×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



  オレンジ・シューティング・スター


黒いブラウスに白いベストを着た少女と、よく似たワイシャツを来た青年が並んでとある民家の屋根の上に腰掛けていた。


『イクト、最近キャラ持ちの小学生にご執心だって?』

「…何で知ってんだよ」

『唯世が言ってたから。日奈森さんにあの黒猫がつきまとってるってさ』

「別に…珍しく3つもしゅごキャラ持ってるし」

『歌唄が浮気者って愚痴言ってたのは?』

「別に浮気じゃねーけど。なに、妬いた?」

『ううん、全然』

「ンだよ…」

『そんなことする必要ないでしょ?イクトは浮気なんかしない』

「何それ、また勘?」

『勘だよ。いつものね。』

彼女の名前は辺里市華。
聖夜学園ガーディアンキングスチェア辺里唯世の実姉だ。

もう一人は月詠幾斗。
サボり常習犯で野良猫のように日々を生きる高校生だ。


《市華!ねえねえそろそろ寝よーよ!わたし眠い!》

市華のしゅごキャラ、ソラ。
女らしいおさげにスカート姿の市華をデフォルメしたような体を持つこの子は、市華の"なりたい私"。

端的に言えば女の子らしくなりたいって奴なんだろうなぁ、と市華はソラの頭を撫でながら考える。

俺だった頃の年月を私になった年月が追い抜いたのはついこの間のこと。
とは言え元が男なのだからすぐに振る舞いや言動が女らしくなるのかといえばそれは否、男っぽい所作が時折でてしまいよくビアンキに怒られる。

『あ、私明日いないからね。獄寺くんたちと勉強会だから』

「………こっちが妬きそ」

『何か言った?』

「別に。」

獄寺たちと再会したのは3年ほど前。
それまでうじうじと悩んだり立ち止まったりしていた市華が何かを切り替えたように前に進み始めたことに、イクトはすぐに気がついた。
問い詰められるがありのままを話すわけにもいかずはぐらかしていたが、いつの間にか尾行されていたらしく獄寺たちのことが露見。
イクトはリボーンに見つかって入ファミリー云々のやりとりがされ、結局はマフィアのことがバレてしまった。
これ以上隠しておくのは無理だと超直感が告げたため、前世について洗いざらい話すことにした。

歌唄や弟の唯世は何も知らないし知らせる気もないけれど、市華はイクトに話したことは間違ってないと思っている。


『イクト、ソラが眠いんだって』

「…だから?」

『子守唄代わりにバイオリン弾いてあげてよ』

「やだ。めんどくさい」

『そんなこと言わないでよ。私も聞きたいし。ね?』

首を傾げて柔らかい微笑みを浮かべる市華に、イクトの心音がどくんと大きく鼓動する。
獄寺を始めとする、いわゆる"前世の仲間"は市華を女扱いすることが少ない。彼女自身がそれを嫌っていることもあるが、彼らにとって市華=綱吉であるため友人と接するときの態度のままだ。
しかしイクトにとっては妹を除き幼い頃から一番近くにいる異性だ。
夜風に揺れるふわふわとした髪も、オレンジ色の大きな瞳も、薄い肩と細い手足も、どれをとっても女の子だった。

彼が彼女に惹かれることは必然とも言えた。


「そっちが本音なんだろ…ちょっとだけなら」

『ありがとう。』

バイオリンの弦と弓が触れ合い、多彩な音色が紡ぎ出された。
曲は、愛の挨拶。
彼女が最も好む曲だった。そして彼自身も、この曲は一際思いを込めて弾いた。
女流演奏家が好んで弾くものだが、この曲はエドガーが婚約者のために作曲したという。身分の違いから周囲に猛烈な反対を受けつつも見事に結ばれた夫婦の曲だ。

身分の違い。

今の自分たちによく似合っていた。


普段イクトと同じ学校に通い、こうして気兼ねなく会う仲ではあるものの市華は基本的にガーディアン側の人間だった。
イースターの考えには一切賛同せず、協力することもない。

2人はエンブリオを狙う敵同士だった。






『…あ』

市華が少し残念そうな声を漏らした。
イクトも応えるように演奏の手を止める。
ファイアオパールを彷彿とさせる両眼には、大きくバツのついた黒い卵が映っていた。
膝の上で船を漕いでいたソラもぱっちりと目を覚まし立ち上がる。

『ソラ、行くよ!』
《あいあいさー!》

キィン、と涼やかな金属音が鳴る。イクトの持つダンプティ・キーからだ。
それに呼応するように光に包まれた市華はあっという間に様変わりする。


『キャラなり――――グリフォンスカイ』


斜めに被ったサンバイザーにライオンの鬣に似た装飾。全体をオレンジと空色で統一した活発的な姿。
市華とソラのキャラなりだ。

『イクト、バイオリンありがとう。久しぶりに聞けてうれしかったよ。…いってきます』

「……ヘマすんなよ」

しないよ、なんて明るく笑って夜空に飛び出した後ろ姿を見送るのは何度目か。
彼女は自分と別れる際に、必ず"いってきます"という。
暗に必ず帰ってくるからと言われているのだとずっと前から気づいていた。




いつか、


あらゆるしがらみから解放される日が来たのなら。


彼女に「いってらっしゃい」と「おかえり」を言えるようになるだろうか。

彼女の「ただいま」を聞くことができるだろうか。


そんな日が、いつか、





夜空を滑る橙の流れ星に願いを込めて、イクトは静かに目を閉じた。

………………………
ユカさまリクエスト、しゅごキャライクトおち。
オチ…?

2人は付き合ってません。浮気云々は冗談半分。つまり半分本気。
両片想いで幼なじみ以上恋人未満。同い年で同じ学校。

唯世は姉とイクトが未だに時折会っていることは知らない。

続きを書く余裕があったら書きたいです…シスコン唯世とラブラブカップルとか。
ユカさまリクエストありがとうございました。

 

[back]