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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -



  歪な関係を始めよう


比呂士、比呂士、どうして?

どうして僕を拒絶するの?

痛いよ…痛いよ、ねえ、比呂士、



 た す け て 









しゃがみ込んでいる柳生を見つけて、白銀は慌てて駆け寄った。

具合が悪いのだろうか。怪我をしているのだろうか。

誰より大切な彼の身を案じて、手を伸ばした。




それは払われた。




鋭い痛みと弾けるような音。
目の前の人物にひっぱたかれたと認識するのに、数秒をようした。

まさか。

他の誰かに叩かれるのも殴られるのも想定していたし想像できた。

けれど、彼だけは。

彼だけはあり得ないと思っていた。


『比呂士ッ!!待って、行かないで…お願い!』


背を向けて走り出してしまった柳生を数瞬遅れで追いかけた。
同じ男で体格と体力もそう変わらない二人の距離は、離れることはないが縮むこともない。

それでも、ここで見失ったら。

きっと彼は、二度と自分を見てくれない。


叫んだ。


『どうして!?僕のこと嫌いになったの!?もう一緒にいてくれないの!?君まで僕を、』



捨てるの?



以前、白銀の口から聞いた言葉を思い出した。

"僕は、世界から捨てられたんだ"

それはすなわち、家族友人仲間全てに捨てられたことと同義だと。




『ひろしに、すてられたら、ぼくは…』




だれにすがっていきていけばいいの?

だれにたよっていきていけばいいの?



「(私では…私では、駄目なんです)」

背中に投げかけられる言葉に、胸が痛んだ。
突き刺すような痛みは全身に広がんで彼を蝕む。


信号が点滅している。
柳生は横断歩道を渡りきったところでハッと気がつき、振り返った。


彼女が私を追ってきていたら───…
追うことに夢中で何も見えていなかったら───…


白銀は、やはり道路に飛び出していた。そして、右側から車が来ている。





彼女が


死んでしまう…



「白銀さんッ!!!」

こちらに伸ばされた腕を掴み、力一杯に引いた。
胸に飛び込んでくる細い体を受け止めた時、柳生の心に浮かんだのは穢れではなかった。

安堵と思慕と、

二つに引き裂かれていたものが再び一つになったような、
パズルピースや欠けた茶碗のような、

心の透き間が埋まる感覚。




…この人のそばにいたい




「白銀さ…『比呂士。』何ですか?」

酷いと、痛いと、何をするんだと言われるだろうと思っていた。
罵られるのだろうと思っていた。

しかし、


『行かないで…っ』


捨てないで、僕を、独りにしないで、置いていかないで、お願いだから、君の、


そばにいさせて…



懇願だった。
仁王雅治ではない雪原白銀としての言葉だった。
彼女は、


自分を、自分だけを求めてくれている…


学校の裏門を出た道路の、歩道と車道の境目で座り込む二人。
元々あまり車通りも人通りも多くないこの場所に、彼ら以外はいない。

柳生の胸に顔を埋めて、折れそうな両腕を背中に回して静かになく人物は、自分だけを求めている。

「…私は、醜いのですよ」
『比呂、士、が?』

喉の挙動がおかしくなっている白銀は、ひくっとしゃっくりのような声を漏らして言葉を途切れ途切れに紡いだ。
落ち着かせるように柔らかい銀髪を撫でれば、不思議そうな金色が向けられる。

「貴方が誰かを目にすることも、言葉を交わすことも、作り物の笑顔を向けていることさえ、私には耐えられない」
『え…』
「嫉妬です。独占欲です。たかが友人の一人に抱くべきではない感情です。」
『だから、もう…僕と一緒にいたくないってことかい?』
「いたくないのではなく、いられないのですよ」

ぐらぐらと不安に揺れる白銀の瞳に、困ったような笑顔を向ける。
そんな顔をさせたいのではない。何度でも思う。
自分は白銀に笑顔でいてほしいのだ。それなのに、その笑顔を他者に向けられることを拒む。
幸せになってもらいたいのに、どうしても…

こんな、こんな私では、



『…そんなの簡単だね』
「はい?」
『僕が他の誰かといるのが嫌なんでしょう?なら、比呂士がずっと一緒にいてくれればいいよ。僕に幸せになってもらいたいって?なら、君が僕を幸せにしてよ。』
「そんな、貴女を束縛するような真似は…」
『縛ればいいよ。強く、離れないように繋いでよ。僕と君が一つになってしまうくらいに』



金色にどろりとしたナニかが混じった。
それは、その瞳の中に写る私の目と同じもの。


『君が穢れてるって?なら、僕も一緒に穢れるさ。僕はどうなったっていいよ、君と一緒にいられるなら何だっていいんだ』



鎖のように切れることのない絆で、二人を繋ごう。


たかが友人に向けるものではないのなら、


その関係を変えればいい。




「私と…」
『うん。』
「私と、恋人になって下さいますか…?」




『もちろん、喜んで』




美しくなくてもいい。綺麗でなくなってもかまわない。

汚く、醜く、ひどく歪つになってしまえ。

そうして互いに溶け合って、いつしか一つになってしまえばいい。



歪な関係を始めよう
(二人で鳥籠に住もう)
(外から見えなくなるくらいに鍵をかけて)
(たった二人の世界に行こう)



…………………………………

ヤンデレカップル成立。
精神的にはノマカプですが、肉体的にはBLですね。
あと2、3話したら正式にノマカプになるのですが…←意味深

ドロドロしたヤンデレ×ヤンデレは大好きです。依存関係っていいよね。二次元限定で。

白銀の方はそこまで独占欲はないんですけど、過剰なくらいに愛してもらわないと物足りないタイプ。

ドロドロに甘やかして愛し尽くして閉じこめたい柳生と束縛たっぷり嫉妬たっぷり愛情たっぷりじゃないと不安になる白銀です。
すげぇピッタリ…

 

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