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  理解しました認識しました


白銀さんと再会し、私の生活は驚くほど色鮮やかになった。

クラスは離れてしまったものの、昼休みはお互いを訪ねるし、昼食は2人きりでとっている。

その方が白銀さんの素が出しやすいだろうと思ったからだ。


私はゴルフ部に、白銀さんは男子テニス部に入部した。

何でも、引き取り先の家ではテニスクラブに通わせていただいていたらしい。


良い家でよかった、と胸をなで下ろすが、そこで出来た義弟と弟が如何に可愛らしいかを語られると微笑ましい反面、よく分からない感情が覗く。



この感情は、なんだろうか。







その答えは、私が望まぬ形で望まぬものをもたらした。

"私"が崩壊するほどの、ものを。







ゴルフ部が早めに終了したため、前から誘われていたテニス部の見学に行くことにした。

もちろん入部希望ではなく白銀さんのテニスを見るためなので、フェンスの外側からそっと覗く。

鉄のフェンス越しに彼女を探せば、あっという間に目に付く煌めき。




パコーン、パコーン!


気持ちのいいインパクト音にラケットが風を切る音。

黄色いボールはラケットの中央に吸い込まれるようで、相手側のコートに鋭く突き刺さった。

楽しげに爛々と輝く金色の両眼に汗と共にキラキラと光を反射する銀髪が何とも美しかった。


「すっげー仁王!ちょー上手ぇじゃん!」 

『当たり前じゃろ、ブンちゃん』

「ブンちゃんって呼、「本当に上手いよ。大会で会わなかったのが不思議なくらい」

『大会は東京のしか出とらんかったけぇの』

「では仁王は東京の出身か?」

『プリっ。』


赤い髪の少年が感嘆の声を上げる。

それを平然と受け流す白銀さんに呼ばれたあだ名が気に入らなかったのか、反論しようとしたところで違う少年が割り込んだ。

藍色のウェーブした髪にヘアバンドを付けた中性的な容姿。
口振りからしてテニスの上級者のようだった。

東京という言葉に素早く反応し、ノートを広げたおかっぱのような髪型の少年の質問を、よく分からない言葉で濁した。


楽しそうに、笑いながら。

読めないように、笑いながら。





その笑顔を、私は見た。

見て、しまったのだ。


日頃自分に向けられるものとは似ても似つかない作り笑顔。


私くらいにしか分からないであろう完璧な笑顔の仮面。



それなのに―――……







ズグッ………!








イヤダ。


ミルナ。


その目で、その美しい金色で、







私以外を――――…!






「!!!」




がくっ、とその場に崩れ落ちる。


何だこれは?


この、脳内を埋め尽くし骨の内側を焼け焦がすような感情は……?


こんな感情は知らない。


こんな醜い感情は知らない…っ!





醜悪過ぎるこの感情を、私は"知識"として持っている。

安直な恋愛小説に一度は必ず出てくる感情だ。

ただそれを認識したくない。

ただそれを理解したくない。





自分がこんなにも汚いなんて…!





自分が汚れているのは良い。

それは自分だけの問題だ。

だが、自分のそばには彼女がいる。

あの、高潔な高貴な彼女が汚れてしまったら…?





「……堪え…られない…っ」





精神が……瓦解する…




私が、彼女を汚してしまう。

私が、彼女を傷つけてしまう。

私の言葉で私の表情で私の存在で



そんなこと、あってはならない…



止まらない。

胸の内から溢れてくる黒いものが

嫉妬、羨望、憎悪、思慕、そして…不安。



私は、彼女の"友達"だ。

彼女を束縛することも、個人のことにとよかく口出しすることもできない関係。



彼女が、奪われたらどうしよう?


私は、私としての人格を保てるのだろうか?


彼女が、私から離れたら…



『……やーぎゅ?』


わざと舌足らずに発音された、私の名字。

そう呼ぶのは、彼女以外に存在しない。

人前でのみの、呼び方。


「仁王?」
『すまん、友達が…』


部員に声をかけ、彼女が近づいてくる。

うずくまる私を心配して、わざわざフェンスを越えて。

近づいてくる。私に。


こんな、穢れた私に…!



『比呂士、どうし…』


バシッ!!


気がつけば、私に向かって伸ばされたその手を叩き落としていた。


触れてはダメです、貴女が穢れるなんで、あってはならないんです。

私に、近づいては…



『ひ…ろ……?』


あぁああ泣かないで、悲しまないで、そんなつもりではなかったんです。

貴女を泣かせてしまう私なんて…



私には貴女が必要でも、貴女に私は必要ない。

百害あって一理なし。


ごめんなさい、ごめんなさい白銀さん…!



私は、動揺と絶望を露わにする彼女に背を向けて、全速力で走った。





私は、

わたしは、

ワタシハ、





狂おしいほど、貴女を、




理解しました認識しました
(彼女の隣にはいられないことを)


……………………………………
ヒロイン限定でめちゃくちゃ心狭くなる柳生さん。

ヤンデレフラグですね分かります。

ドロドロしてるなぁ…


 

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