ぽんぽんぽんと心地好いリズムを打ちながらわたしの額を消毒用の綿が当てられてゆく。

特別慣れた手付きでもなければ、不器用なものではなく人並な器用さ。だが普段の短気な性格や実験が上手くいかず機材を投げ割る姿を見ているからか、その動作が繊細に見えてしまう。


「何度言えば分かるんだ?おれは医者じゃねェんだ」

『…すみません』


マスターが吐いた息が微かにわたしの鼻の頭にかすった。
恐る恐る目だけ上げてみれば、視線に気付いたのか額から視線をずらしてわたしをぎろりと見た。

いや、これで何回目だろう?雪山で走って怪我をしたのは。

だってね?元々、夏島生まれのわたしにとって雪はとっても貴重でね?何回見ても飽きなくて、毎回突っ走ってっちゃうんだよね。

真っ白で綺麗だし、食べれるし、雪だるま作って遊べるし、カマクラだって作れるんだもん。こんな魅力的なものはないよ!モネさんも雪になって一緒に遊んでくれるからそれもまた楽しくて。
まあ、おかげさまでいつも気付いたら怪我してるんだけど。


「おれにはまだ実験が残ってるんだ」

『ですよね』

「明日までに実験薬のサンプルをドレスローザに送らなくちゃいけねェ。だが先程試した実験がイマイチでな…誰かのせいでまた先延ばしせねばならなくなったんだが」

『誰でしょうね、そんな迷惑な奴は』


「お前だ!馬鹿野郎」と額に当てた綿を強めにぐいぐい押してきて結構痛いです、マスター。


「お前はまだまだガキだが、体は大人なんだ。もっとまともに行動できねェか。それともお前もビスケットルームに入れられてェか?」

『そ、それだけは!…今後は怪我をしないようもっと注意します…』


既に手当てが終わったのか額には白いテープで絆創膏が張り付けられており撫でていると、ぐい、と人差し指を額に突きつけられサッと手を下へ降ろした。


「怪我をするや否やじゃなくおれの手を煩わせるな」

『い、痛いです』

「こうでもしとかなきゃお前は効かねェからなァ」


にやりと笑いながらわたしの傷口をぐいぐい押してくるマスターはひどいと思う。
でも知ってます。怪我をしていつもマスターの所へ行くと面倒臭そうに舌打ちをするのだげど、手持ちの試験管やら道具を放り投げてわたしを強制的にソファへ座らせて手当をしてくれるのだ。本当はそれが嬉しくて、だなんて彼の前では決して言えない。


『次怪我した時はローの所に行きます…』

「なんだと…!?何故ローの奴の所に行く必要がある」

『だって一応外科医ですし』

「ローの奴の所には行くな。あいつは信用できん」

『この前すごく褒めてたじゃないですか。腕のいい医者だって』

「それとこれとは違う話だ。ローの奴の所にでも行ってみろ、今後一切お前は外出禁止だ」

『ええっ!そんな、だってマスターが最初怪我しないようにって、』

「分かったら返事だ」

『で、でも』

「返事」

『ふゎい』


頬を押し潰され強制的に返事をしてしまう自分は何とも残念で。
それなのにちょっと嬉しい自分がいてにやにやが顔に出てしまわないようにするには丁度良かったかもと思ったのは目の前にいる彼には怱々言えません。

20130906