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  暗殺者2名、海賊(仮)になりました


海辺に流れ着いた大きな木の枝に腰を下ろす少女が一人。
潮風に遊ばれる翡翠色の髪と波を映す翠と紅の瞳が酷く神秘的だった。



足元に転がる十数人のゴロツキがいなければの話だが。


「フラン〜昼飯買ってきたぜー」

『どーも。あ、臨時収入3万ベリーですー』

「こんだけ人数いて3万かよ。しょっぼ」

『同感ですねー。ってこれ唐辛子入ってるじゃないですかー抜いてきてくださいねって言ったのに』

「辛い物食べて涙目になるフランが見たかった」

『欲望に忠実か!!』


両手にハンバーガーのような包みを持って寄ってきた男の脛をげしっと軽く蹴る。
フランと呼ばれた少女は無表情を少し崩して不満げな顔をした。


「六道眼の調子は?」

『うんともすんとも。ってか1人の時に発動させんなってナイフ投げながら言ったのどこのどいつですー?』

「お前だけ帰っちゃったり他の世界に行っちゃったら大変だろ。ココくるときも危なかったんだし」


時は2日ほど前に遡る。

その日、イタリアにあるヴァリアーのアジトでのんびりと休日を満喫していた2人だったが、突如フランの六道眼が急に光りだしたかと思えば背後にぽっかりとブラックホールのようなものが現れた。

それは、いつも後ろに真横にとフランにくっついていたベルが少し席を外した隙に起こったことだった。
フランが吸い込まれる一瞬、ベルがものすごいスピードで駆け寄りその手を掴み取ったことで2人揃って謎の穴に吸い込まれていった。


そして、目が覚めると違う世界にいた。


言語は主に英語、通貨は一貫してベリーというもの、海賊が異様に多い世界。
大まかに分かったことはそれくらいだった。

1人きりで飛ばされたのなら発狂していたかもしれないが、お互いが傍にいたため落ち着いて状況を把握することができた。


『…ベル先輩が手を掴んだりしなきゃ巻き込まれることはなかったんですけどねー』

「は?なに言ってんの馬鹿なの死ぬの?お前と離れるとかただの拷問なんだけど」

『……………てめーが死ねよばーかばーか』

「照れてんの丸わかりだからな。くっそ可愛い」

フランは完全にへそを曲げてそっぽを向き、黙々とハンバーガーを食べ始めた。と思ったら急に急き込んだ。唐辛子が当たったらしい。

「王子がちゅーしてやろっか?」

『だまれ…ちゅーとかきもいこと、いうな…』

「ししっ!水飲めよ、フラン。涙目の上目づかいとかマジ襲いたくなるほどかんわいーけどフランが苦しいのは王子的に嫌だし?」

『………』

差し出されたペットボトルを無言で受け取って煽る。
翡翠の目がじっとりと彼を睨んでいるが、もう一方の瞳が"一"になっており微かに藍色の炎がちらついていることを見逃す天才ではなかった。

「(照れ照れじゃんフラン。バレてないと思ってんだろうなー)」

『…ん?先輩、あれなんですかねー?』

「あれ?ってなんかヤバげじゃね」

町の方から煙が上がっている。
耳をすませば微かに悲鳴と怒号、狂ったような笑い声を感じた。

『ヤバげですね。手ぇ貸します?』

「いくら出ると思う?」

『大したことない町っぽいですしねー』

「んじゃ、やんね。でも」

『野次馬はしにいくんですよねー』

「分かってんじゃん♪」

白い歯を見せて笑ったベルに、フランはため息をついた。





町に着くと、そこには惨劇が広がっていた。
賊とみられる男どもが大勢押し寄せ町を喧噪の渦に巻き込んでいた。

一般人なら恐れおののき逃げ出す状況。
しかし2人は非日常に身を置く暗殺者。

「前言撤回、チョーざわざわする!」

『これだから殺人中毒は…ミーの方に寄越さないでくださいよー。あんたと違って仕事以外で殺しをする気はないんですからねー』

前髪の下の瞳とナイフをギラギラと輝かせ、ベルはその渦に飛び込んでいった。



『やっぱり取りこぼしてるしー…殺しに夢中になりすぎる性分も困ったもんですよー』

ベルは圧倒的だった。
ナイフとワイヤーはまるで生きているように男どもだけを捕える。

怪我を負いながら逃げ惑う彼らにとどめを刺すのはフランの仕事になっていた。
重苦しいため息をうんざりしながら吐きつつ槍を振るっていく。

『めんどくさいです、ねっ!』

槍を振ればぼこぼこ、と何もない地面から蓮の蔦が生えてきた。
町を囲うように伸びたそれは壁となってそびえ立った。

「おわぁっ!?何だこれ、植物か!?」

「ミンク、全部燃やしちまえ」

『ミーの幻覚まで分解しないで下さいよー』

ベルの匣から現れたミンクは全身に赤い炎を纏い、振りまいていく。

「おおおおおおお!!!!あれなんだ!?」

場に合わない快活な声が聞こえた。
2人揃ってぐるりと後ろを向くと、麦わら帽子を被った男とその連れを思しき集団がいる。

フランの勘が、これは面倒くさそうだと告げた。


「なあ!お前らおれの仲間になれよ!!」

「はぁ?」

『やです。』

目を輝かせた麦わらの男が言った。
素っ頓狂な声をあげるベルに対し、フランは冷静に冷徹に即答した。

「あんた突然何言ってんのよ!」

「だってこいつら強ぇぞ!しかもおもしれーし!」

「得体のしれないの間違いだろ…」

気が強そうな女性と腰に刀を差した男性に窘められている。
すると突然横合いから飛んできたナイフがドスっとフランの背中に突き刺さった。

「ぎゃー!!死んだー!!!」

「強くねぇじゃねーか」

「医者ぁああああ!!!!っておれだー!!!!」

「なに刺されてんだよフラン。つーかさっさと血やめろって」

うつぶせに倒れた小さな体を見下ろし、ベルはいう。
背中からはどくどくと血が出ている。

「…貴方、ずいぶん冷静ね。あの子の連れでしょう?」

『ベル先輩は薄情なんですー』

「死体が喋ったー!って私も死体でしたっ!」

ひょろりと背の高い骸骨が大げさな身振り手振りで驚いた。
フランは音もなく外傷もなく、何事もなかったかのように起き上っていた。
無造作に引き抜いたナイフを右手で遊ばせている。

「お前、刺されてたろ?ウチの船医に見せとけ」

「おう!おれ診るぞ!」

『あー大丈夫ですー。刺されたのミーじゃなくてミーの幻覚なんで。実体はピンピンしてますー』

「幻覚?貴女は能力者なの?」

『さあー?』

タバコを吸っている男に言われ、ちんまりした動物?が出てきた。
黒髪の女性にされた質問の意味がよく分からなかったが、ここははぐらかしておくが吉と思いいつものポーカーフェイスで切り抜ける。

「お前、タヌキ?なんで二足歩行で喋れるわけ?実はキグルミ?」

「俺はトナカイだ!」

「ミンクみてーな兵器でもなさそうだし。うししっ変なの!」

「変っていうなー!あとそいつの名前ミンクっていうのか?」

自称トナカイはベルの肩に大人しく乗っているミンクに興味があるようだ。
喧噪も収まった街中で会話する彼らを見て、麦わらの男はさらに目を輝かせる。


「お前らおれの船に乗せる!おれが決めた!」

「だから乗らねーって」

『…ベル先輩、ミーから提案が1つあるんですけどー』

「ん?なんだ?」

『ミーだち他の島に行きたいんですよねー。実は結構大規模な迷子中でして』

「ゾロみたいなやつだな!」

「おいっ!」

『お金はそこそこしかないですけど、お仕事があれば働きますし戦闘はコレが嬉々として参加しますー』

「コレって俺のことかよフラン」

『なんで、次の島までミーたちを乗せてほしいんですー。その間にミーたちの気持ちが変われば仲間になってあげますよー』

「本当か!よし乗れ!!」

「本気かよルフィいいいいいいいい!!!!」


さて、いつになれば元の世界には戻れることやら。




…………………………

のどかさまリクエスト、平凡破壊主とベルが海賊にトリップして麦わら海賊団と出会って仲間に誘われるでした。

ルフィたち、最後の方しか出てないですね…

なんだかんだで一番書きたかったのは「あの時掴めなかった手を掴むベル」でした。リクエスト関係ないですね。おいおい…

たぶん新世界編より前くらいですかね?…あ、フランキー忘れた。

 

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