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  これは誰の運命なのか


"仁王雅治"はどうやら遅生まれらしい。






僕がこの世界で"気が付いた"ときには凍えるような冬だったが季節はあっという間に過ぎ去り、暖かな空気が漂う4月となった。


父親は依然として帰ってこず、もちろん姉も帰ってこない。



母親は何処でこさえたのか下腹部が大きくなり始めていた。

そのことにご満悦らしく、愛おしげに第三の我が子を腹越しに撫でている。



…どうやら不倫の末の子供らしい。

そのことをネタに相手を脅し、金を山ほどふんだくったというところだろう。


……その金がその子のために使われることなど無いだろうけど。






さて、話がずれてしまった。
僕は今年、小学校に入学するらしいのだ。

母親に乱暴に突きつけられた学校のパンフレットに少しくたびれた服。


…これはひょっとしてひょっとしなくてもお下がりというヤツではないか?


白いロングブレザー(膝くらいまで)には淡いピンクのフリルが。

しかも胸元には大きなピンクチェックのリボン。お揃いでカチューシャ。

下は辛うじてズボン…に見えてキュロットだった。茶色のチェックキュロット。




最近になって分かってきたが、やはりというか何というか…仁王雅治は美形だ。

こんなガキの頃からでも分かるくらい綺麗な顔立ちだ。


しかもガリガリだから細身で小柄。

外に出た記憶もないくらいだから肌はまさに透けるような白さ。


元は黒髪だったのが、最近どんどん白っぽくなってきて今ではグレーのグラデーションと化している。切る機会もないので伸び放題。



そういえば原作の仁王雅治は銀髪だったな…

そっか、あれは生まれつきでも染めたのでもなくストレスによる強制脱色だったか…







こんな容姿の僕がこんな女っぽい服を着たら女の子にしか見えないのでは…?

いや、元々女だったわけだし、いきなり雄々しいものを着せられても困るが…これはないだろ。






・・・・。


ま、いっか。ここで何か言おうものなら大変なことになるし。ちょっと可愛いから着てみたいし(本音)









早いもので入学式当日を迎えた。
ピンク色の花びらに祝福された子供たちがお父さんやお母さんに手を引かれながら門をくぐっている。


『(やっぱり親は来ないか。ま、いいけどね)』


やはりというかなんというか、視線が痛い。グッサグサ刺さってる。

親からは…嫉妬?嫉妬じゃね?我が子よりも僕が可愛いから。

男子…とも言えないガキからも熱い視線。マセてるねぇ。このままじゃ僕は同学年の初恋泥棒だ。


『(入学式…サボりたい。メンドくさい…)』


ふらふらふら…と辺りを適当に歩いた。

縮んだ(?)僕には全てが大きく見えて、キョロキョロと周りを見ながら歩いていたら、




「…あの、」


男の子のような声がした。

そちらへ視線をやると、ノーフレームの眼鏡をかけた、入学式用であろうスーツをこれ以上ないほど着こなした子がいた。

僕と同い年(肉体的に)のはずなのに、とても落ち着いた雰囲気で大人びている。


『…なんですか』


声が枯れてはいないだろうか、何せ何日ぶりかも分からないんだ、誰かと会話するなんて。

まともな会話…なんてこれが初めてだ。


「まわりをみまわしているようですか…まよってしまわれたんですか?」


これまた何て丁寧な言葉遣い。本当に育ちのいい子なんだろうな。


『…君に関係ないでしょ?迷っちゃいないよ』


ツン、と僕はそっぽを向いた。眼鏡少年(呼び名決まり)はそうですか、と言ってそれきり黙った。




…あれ?僕なんだか大人げない…?

ちょっとこのまま帰るのは(精神的)大人として顔が立たないため、もう一度眼鏡少年へと視線をやる、と。



「…こまりました。」



大きな木の上を見上げていた。

僕もその視線の先を追うと、薄水色の布……ハンカチ?


『あれ、引っかかったの?』

「あ……えぇ、うっかりかぜにとばされてしまいまして」


わたしとしたことが…と肩を落とす姿は絶対に小学一年生じゃない。


『取ってくるよ』
「え。」

眼鏡少年が何か言う前に、僕は短い腕を一杯に伸ばして枝を掴んだ。

小柄だけど、すいすいと僕は上っていく。



…実は生前(?)結構なやんちゃガールだったのさ。

木登りなんて体が覚えてるね!(何か偉そう)


「あっあぶないですよ!はやくおりたまえ!」


たまえって本当はいくつなんだ君。

僕の大学にだってそんな言葉遣いの人はいなかったぞ。





『…とれた』




…久しぶりだったからか、身体が小さいからか、



ハンカチが取れたことで安堵して、僕としたことがうっかり体を支えていた手を離してしまった。





ぐわん、と世界が反転して…




一瞬、これで落ちたらまた別世界、とかにならないかな、と思った。











スローモーションで上へ上へと行く景色、が止まった。


バスッ!


決して痛みではない衝撃が体全体を包み、ふわりといい洗剤の香りがした。




「…だからおりたまえといったのです」


上から聞こえてくる眼鏡少年の声…

上から?


固くつぶっていた目を開けば、あらびっくり目の前に眼鏡のドアップ。



僕、眼鏡少年に抱えられてる…受け止めてくれたのか。


『…ありがとう。これ、はい』

「ありがとうございます…ではなく!」


はい、と水色のハンカチを差し出したらノリつっこみされた。ノリいいね、眼鏡少年。


「あなたはなにをかんがえているんですか!いきなりあんなところにのぼったりして!」

『……はーい』


僕は自然と正座。眼鏡少年はスタンドアップ。

わー典型的な叱られ体制ー。

っていうか舌足らずで良く噛まないね。そんな難しい言葉並べちゃってさ。




「だいたい…おんなのこがきのぼりなんてしてはいけません!」

『俺、男だけど?』

「………え?」




ほらやっぱりね。眼鏡少年も僕のこと女だと思ってた。

ちなみに一人称は仁王雅治のものにした。そのうち喋り方も変えないとね。


「男なんですか…?」

『そうだよ。ちゃんとズボンだし。姉のお下がりなんだよ』



ぴらっ、とロングブレザーの裾をたくし上げてキュロットを見せる。

そしたら少年がすみません、と謝ってきた。


「おんなのこなのだとばかり…すみません」

『別にいいよ、俺の格好も紛らわしいしね』



僕たちは此処で、お互いに名前も知らないことにようやく気がついた。



『眼鏡少年、名前は?』

「めがねしょうねんではありません。なまえはきいたがわからこたえるべきですよ」


こんな年下に諭された!

僕が女じゃないって知ったらちょっと冷たくなったぞ眼鏡少年!

女性には優しくってか。何処のジェントルマンだい君は。


「あなたのなまえは?」


再度眼鏡少年が聞いてくる。

ああ、そう言えば僕がこれを名乗るのは初めてだ。

別世界どころか、紙の上にしか存在しなかった名前。



『仁王、雅治…』

「わたしはやぎゅうひろしです。」





木から落ちた時とは違う、ぐわん、とした衝撃が走った。


やぎゅう、ひろし。

柳生、比呂士。


何処のジェントルマンかと思ったら、テニスのジェントルマンだったか、と脳内で考えられている僕は案外冷静だな。




「よろしくおねがいしますね、におうくん」

『よろしく、やーぎゅ』






これから、長ーいお付き合いになりそうだね?


未来の、パートナーさん。





これは誰の運命なのか
(僕の?俺の?それとも世界の?)






………………

小学生柳生だぜ!

ジェントルメーン!

主人公の口調が仁王じゃない?これからこれから!

柳生のセリフがひらがなですみませんね





 

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