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  可愛いキノコに懐かれました


まぁあれから3日後。

僕は氷帝学園という所を受けるらしい。

そこは幼稚舎、初等部、中等部、高等部………と延々エスカレーター式。

こないだの若くんも幼稚舎に行っているらしい。




…あの子すっごい目つき悪いけど友達いるのかな。
あの子が子供らしくはしゃいでるとこなんて想像できない。





で、氷帝学園は私立らしい。母親が言っていたとおり、編入試験があった。

まぁ小学生用の問題なんて寝ててもできる(それは無理か…)から、僕は楽勝で合格。

満点だったらしく、お祖母様に褒められた。




僕は家ではきちんと振る舞っているのでそこそこお祖母様に気に入られている。

父親…良雄さんの前でも良い子の振りをしているので怒られる事なんてない。



ぶっちゃけ2人きりのときよりも格段にマシ。

使用人の目とかもあるため母親は僕を殴らなくなった。

日吉家の男のしきたり、とかいって古武術をやらされておりますが…あー体痛い。






でも…まぁ…目下の悩みは…




「……………」

『…何も入れとらんぜよ、俺は』



若くんです。

僕が持ってきた…っていうか持っていくように頼まれたお菓子に手をつけようとしません。

地味に傷つきます。マジで。

君は元々目つき鋭いんだから睨んじゃダメだよー小さい子とか絶対泣いちゃうよー。



『…食べんしゃい。』

「…いらない。」


ちなみにこれ3日ぶりの会話デース。笑えねぇー…


『…………』

「……………」

『…………………』

「……………なにかいえよ」

『そっちが黙っちょるんじゃろ?』


ふっ勝った!←

この程度の沈黙にも耐えられないとは…まだまだガキだな!(当たり前だろ)


『言いたいことがあるのならはよ言いんしゃい。このままぐずぐずされとっても迷惑ぜよ』

「…ッ!」

ちょっとキツいかな、と思った。

でもこれは本音だ。

無理矢理仲良くなれとは言わないが、その原因が分からないのでは接し方も改められない。



…まぁ、大体理由くらい分かっているが。




「…なんで」


ぽつ、と若くんが漏らした。


「なんで、おかあさまはいなくなったんだよ…」

『……………』

「おとうさまと、あんなになかよかったのに…」

『あの女の所為じゃろーな』

「っ!?」

『ん?母親だからって俺があの女を好いとると思ったら大間違いぜよ。あんな頭の悪い女に引っかかりおったおまんのお父さんもついてないなり』

「ひっかかった…?」

『ま、人の良さそうな男じゃけぇ、ころっと騙されよったようじゃな。』

「だま、され……?」


そこまでは気がついてなかったか。

鋭そう、とはいえまだ子供。まだまだ母親に甘えたい時期だろうに。




『………ごめん』

「……?」

『あの女の所為だ、君の家族をバラバラにしてしまった。』

「なんで、あんたが……」

『…あれは認めたくないとはいえ僕の母親。代わりに謝るよ…』


明るい茶色の髪を優しく撫でる。

サラサラした髪はとても手触りが良かった。



『……泣きなよ。怒りな。君にはその資格がある』

「…で、も………」

『…我慢してても辛くて苦しくなるだけだ』


じっ…っと目を合わせて言葉を紡ぐ。

この子は素直で賢い子だ。この子がこのまま我慢していたらすぐに限界がきてしまう。


その捌け口が、必要なんだよ…




「…ぅ……ぁっ」

『ここには僕以外にいないよ、思い切り泣いてしまえばいい』

「あのっ!おんながきたからっ!!」

『うん。』

「おかあさまいなくなった!おとうさまもおかしくなった!」

『うん。』

「おじいさまもおばあさまもおこってる!いつもいつもおこってる!」

『うん。』

「なんで…みんな………なんで…」


その後、子供らしく泣きわめく若くんをひたすら慰めた。

頭を撫でて、相づちを打って、ずっと側にいた。





その内泣き疲れてくたりとこっちに寄りかかってきた。泣きはらした赤い目元を袖で拭ってやる。


『…これ、食べんしゃい』

「…おせんべ?」

『硬いと食べれんじゃろ?だから濡れ煎餅ぜよ』

「…かたくない」

『そりゃそーじゃ。うまかろ?』

「おいし…」


僕のポケットに入っていたのは濡れ煎餅。まぁ子供にはちょうど良いか、と思った。

泣き疲れてか、いつもの刺々しい感じがしない。

多少は心を許してくれたか、と気づかれないように胸をなで下ろした。



『…これからは我慢せんで泣きんしゃい。』

「でも…」

『ん?』

「なくとおじいさまに…」

『あー…古武術、じゃったか?しごかれるん?』

「…うぅ。でも……ぜったいげこくじょうしてやる…!」


下克上…ってこんな小さい子が使う言葉じゃないよね。絶対。

将来絶対、下克上が口癖になっちゃうよこの子は。



『…それでも泣きたくなったら俺んとこにきんしゃい。たーっぷり泣けばえぇ』

「…あ、ありがとうございます………にいさん」

『…おん、若』

兄さん、と呼ばれてなんだか嬉しくなった。

頬を赤くして恥ずかしそうに僕を呼ぶ若は可愛い。

こちらも初めて、名前を呼んだ。解り合えたことが嬉しくて小さく微笑んだ。




「!!…だいすきです、にいさん!」

『(あれ?懐かれた?)』




僕の笑顔…とも言えない微笑を見た瞬間、ポカン、とした若。

次の瞬間すごい勢いで抱きつかれました。はい。

若は古武術やってるんだってー。だからかーだから抱きつく力がハンパないのかーいたたたっ!




可愛いキノコに懐かれました
(にいさん、てあわせしてください!)
(…俺はまだ三日目なり!)






……………………

デレ入りまーす!

これからどんどん仲良くなればいいよ!

ホントは下克上も仁王くんが教える予定だったけど、そこまでしちゃうとなー、と思ったので変わりに濡れ煎餅のくだりを。

仁王くんも古武術やります。たぶん一週間くらいで若抜かしちゃいますけど(笑)

口調が戻ってたのはわざとです。
つぎは…氷帝行こう。



 

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