utpr | ナノ








「っ、は…ぁ…は…」
「くっ…神宮寺、っ…」

 ぐちっと音を立てて結合部を掻き回す。指で慣らしたはずなのにまだぎちぎちと狭いそこは、抉じ開けるようにしか動けない。狭い中をなんとか律動する度に、耐えるように伸びきった白い喉が無防備にひくりと震えた。
 神宮寺にもう馴らすのは十分だと言われるがままに挿入したが、不十分だったとしか思えない。確かに俺にはもう十分だったかもしれない。神宮寺の中は熱くうねり、少しきついくらいに締め付けてきて、正直に言って、それはもうとんでもないくらい、悦い。しかし逆に神宮寺はきっと酷くつらいのだろう。伏せられる目も、震える声も、ソファに爪を立てる手も、快楽からのものとは到底思えなかった。なによりその、先程より僅かに萎えたモノが証拠だ。

「すまないっ…もう少し、息を吐け…つらいだろう…」
「ん、いい、へーき…は、ァ…」
「しかし…っ」
「っ、いいから、ほら…うごけよっ」

 平気なわけが、ないのに。それなのに神宮寺は、俺の問いかけに大丈夫だと嬉しそうに笑う。酷く幸せそうに笑うから、どうしてか俺の方が泣きそうになる。
 共に気持ちよくなってほしいのだ。そうでなければなんの意味もないだろう。しかし先程、もう一度しっかり慣らそうと一旦抜こうとした途端にそれこそ泣きそうな顔で止められてしまって。だからもう今さら指で慣らすことはできなくなってしまった。ならばせめて、もう少し落ち着いて体の強張りを緩めてから動こう。手探りながらそう思い、ゆっくりと動きを止めた。

「大丈夫か…?ほら、ゆっくり息をしろ」
「ひ、じりかわ…オレは、へーきだって、ば、くっ…!」
「あっおい!無理矢理動くな…!」
「うぁ…っ」

 つらいだろうに、無理矢理自ら腰を動かす神宮寺。その刺激に思わずぎゅっと眉をしかめる。どうやらこの頑固者は、自分のことなどお構いなしにどうしたって動き続けるつもりらしい。せめて体の緊張をとらなければと痛みに萎えかけている神宮寺のモノをゆるりと包むと、その体がびくりと大袈裟に反応した。

「っ!ア、やめ…!」
「なぜだ?気持ちいいのだろう?」
「ぅ、あ、オレは、いいって…!」

 柔く包んで動かすと、びくびくと震える体。前への刺激に意識がそれて、力の抜けた下半身のおかげでいくらか動きやすくなる。今だとゆるりと腰を動かすと、その刺激に痛さだけではない色のついた声が上がる。萎えかけていたモノは再び起き上がってきていて、やはりさっきはまだ中がつらかったんじゃないか、と眉を寄せた。

「ぁ、はぁ…ね、聖川、きもちいい…?」
「…っ、あぁ」
「そう、ならよかっ、」
「どうして、だ?」

 多少はましになっただろう。しかしまだまだつらいはずなのに、お前がいいならならいいと笑う神宮寺に思わず口走った疑問。どうかしたのかと俺を見上げる神宮寺へと向けている自分の顔は、きっと戸惑った表情をしている。
 お前が考えていることが、わからない。これでも頭は切れる方なのに、神宮寺のこととなるとてんでダメだ。感情の高ぶりも、お前が関わった途端すぐに抑えられなくなる。今だってわからないのだ。どうして。どうしてお前は、そんなにも―――…

「俺のことばかりで…っ」
「え?」
「どうしてお前は…お前は…っ!」

 わからないのが、酷く不安で。答えが見つからなくて、まるで幼子が駄々を捏ねるように訴えることしかできない自分が情けない。感情の高ぶりに任せて不必要なことさえ口走ってしまいそうでぐっと唇を噛み締める。すると、しがみついていたソファから離れてゆるりと伸びてきた手が、そっと俺の頬を撫でた。

「―――だって、好きだから」

 ふわり、緩められる目尻。切なげに、いとおしげにこちらを見詰める青い瞳。戸惑う俺に返されたのは、とてもシンプルな答えだった。

「ずっとずっと、好きだったんだ。だけど一生叶わないものだと諦めてたから。だから今、お前とこうしているのが夢みたいで」
「………」
「こうしているだけで、オレはもう十分幸せなんだよ。だったらあとは、お前に気持ちよくなってもらえれば、それでいい」

 そう、思わないかい?そう言って笑う神宮寺は、酷く嬉しそうで。楽しそうで。幸せそうで。
 その暖かい眼差しは、どうしようもなく俺のことが好きだと告げる。嗚呼、どうして俺は、これに気づけなかったのだろう。勝手に思い込み、守りに入り、信じられなかったのだろう。疑う余地もなく、不安がる必要もなく、神宮寺は好きだと言ってくれていたのに。
 ―――そうか。怯えていたのは、逃げていたのは、お前じゃなかった。

「お前から与えられるものなら、痛みでも、寂しさでも、喜びでも、なんでも嬉しいんだ」
「っ」
「…なあ、だから、そんな顔するなよ、真斗」

 柔らかく苦笑する神宮寺に、優しく頭を抱き抱えられる。
何年ぶりかにこの声に呼ばれる自分の名前は、ただひたすらに心地好く、甘美な響きをしているようで。どうしようもなく目頭が熱くなる。
 そうだ、俺だって、同じなのだ。お前にまた名前で呼ばれることなんて、とうに昔に諦めていたから。

「なに、どうした?泣いちゃった?」
「っ、泣いてなど、いない!」
「…うん、そうだね」
「それに…一つ、訂正させてもらうぞ」

 抱えられていた頭を起こす。ゆるりと解放してくれる腕をそっと捕まえた。あんなことを言っておいて、明らかに顔には雫が滴っていることだろう。しかし気にせず、手のひらへとそっと口づけた。

「たとえ…たとえよかったとしても、お前も共に感じていなければ意味がない。俺はなにも満たされない」
「………」
「だから、俺のことを想うなら、お前も感じてくれなきゃ困るのだ」
「っお前、」
「俺とてお前を愛している…恋人を想っているのは自分だけと思うな、レン」

 そう口角を上げれば、今度は神宮寺の方が泣きそうな顔をした。きっと今、お互いに最高に情けない顔をしているのだろう。しかしそれでもいい。こんなにも愛しいのだから。こんなにも幸せなのだから。
 今度こそ間違えはしない。もう、お前を不安にはしないから。飽和した神宮寺の瞳から溢れた雫に、そっと唇を近づけた。






***






「聖川、水」
「あぁ、ほら」
「お、準備いいね、さんきゅ」

 上機嫌にペットボトルを受け取る神宮寺を横目に俺も隣へと潜り込む。収まりのいい場所を探してもぞもぞと動いていると、飲み終わってベッドヘッドへと水を置いた神宮寺と目が合った。愉快そうに口角をニッと上げて笑う神宮寺に、俺は思わず土下座する勢いで頭を下げた。

「すすすまん神宮寺!まさか、最後まであそこでなど…!」
「あーまあね、初夜がまさかソファだなんて誰も思ってなかったよね?」
「しょ、初夜っ…!本当にすまないっ!し、しかし、あそこで挑発したのはお前なのだから責任の一端はお前にも…」
「は?いや一緒にベッドまで入ってくれるようだったら挑発する必要ないでしょ。今回はどう考えてもお前が煮えきらないのが悪い」

 つん、と俺は悪くないと言っておきながら、それでも楽しそうにニヤつく神宮寺。その底意地悪そうな顔でさえかわいく見えてしまって、俺はとうとう末期なのかもしれない。
そう、お察しの通り俺たちは、結局あのまま最後までソファで致してしまったのだ。最後には神宮寺もちゃんと良い声で啼いてくれたのはよかったのだが、しかしまさか、初めての場所がソファだなんて、本当に誰も予想してなかっただろう。たとえ神宮寺が今までどれだけ遊んでいようとも、俺たち二人にとっては一度しかない初夜なのだから、ベッドでしっかりと愛してやりたい。ずっとそう思っていたのに。どうして俺は神宮寺のこととなると冷静でいられないのか。つい感情的になって、すぐ行動に出てしまう。

 あの時だって、神宮寺に言われた言葉に俺は酷く怒ったのだ。
 大切になんか、されたくない。
 その言葉は、俺の想いを深く抉った。一方的に気持ちを無下にされたと思い込んで頭に血が上った俺は、すぐにあの場で神宮寺を押し倒してしまった。
しかし神宮寺は気づいていたのだ。俺の「大切に」という気持ちが、ただの大義名分であったことに。拒絶されたくないと逃げる自分の臆病さを、お前のためと責任転嫁していたということに。神宮寺はあれだけ愛情を表現してくれていたのに、見ないふりをして、避けて、逃げて。いくら俺が気持ちを伝えようとしたところで肝心なときに逃げてばかりでは、神宮寺が不安がるのも当然のことだった。いくら誘っても乗ってこない恋人など、誰か他に相手がいるのかと疑うのも無理ない話だ。

「でもま、なんでもいいよ。幸運にも明日は二人とも午前中オフだし。それに言ったじゃん、オレ幸せだって」
「し、しかし…」
「それに正直言って、お前の童貞を奪えたんだって思えば、もうほんと、なんでもいい」
「な、どうてっ…!」
「え、なに違った?」
「ちち違わない、が!」

 一瞬でカッと顔が熱くなる。確かに違わない。違わない、が、なんだか酷くプライバシーを侵害されたようでとてつもなく恥ずかしい。しかしそんな俺とは対照的に、神宮寺は酷く嬉しそうに笑って。そう、よかった、なんて屈託なく笑うから、まあいいかとも思ってしまう。

 そんな温かい気持ちでいた俺だったが、直後に神宮寺から投下された爆弾に、とんでもないダメージを受けることになる。

「いやーしっかしこの年で童貞と処女同士だなんて、男女だったら大正時代だね」
「何を言う、そもそも男女の営みは本来ならば結婚の契りを交わしてから…って、は!?」
「ん?」
「え、お、おおお前、しょ、は、初めてだったのか!?」
「え?ああ、後ろ使うのは初めてだよ」

 事も無げにサラリと告げられたその事実に、開いた口が塞がらない。
 ちょっと待て、どういうことだ?初めて?初めてだと?ということはもしや、俺は初めての人間をあろうことかソファで組み敷き、あまつさえよく慣らしもせずに突っ込んだということか!?

「なに驚いてんだよ、そういう誘いはあったけど全部断ってたって言っただろ?」
「た、確かにそうだが…!お前ならプライベートとかでありそうで…!」
「いや、普通ないからね…てかさすがにキツいとか気づきそうなもんだけどね、ってああそうか、童貞くんにはわからないか」
「す、すまん!本当にすまん…!」

 平謝りする俺に、苦笑する神宮寺。恐る恐る顔を上げると、柔らかい青い瞳とゆるりと視線が絡まる。やはりそのターコイズブルーはどうしようもなく俺を好きだと言っていて、思わずふっと口元が緩んだ。わかってる。俺が求められているのは、このまま謝り続けることなんかじゃない。通じ合う視線。そうして自然と、どちらからともなくお互いの背中へと腕を回す。コツリ、額と額が触れ合った。

「いいよ別に。聖川なら許してやる」
「すまない…だが安心しろ、神宮寺」



「一生、責任とってくれるなら」
「一生、責任とってやる」







*end *
星に願うは、共にいること。

prev back next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -