1番隊のスターは少女にお熱のようですよ
白ひげ海賊団にはスターがいる。
無造作な髪型の金髪に白い歯を煌めかせ、華やかな雰囲気を纏い、すらりとした体躯から芸術的なナイフ裁きが披露される
1番隊所属、ベルフェゴール。
通称プリンス・ザ・リッパー、懸賞金1億1500万ベリー。
あらゆる戦場を真っ赤に染め上げる快楽殺人者だ。
しかし、世間で囁かれるおぞましい噂と同等かそれ以上に好色に塗れた色恋沙汰も蔓延っていた。
一つは容姿がよいこと。
独特な前髪の長い髪型のためその瞳を視認することは不可能なのだが、それを差し引いても彼は美形だった。
隠された瞳を見ることができる"特別"になろうと躍起になる女性は後を絶たない。
二つ目には性格。
快楽殺人者というレッテルがあるにも関わらず、彼の明るい性格は人を引き寄せる。
奔放で自分勝手な振る舞いも可愛いわがままと取られ、顰蹙を買うことはあまりない。
そして、極めつけはその女性関係だろう。
これほどの容姿を持ち、これほどの人気を集めているベルフェゴール。
さぞや派手な女性遍歴を持っているだろうと思われがちだが、実際は正反対だ。
彼は今まで誰一人として恋人にはしなかった。
それどころか一夜限りの関係すらも。
あらゆる手練手管を使って彼に媚びる女性たち。
ベルフェゴールはまとわりつくだけで自分の邪魔さえしなければその女性たちを放っておいた。
だが、彼女たちが彼に愛を求めたとき、夜の誘いをしたとき、彼は一言こう告げる。
「アイツ以外、俺はいらないから」
きっぱりと、淀みなく、迷いもなく、ただその一言で女性たちは押し黙った。
その時だけはいつもヘラヘラと笑っている彼が真剣な表情をするからだ。
エースがふいにベルが言う"アイツ"について聞きたくなって、軽い気持ちで尋ねたところ、
「え?あーアイツのこと?聞きてぇの?」
酒を片手にほろ酔いくらいのベルは口を開く。
「髪と目がすっげー綺麗で、全体的には神秘的っていうか美人?表情はあんまり変わんねーけどたまに笑うとめちゃくちゃ可愛い。手も腰も細いから抱きしめると折れそう?でも強いんだよなアイツ。ナイフで刺されても死なねぇしピンピンしてっし。守りたい感じじゃなくて一緒に戦う感じで意外と機転が利くからいざって時に頼りになる。まあ当然俺も助けるけどなー。体術はあんまり好きじゃないっぽいし?勘はいいんだけどな、嘘とか見破るのも得意だし…嘘つくのも得意だけど。隠しごとも上手いし?俺もそれ見抜くの苦手でさ、もっと言いたいこと言やいいのにって思ってた。泣けばいいし頼ればいいし何でも言ってくれればよかったのに、アイツ一人で背負い込みやがって絶対ぇ許さねー。見つけたらぐるぐるに縛り上げて浚ってやんだよあのバカ。んで一生俺の傍にいさせ「あ、もういいです…」
あのエースが敬語を使った…だと…?
1番隊に戦慄が走る。いろんな意味で。
エースの敬語も衝撃だったがベルの大告白は衝撃を通り越してショッキングなレベルだった。
一言で言うなら、そう…「何これ酷い」
蒼白になる白ひげ海賊団をよそに、大切な恋人に関して語ることができてご満悦なベルは鼻歌を歌っていた。
しかし、彼らは首を傾げる。
なら、その恋人はいったいどこにいるのかと。
その二週間後。
立ち寄った島での補給中、ベルが姿を消した。
1番隊や2番隊が総出で探す中、丸2日行方不明だった彼はひょっこり戻ってきた。
腕の中に小さな子供を抱えて。
「…ベル……そいつ、誰だよぃ」
「フラン。俺のもん」
『んぐっ!むむむむーっ!!!』
ワイヤーとロープでぐるぐる巻きにされている小柄な少女。口には猿ぐつわまでされている。どう考えても誘拐ですどうもありがとうございました。
「いやいやいやいや待て待て待て待て」
「ベル、落ち着け。なんだよそれ!」
「だからフランだって」
「そういう意味じゃ、」
「俺がずっと探してた、俺の恋人」
絶句した。1番隊と2番隊、隊長も含めて全員が。
ロリコンだとか拉致だとか変態だとか色々と言うことはあったけれど、ベルの表情があまりにも美しく幸せそうに微笑むものだから何も言えなくなってしまう。
「な、フランも一緒に船乗ろうぜ。これでずっと俺が守ってやれるから」
『………』
ぷい、とそっぽを向いてしまう。
「へそ曲げんなよー。可愛いだけなんだけど」
ベルは足をばたつかせて暴れ始めた少女を宥め、上機嫌だ。
唖然呆然な仲間たちを差し置いて、ベルは軽い足取りでオヤジのところへ走っていった。
「…今日から1番隊に入るフランだよぃ。小さいがそれなりに戦えるらしい。……………………………何も言うなよ」
顔色の悪いマルコが紹介した少女は、白ひげ海賊団の花形戦闘員ベルフェゴールに抱えられていた。
それを見た仲間たちはしばらくぽかんとし、そのあとさっと目をそらす。
頭の中に浮かぶ言葉は同じ。
「何これ酷い」
観衆の目の前で繰り広げられるそのやりとり。
「フラン、メシ食おーぜ?サッチに言って甘いもんいっぱい作ってもらったし」
『言ったってより脅したんでしょーあんたのことだから』
「いや別に?あ、フランあれ好きだろ。チョコレートケーキ」
『ザッハトルテですねー。好きですよー』
「後半もっかい俺に言って?」
『きですよー』
「おしいもう一文字!!」
『離してくれないならさっさとケーキのとこまで運んでくださいよー』
「りょうかーい。王子が食べさせてやるよ」
『死ね。死ねじゃなくshine』
「shineとか光ってっけど」
『ケーキを食わせろ』
「ただのわがままじゃねーか。やるけど。ほら」
『それでかいです堕王子。口に収まらないですー』
「…それ、俺の顔見ながらワンモアプリーズ」
『脳内ピンク黙れ』
もはや視界に入るどころか耳にはいるだけで破壊力抜群。
オヤジに助けを求める視線をやってもいつも通りに笑うだけ。神は死んだ。
フランという少女を姫抱きにしたり膝の上に乗せたりしながら、食べさせてあげたり頭をなでたり。
仕舞いには頬や額とはいえキスまで落とし始める始末。
彼に脳内に自重という文字はない。理性はかろうじて残っているだろうか。
『ベル先輩、あそこのパイナップルみたいな髪型の人とお話ししたいんですけどー』
「俺以外と話したら死刑な」
『理不尽なヤンデレ。パイナップルさーん!こいつの両腕と前髪切り落としてくださーい』
「話すなっつってんだろ!」
『ゲローっ!』
細くて小さい胴体に回された平均的な成人男性よりも力の強いベルの腕に締め上げられながら脳天を顎で攻撃されている。
ロリコンヤンデレDVか…。
マルコは遠い目をした。しかも自分が巻き込まれるフラグが乱立している。駆逐しきれない。
「…おい、ベル。ベル!!ちょっとこっち来いよぃ!」
「黙れハゲ。俺からフランを奪う奴なんて燃えちまえ!」
「…ハゲじゃねぇよぃ」
「諦めましょうよ…マルコ隊長」
1番隊のスターは少女にお熱のようですよ
(しかもだいぶたちの悪い方向に)
…………………………………
なにこれ酷い。
最初は海賊のエトワールにしようかと思ったんですけどかなりダサいからやめました。やめてよかった!
無意識にIFで書いたようなロリフランの設定で書いていた…しまった…
ハクさま、リクエストありがとうございました!イメージと違っていたらごめんなさい…ベルに夢を見過ぎていてごめんなさい。
これからも頑張らせていただきます!
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