白いふわふわの腰に抱きつく。彼の普段のガスは無臭だ。どちらかと言えば胸にスゥーと入ってくるようなスッキリしたような匂い。彼の機嫌にもよるけどガスだからといって、普段彼のそばにいても特に害はないのだ。だから私は今こうして彼に抱き着いていられる訳なのだが。


「相変わらず邪魔な奴だな…作業が進まねェだろうが」

『マスター、好きです』

「…はァ…」

『好きです』

「……」

『どうして無視するんです!』


実験にしか興味がないし、常に呆れられている事なんて既に承知だけど、構ってほしさにそんな我が儘な事を言って勢いよく顔を上げ見上げると、彼は罰の悪そうな顔をして面倒くさそうにわたしを見た。


「…お前に構ってやるほどおれは暇じゃねェんだ」

『構ってくれなくてもいいですから、ずっとこうしてちゃダメですか?』

「……お前がここにいるだけでどれだけ重いと思ってる」

『邪魔はしませんから!』


端から反論なんて聞こうとは思っていない。ただ私が彼にこうしてくっついていたいのだ。邪魔はしないなんて言いつつ、彼の膝に乗って前から抱き着いているというだけで邪魔な事くらい分かっているし、勿論彼もそう思っているはずなのだけど。

離れたくないとばかりに一層ぎゅうとしがみつけば頭上からボリボリと何かを掻いてるような音が聞こえて


「…はァ…絶対に机の上にあるモンに触れるんじゃねェぞ」

『はい』

「今調合してる液体をこぼしでもしたらすぐに実験台にしてやるからな」

『大丈夫です』


そんな事を言って、結局は許してくれるのが嬉しくてふわふわなローブに包まれた彼の胸元へ顔をすりすりと擦り付けると「…オイ」と自分が後ろへ倒れないようになのか私の背中へ手を当て少したじたじな声が聞こえた。


『でもマスターにならわたしの身捧げてもいいです』

「…単細胞が」


押し当てた胸元が暖かくなって心臓の音が聴こえてきたのは私だけの秘密。誰にも教えてあげない。

20140906