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「#幼馴染」のBL小説を読む
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  その赤い頬が恋の証だ


久々に何の予定もないオフだった。

友達との約束もないし、アイドルのイベントもない。
ならば推しメンが主役の映画でも見に行こうと宮地は機嫌よく外へ出た。

のだったが、


「お姉ちゃん綺麗だな、モデルさん?」

「1人でどーしたの?フラれちゃった?」

「こんなイイ女フるとかありえねぇー!」


いかにもチャラチャラした男が3人、1人の女性を囲んでいる。
耳障りな声はまともな神経をしているとは思えない口説き文句を紡いでいる。

宮地は顔をしかめた。
彼はこんな節操のない奴らが大嫌いなのだ。


『すんません、私ちょっと用事あるんやけど』

「おっ関西弁!?」

「お上りさん?観光?」

「俺らがトーキョー案内してやろっか!?」

近くを通り過ぎる奴らはどいつもこいつも見て見ぬふり。面倒事に関わりたくないと言わんばかりに視線をそらして早足で去っていく。

宮地のお世辞にも長くない気が限界だった。

『いい加減にしてくれへん?私、用事あるって言うとるやろ』

「どんな用事?付き合ってやるぜ?」

『あんたらと一緒になんか行きとぉないわボケ。さっさと退きぃや!』

「あぁ!?てめぇちょっと顔がいいからって調子のりやがって…!」

『はあ?調子のっとるんは「調子のってんのはテメェらだろ」

ガッと男の一人の顔面を掴んだ。バスケットボールを掴めるほどではないが体格に見合った宮地の手は男の顔を押し潰す勢いで力が入る。

振り返った女性の顔も見ずに宮地は3人の男にガンを飛ばす。


「だっ、誰だよテメェ!」

「俺の連れなんだよ。誰だよはこっちのセリフだ」

『ん?』


とにかくイラついている宮地はその長身から見下ろした顔を殺意を込めて睨んだ。
日ごろからムカつく後輩に怒鳴り散らしている迫力満点な表情に、男たちは早々に退散した。

とそこで女性の存在を思い出して振り返った。


瞬間、時間が止まる。




『おおきにお兄さん。ほんまに助かったわぁ』




陽の元で天使の輪を作る藍色のロングヘアに対比するような白い肌が目に痛い。
切れ長の瞳は夜空の紺碧に似た煌めきを秘めている。
安堵の色を滲ませた少し低めのアルトヴォイスは耳に心地い。
薄い色のシャツに膝上のスカートというシンプルな服装なのに妙に艶めかしく見える。

言葉を失うくらいの美女だった。


「あー…や、別に。俺が勝手にしたことだしな」

『あいつらしつこぉて参っとったんや。お兄さんがこーへんかったら蹴りの一つでも食らわしとったくらい』

「んな危ねぇことしようとすんな。数が違ぇだろ」

『お兄さんほんまええ人やなぁ』

「あんまそういうこと言うな。言われ慣れてねーんだよ」

『あらあら照れ屋さんやんな。じゃ、私はこのへんで失礼さしてもらいますわ。ほんまおおきに、またご縁がおましたらよろしゅう頼んます』


動きの鈍い頭で言葉を選んでいると、予想以上に軽い言葉がぽんぽん飛び出してくる。
おそらく女性が喋りやすいように誘導してくれているのだろう。

去り際もあっさりと頭を下げて離れていくその背中に向かって、宮地は声をかけることができなかった。






しかし、30分後。







『「あ。」』

その女生徒は映画館のチケット売り場でばったりと再会した。



『お兄さんさっきぶりやな。案外世間は狭いもんや』

「お、おう…そうだな。用事って映画だったのか?」

『まあ、それも用事の一つってとこやで。お兄さん何見はるん?』

「俺は…あー……」

『私が見に来たんはあの"恋に恋して赤い糸"なんやけど』

男が一人で恋愛ものなんて恥ずかしくてなかなか口にできない。
言い淀んでいると、彼女から告げられたその名前に目を見開いた。

「え、マジで?俺もそれだぜ」

『そりゃまた奇遇やねんなぁ。お兄さんとはえらい話合いそうやわ』

嬉しそうな顔をする女性の表情に心拍数を上げつつ、宮地は以居心地悪そうに視線を逸らした。
自分の目的は映画の内容ではないからだ。

「俺、小説読まねーしこういう映画も見ねーんだけど…女優がさ」

『ああ!STKのみゆみゆ可愛え子ぉやんな!私もあの子好きやねん』

「友達になってください。」

まさか知っているとは。可愛い、好きとまでいってくれるとは。
宮地はつい元来のキャラを放り棄てて女性の手を握っていた。

この時点で彼女に対する好感度はパラメータぎりぎりまで上がっていた。



「恋に恋して赤い糸、お2人で2000円になります」

『「ん?」』

『お姉さん、高校生は1人1500円やったと思うんやけど』

「本日はカップルデーですから」


…カップル?
宮地はそれを聞いてそっと女性の方を伺った。きょとんとした表情をしている。

「や、俺らは別に」

「11時20分から3番スクリーンでの上映となります」

『あー、もうええんちゃう?男女ペアなら友達でもカップルやろ?』

慌てて否定しようとしたが、彼女にやんわりと止められてしまった。
俺と恋人に見られていいのだろうか、ひょっとして彼氏とかいないんだろうか、という考えが過ぎる。

開演時刻が迫っていたので3番スクリーンに入って席まで行く。

宮地は目の前の状況から目をそらしたかった。そらしたまま帰りたくなった。

「…おいこれ」

『完全に恋人同士用のカップルデーだったんやな…』

歴代の(といってもそんなにいない)彼女とも座ったことのないカップルシートだった。
打開策を模索する宮地を置いて、女性は平然とシートに腰掛けてしまった。

「いいのかよここで。今から払い戻してチケット買い直してもいいんじゃねーの?」

『めんどいやん?お兄さんが私と座るんいやならしゃーないけど…』

「べッ、つにそんなこと言ってねーよ!」

端正な顔を寂しそうに歪める女性。
ちらりと覗く鎖骨の浮き出た胸元が薄暗い映画館内では5倍は色っぽく見えてしまう。
宮地は部活でも稀なほどのダッシュでその隣へ座った。


「結構狭ぇな、ここ」

『私が女性の一般的身長を越えてもうてるからやと思うねんけど…勘忍な』

「や、俺も平均よりだいぶ上だからな、身長。お互い様だろ」

『あ、ぼちぼち始まるで!楽しみやなぁ』


予想外に近距離で宮地はどうにも落ち着かなかった。
シトラス系の香りがほのかに漂ってくる。しかも高級感満載。
右半身は完全に密着しているし髪が肩に触れている。本当に近い。

念願だった推しメンの姿の半分も記憶に残すことができないまま映画は終わってしまった。


「終わった、な。そろそろ出…っ!?」

『う、ちょお待っとって…あーもう涙止まらへんーっ』

泣いていた。これ以上ないくらいぼろぼろと手元のハンカチが絞れそうなくらいに。

水没した紺碧がうるうると光り、目元は赤く色づいている。
いろんなもので一杯になった宮地の脳内はシステムダウンまで秒読みだ。

これ以上近くにいたら心臓が爆発しそうなのに席を離れるわけにもいかず、泣いている女性を慰めるすべなど持たない宮地にはどうすることもできなかった。

「と、とりあえず出ようぜ?どっか店でも入るか?」

言ったあと、何だがナンパみたいなことを言っている自分に気が付いた。これではあの男たちと同列ではないか。

しかし彼女はハンカチで口を隠しながら照れたように、

『おおきに、とにかく移動せなあかんね』

なんて言ってはにかんだ。


連れだって映画館を出ようとしたときにハプニングに見舞われた。


隣のカップルシートに座って映画もろくに見ずにぺちゃくちゃ喋くっていたカップルが彼女にぶつかり、かなり中身の残っているドリンクをぶちまけたのだ。

「きゃあっ!」

『ひゃ、』

甲高くわざとらしい悲鳴を上げた女は女性の着ていたシャツにコーラのシミを作ったかと思えば一言も謝りもせずに彼氏に泣きつきそのまま去って行った。

これには宮地もぽかんとするほかない。

『…いっそすがすがしいわ』

「同感だな…ってか濡れただろ、大丈夫か?」

『これくらいなんともないで?急いで帰って洗わんとあかんけど』

「ほら、使えよ」

宮地はポケットから薄い青色のハンカチを取り出してた。
差し出されたそれを断ろうとしたようだったが、現状と自分のハンカチの有様を見ておとなしく受け取った。

『えらい迷惑かけてしもて申し訳ないわ…』

「気にすんなよ。早く帰った方がいいんだろ?」

『え、これは』

「やるよ。ハンカチくらい」

『そんなん悪いわ。なんかお礼せんと』

「気にするなってば。」

『じゃあ…お言葉に甘えて。お兄さんいろいろおおきにな、さいなら』


また彼女は綺麗に笑って急ぎ足で駅の方へ行った。

呆けたようにそれを見ていた宮地は、はっと気が付いた。



彼女の名前も連絡先も聞いていないことに。

そして、自分は彼女に一目惚れというやつをしてしまったということに。



………………………………………

宮地さんイケメン。マジイケメン。

みゆみゆ所属のSTK48はまあ分かりやすいんですがS(シュー)T(ト)K(ク)です

忍足がおおきに言いすぎ。

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