『マスター、私はマスターの事がこんなに好きなのにどうして周りの人はを分かってくれないんでしょうか』
資料や書類で散りばめられた机のスペースへ紅茶の入ったカップを置いた。私はお疲れ様です、の一言を言うのも忘れてそう問い掛けると、彼はカップへと伸ばしていた手をぴたりと止めこちらを見上げた。
「…それは褒めてるのか?けなしてるのか…?」
『どっちでもないですよ。ただ、マスターがこんなに素敵なのを誰も気付かないのが不思議でならないんです』
いつもお前は突拍子もねェ事を…と小さく呟いた声は私には届かず、眉間にしわを寄せたまま紅茶の入ったカップへと口を付けた。
「それはおれの科学と同じようなモンだろう」
『科学と?』
マスターは机に向いたままそばにいた私の腕を掴んで、自分へ顔を向けさせる。 びっくりして倒れ込みそうになるのをマスターの肩へと手を伸ばして制した。
「おれの科学の才能はこんなにも素晴らしい。なのに何故誰も分からない…?多くの敵を殺せる事が出来、世界を平和に出来る科学だ。なのに何故おれは一番じゃない?」
まるで自分に問い掛けているような質問だった。口癖かのように溢れ出したその台詞を聞いて、わたしはその答えが分からなかった。何故。何故なんだろう。彼はこんなにも偉大なのに。私が好きだと思う人なのに。
彼は悪い人。決して正義の味方ではないし、罪のない人間たちを自分の都合の良いように実験体に回し、好きなだけ利用して捨てる。本当は分かってる。
けれど純粋に疑問を持ったその台詞が彼には変に似合わなくて、途端にその質問の答えが分からなくなってしまった。
いつもきりり、と吊り上がっている目は今はなんだかぼんやりしていて、悲しそうに見えるのは私の気持ちのせいか。それとも彼に溺れているせいか。
私は彼の頬に手を添えて子供をあやす時のような、安心させてあげたい一心で口を開いた。
『私が知ってます。あなたの科学の偉大さも、あなたの魅力も』
「…そうか」
『はい』
「ならお前の質問の答えも一緒だろう。おれを好むやつなんざお前だけで十分だ」
『じゃあ私たち、似たもの同士ってことですね』
「シュロロ、お前と一緒にしてくれちゃァ困る」
『ふふ、それは失礼しました』
困ったように笑うものだから私は嬉しくて彼の首元に顔を寄せた。
彼がとても愛おしくなったのと、顔が緩んで赤くなりそうなのを見られないようにするために。彼のためになるのなら、私は自分の身を削ってでも彼の味方になろう。彼を守ろう。
彼の想いを自分の中に宿して。
20131224
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