじゃなかったっけとか掃除はいったい誰がするのとか、思うところはたくさんあるけど今はそれどころじゃない。
 カーテンの間をすり抜けてベランダへと辿りつく。酔いを醒ましているのか、風に当たってぼーっとしているその背中へ思い切り抱きついた。

「ランラン!」
「うおっ!?」
「ランランー!!」
「やめろてめえ!あいつらいるんだぞ!」

 暴れて抜け出そうとするランランをがっちり捕まえて離さない。首筋に鼻をつけて深く息を吸い込む。
 ああ…ランランだ。ランランの匂いだ。目に入る距離にいたのに抱きつけずに我慢していたせいか、おかしなところで全力で感動する。ああでもやっぱり、ぼくはランランがいなきゃダメだな。早々に諦めて抵抗しなくなったランランを抱きしめなおす。

「ランラン…計画してくれてありがとうね」
「チッ…レンのやつ、しゃべりやがったな…」
「もうぼく感動しすぎて涙出そうだよ」

 ちゅっとうなじに口付ける。びくっとした体は、くるりとこちらを向く。至近距離で見つめあうと、ランランは口角を上げて嬉しそうに笑う。

「どうだ、楽しかったろ?大勢に祝ってもらうのはよ」
「え、あ、うん…すっごい楽しかったよ。でもなんで?」
「なんで…?なんとなく、だな。お前大勢でわいわいするの好きそうだし」
「うん?」
「ああ…それに多分、おれはお前があいつらに振り回されてるの見るの好きなんだ」

 思わずなにそれ!?と大きな声がでるも、ランランはただ笑うだけで。なんだかもう、ランランが楽しいんならいいけどってなってしまう。だけどせっかくの誕生日に負けてばっかりじゃ悔しいから、ちょっと反撃させてもらうことにした。

 「だけどさあランラン、誕生日くらい二人きりでいたいって思わない?」
「あ?」
「そりゃあみんなに祝ってもらえるのはめちゃくちゃ嬉しいけど、やっぱりぼくは誰よりもランランに祝ってもらいたい。まだおめでとうも言ってもらえてないよー?」

 せっかく企画してくれたのに、ちょっと意地悪だったかな。だけどやっぱり、ぼくはランランに祝ってもらいたいんだよ。
 そんなことを考えながら、仕方ねえなとおめでとうをくれるランランを待機している、と。

「なに言ってんでてめえ。おまえ、おれとはいつでも一緒にいるじゃねえか」
「へ?」

 呆れたような声音での予想外な反応に、思わず間の抜けた声が出る。ちょっと待って、よく意味が理解できないよランラン。

「こんな日にたまったま全員仕事が早く終わったんだ、だったらあいつらみんなと祝った方がよくねえか?こんなチャンス滅多にないぜ」
「そ、そうだけどでも…!」
「別に一年くらいいいじゃねえか。おれは特別な日も、そうでない日も、これからずっとおまえの傍にいるだろ」
「…―――!」

 サラリと事もなげに告げられた言葉。そのあまりの衝撃に、ぼくはずるずるとしゃがみ込む。なに今の、ぼくもしかしてプロポーズされたの?なにそれ、なにそれ反則だよ。ズルいよランラン、男前すぎてぼく立ってられないよ。腰砕けだよ。

「おい?どうした嶺二」
「くそう…この天然タラシめ…」
「なに言ってんだてめえ。お、つーかもうこんな時間か」

 ぼくの言葉をさらっとスルーして時計を確認したランランが、膝を抱えているぼくに合わせてしゃがみ込む。今度はなにを言われるのかと身構えるぼくに、ランランは僅かに口角を上げた。

「―――誕生日おめでとう、嶺二」

 今日、色んな人から何度も言われた言葉。すごく嬉しかった。どうしようもなく幸せだった。
 だけど、同じ言葉がランランの口から紡がれるというだけで、こんなにも鮮やかに色付くものなのかと。

「てめえの最初になることになれないことはわかってるよ。間だって、何人入るかわからねえ。だから最初と間まで欲しいなんざ言わねえよ」
「ランラン?」
「けどな、嶺二―――おまえの最後だけは、おれのものだ」

 有無を言わせず奪われる唇。
 七月十三日二十三時五十九分。
 ぼくの意識すべては、ランランだけのものだった。


*end*

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