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  一方的な再会


『(やっぱ図書館はええなぁ…静かで。)』

昼休み、図書委員になった忍足は最近お気にいりの作家の新刊情報を見ながらのんびりと過ごしていた。

中学の頃は昼休みにはミーティングがあり放課後はもちろん部活だったからあまり委員会にかまけている時間がなかった。

そもそもテニス部レギュラーは全員漏れなく人気(差異はある)なので迂闊に人前でうろうろしていると好奇の目にさらされてしまう。

元来静かに目立たず過ごすことを好む忍足には練習メニューの100倍は疲れる状況だった。

ラウンジで紅茶飲みながら読書しているだけでフラッシュ音がバシバシ鳴っていた数ヶ月前を思い出し、涙が出そうになる。


『(地味で何が悪いんや、空気最高!)』


正直言ってテニスのことがなければ跡部のような人種とは一切の関わりを絶ちたいほど目立ちたくない。
別に跡部が嫌いというわけではない。自分を巻き込むことは心底迷惑がってはいるが、忍足侑奈は一度懐に入れた相手にどこまでも甘くなってしまう女だった。




『(そういえば…もう一人の当番の人は?えーとこの辺に名簿あったと思うんやけど…)』

予約の本を整頓する手を止め、確認しようと棚から名簿を引っ張り出した。

『(宮地、清志…?あ、3年生や。忙しいんやろか)』

「悪ぃ、遅れちまった」

『あ、いえ。だいじょう……ぶ、です』

図書館に入ってきた人影を見上げ、忍足は一瞬だけ硬直した。一瞬だけ。
動揺が完全に表に出る前に得意技「心を閉ざす」を施行したからだ。
余談だが「心を閉ざす」ってpkmnの技っぽい。

何故固まってしまったか。目の前にイケメンがいたから。違う。別にイケメンなら間に合っている(跡部的な意味で)

目の前にいた人物に見覚えがありすぎるからだ。


『(昨日のイケメン兄ちゃん。同じ学校やったんか…)』

「あ、カウンター頼む。俺、本の整理の方やるから」

『…お願い、します』


あまりの偶然に戦慄しつつ、椅子をずらしてスペースを開けようとしたが制止されてしまった。
確かに台を使わなくとも上まで届く長身の彼に任せてしまった方がいいだろう。

呆けたようにその背中を見送っていれば、低い声が降ってきた。


「貸し出しを頼むのだよ」

『(ん?のだよ…ってことは)』


先ほどの彼と同じくらい首を目一杯上に上げると、緑髪のクラスメイトと目が合った。
しかしこの低い声が発せられると同時にハニーブラウンの頭がすごい勢いで最奥の本棚へ消えて行ったのは何故だろう。


『ああ、やっぱり。緑間くん』

「今日は忍足が当番なのか」

『ええ。あ、返却期限は2週間後、ですー』

危ない。イントネーションがずれるところだった。
標準語は本当に難しい。敬語ならある程度できるのだけれど。

「最近、高尾がやたらと絡みに行っているが、迷惑ではないか?」

『いえ、別に。緑間くんは、高尾くんとどう?』

驚いた。彼の方から雑談をふってくるなんて。しかも…今、高尾のこととは。

「あいつは授業中も振り返って話しかけてきたり聞き逃したことを尋ねてきたり、いい迷惑なのだよ」

『それは困るね』

「全くなのだよ。うるさくて敵わん」

『じゃあ無視したり突き放したりしないの?4月の頃はそうだった、気がするけど』

「…あいつはおそらく次期ポイントガードとしてともに試合に臨むことになるのだよ」

『だから冷たくできない?鬱陶しいんでしょ』

「た、確かにあいつは軽率なところがあるが」

『うん、でも?』

「…そこまで嫌な奴でもないのだよ」

『うん、私も、そう思う。あのね、緑間くん、高尾くんさっきコーラ飲みたいけど財布忘れてきたって言ってたよ』

「!し、仕方のない奴なのだよ…」

緑間は眼鏡を押さえつつ足早に図書館を出て行った

これでよし。忍足は満足げに少しうなづく
2人は非常に相性よく見えたのでこれからも仲良くしてほしい限りだ。

4限目の最中、高尾が振り返った拍子に緑間のラッキーアイテム「トーテムポール」をうっかり倒してしまったことで少し軋轢が生まれかけていた。

これでも3年間、200人のメンタルを支えてきた身である。さらに言えば心理戦が得意中の得意。

男子高校生2人の仲を取り持つなど容易なことである。


…そういえばポイントガードって何や?バスケのポジション?


「…なあ、」

『はい?』

いつの間にか兄ちゃん、じゃなかった宮地先輩が戻ってきていた。
その手にはすでに大量の本を持っておらず、あの短時間で全て棚に戻し終わったらしい。

どことなく聞きづらそうな雰囲気を察し、忍足はこちらから切り出すことにした。


『緑間くんの、ことですか』

「!おう。お前、緑間と仲いいのか?」

『そこそこ、ですね。緑間くんは、あまり、友達を作るタイプではないので』

「あー…だろうな。高尾が上手く付き合ってなきゃぼっちだろ、あいつ」

『…それは、どうでしょうか』

いつもの丸眼鏡より重いそれをくいっと直し、忍足は口を開く。

『緑間くんと高尾くんは、高尾くんが合わせているようにも見えますが緑間くんの方から歩み寄っている部分も多いと思います。おそらく高尾くんは一見フレンドリーですが本当に心許した相手じゃなければ一定距離以上は踏み込まないし踏み込ませないタイプでしょう。緑間くんはそこを察して徐々に距離を詰めているように見えますよ。彼はああ見えて人の心情を読み取ることに長けているようです。読み取ったあとでどうしているかまでは知りませんが。だからこそ二人はちょうどいい距離でちょうど良く付き合っているんだと思います。まさしく相性がいいという感じですね』

氷帝でいえば、ジローが近いかもしれない。
ただの寝太郎に見えて彼は案外鋭いから。

まあジローの数倍変人やけどなぁ…と先ほども小脇に抱えていた派手な色彩のトーテムポールを思い出し、内心で苦笑した。


…ん?先輩が一言もしゃべらないのだが。


「…お前、すごいな。そんなことまでわかるのか」

『え…と……外から見ていれば、大体は』

あかん。昔の癖で…!
初対面の人にする話の内容ではなかった。

「俺とあいつら、部活が同じなんだよ。バスケ部な」

『なるほど…』

それでこの高身長か。
っていうかそろそろ見上げている首が痛い。

今、宮地は立っているが忍足はカウンターの椅子に座っている状態だ。
忍足も高身長に入る人間だが、さすがに座高と身長では差がありすぎる。

宮地はそれを察してカウンターの中へ入り、隣の椅子に座った。
目線が近くなったことで忍足はほっとする。

話しやすくなっただけではない。表情やしぐさ、声のトーン、目線、呼吸その他の情報が手に入れば相手の心中がよりわかりやすくなるからだ。


『(今は、感心が強いみたいやな。変に警戒されんで良かった…)』


相手は気づいていないが忍足からしてみれば彼は恩人にあたるので、嫌われてしまったり気味悪がられたりしたら地味に傷つく。

「気難しいのは緑間だけかと思ったけど、高尾もかよ…今年の一年は揃いも揃って面倒くせぇな。どいつもこいつも轢くぞ」

『(なんや物騒なこと言っとるけど、やっぱりいい人やんなぁ)』

面倒くさいといいつつ面倒を見る気満々なのだから。
自分はあまり先輩と仲が良くなかったので、結構こういう面倒見のいい先輩には憧れていたりする。
まあ世話を焼かれることに慣れていないので憧れにとどまるレベルなのだが。


「大体さっきのラッキーアイテム何なんだよ。あんなんどこで手に入れるんだ?」

『努力の方向が、変ってますよね』

「本当にな!高尾のやつもそれにほいほい協力してるし何があっても笑うだけだしよ」

『彼なりに不満を持たないように考えた結果じゃないですかね』


こうして話をしてみると宮地にはかなり鬱憤がたまっていたらしい。主に一年生のことで。
忍足は一方的に聞かされる愚痴を丁寧に肯定してそれに少し返事をする。
それだけであっという間に昼休みは終わってしまった。

予鈴を聞いて宮地は慌てて立ちあがった。

一階にある図書館からは三階にある三年の教室は遠いからだ。


「もうこんな時間か。悪いな、俺の愚痴聞かせちまって」

『いいえ。部活の話、面白かったですよ。また聞かせてくださいね』

特に緑間のラッキーアイテムがパイナップルだったときに宮地が思い切り彼めがけて投げたら高尾に直撃してしまい集めていたボールが全て落ちてしまい三人とも外周を食らった話はポーカーフェイスが崩れかけるほどだった。

「じゃ、またな忍足」

『はい。また来週ですね』

忍足は長い三つ編みを揺らして教室へ帰る。
当番ではゆっくりと本を読もうと思っていたけれど彼と喋る楽しい時間になりそうだ。
昼休みはほとんど人はいないのでちょっとくらいのおしゃべりはいいだろう。

教室に着くと椅子に後ろ向きに座った高尾と普通に前を見ている緑間が談笑していた。
高尾の片手にはコーラのペットボトルがある。

それをちらりと視界の端で確かめて、宮地に声に出さないエールを送った。


一方的な再会
(あ、そういえば)
(うちのこと気づいとらんかったけど、まあええか)


……………………………………
第三者視点と本人視点が混じるのはいつものこと…!


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