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「#幼馴染」のBL小説を読む
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  にこにこといらいら


あれ以来大坪は宮地を見かけるたびに話しかけるようになった。

廊下ですれ違ったときや校門の前ではち合わせたときに軽く手を振ってにこにこと機嫌良さそうに笑いかけてくる。

一方宮地は不機嫌だった。

女に横抱きされて運ばれた事実がどうしても解せない。横抱きなんてオブラートに包まずに言ってしまえばお姫様だっこだ。プリンセスホールドだ。赤っ恥にもほどがある。


『おはよう宮地、今日も早いな』

「うっせぇ。お前俺より早ぇだろーが」

『男バスでは宮地が一番じゃないか』

「………」

それをいうなら女バスの一番乗りは常に大坪だ。
ボールや得点板の準備を全て整え、部室の掃除まで済ませてから自主練をしている大坪の真似なんて到底できない。

大坪の地位が体格や才能に恵まれただけではないことは数日見ていればすぐに分かった。

ちらりと練習中の大坪を見かけたとき、その視線の鋭利さに身震いがした。
よく通る落ち着いた声は先輩に後込みすることなく的確な指示と激励を叫んでいる。
リバウンドに食らいつく姿は野生を生き抜く獣の王のようだ。


早い話が、彼女のバスケは見惚れるほど素晴らしいものだった。


もちろん、それとこれとは全く別の話なのだが。



「つーかよく俺の名前覚えてたな。ひょっとして男バスの部員全員覚えてんのか?」

『まさか。せいぜいスタメンの先輩方くらいだ。』

「じゃあ何で…?」

『宮地はいつも一番早くきて一番遅く帰るだろう?印象に残っていたんだ』

にっこりと笑い、大坪はタオルを抱えて第二体育館へ戻っていった。

秀徳にはいくつか体育館があり、第一体育館は男バスと男バレが使い第二体育館は女バスと女バレが使っている。

第一体育館のほうが校門に近いので大坪は帰り際などに宮地を見かけていたのだろう。


今度、気が向いたときに見にいってもいいかな、と思った。







練習もとっくに終わりとっぷりと日が暮れた夜。

今日はいつもよりだいぶ遅くなってしまったと思いながら宮地は自主練を切り上げた。

散らばったボールを集めて倉庫にしまっていると、開け放していたドアの向こうに光が見えた。

第二体育館だ。

驚いてバッと時計を確認すれば、長身は0の少し手前で短針は9より少しずれた位置にあった。約9時だ。

「…まさか、」

バッシュのまま外に飛び出しそうになったので慌てて履き替えて光の漏れるドアから中の様子を伺うと…やはりいた。

女子の中では特出した身長と揺蕩う黒髪。
大坪泰花だ。

だんっと力強く踏み切った左足。伸ばされた長い腕。片手で持ったボールがリングに叩き付けられる。

お手本のようなフォームのダンクシュートだった。

三年生でもあれほどのダンクシュートはできないだろうな、と思ったところで宮地は我に返り、半ば怒鳴り込んで体育館へ入った。


「おいっ大坪!!お前どんだけ練習してんだよ!」

『宮地?こんな時間まで残ってたのか?』

「その言葉3倍にして投げ返すぞ!!人に休息がどうのとか無理するなとか言っておいてお前がオーバーワークじゃねぇか!」

『そんなことはないぞ。休憩は計算して挟んでいるし、不調を感じたらすぐにやめるさ』


言外に「お前はやめなかったみたいだけどな」と言われているのだと分かった。

確かにあの日は頭が痛かったし気持ちが悪かったけど練習を続行してしまった。


「お前、意外と根に持つタイプなんだな…」

『根に持っているわけじゃないよ。だいたい倒れて損するのは宮地であって私ではないだろう?』

「………そりゃそうだけど」


宮地は居心地悪げに視線を逸らした。

大坪が時計を確認して片づけを始めているのを見て、ただ突っ立っているのも馬鹿らしいので手伝うことにした。

すると、あの時と同じ穏やかな笑顔でお礼を言われてしまった。
むず痒くて仕方がない気持ちになって、宮地がボールを踏んづけて盛大にすっころぶと、大坪が慌てて駆け寄って大袈裟なくらいに心配した。
宮地は恥の上塗りとばかりに赤面して怒鳴る。ここ最近のパターンだ。

そこでふと宮地があることに気づいて大坪に問うた。


「……大坪、お前家近いんだろうな」

『?ああ、ここから30分ほどだが』

「まさか徒歩じゃねーだろうな」

『徒歩だ。でも校門から出て右に行った先の児童公園を突っ切っていけば10分は短くなるな』

「っそこ!最近不審者が出るってとこじゃねーか!!馬鹿かお前撲殺すんぞ!」

『別に、不審者が私を襲うことなどないと思うが』

「なに勝手に決めつけてんだ!お前さっさと着替えてこい!」

『片づけが終わったらモップをかけてから備品の確認をして部室の掃除を済ませてタオルを畳んでボトルをしまわなくてはならないのだが』

「どんだけ雑用請け負ってんだエースが!スタメンが!!つーか最後の方のはマネの仕事じゃねーか!!!」

『エースでもスタメンでも一年には違いないだろう。どうせ一番最後になるのだからやれることはやっておこうかと、』

「お人好しか!!!お前確実に人生損するからな!んなことしてたらますます遅くなっちまうだろーが!」

『なんだ、一緒に帰ってくれる気だったのか?』

きょとんとした顔をする大坪。
自分の言ったことを思い出してきょとんとする宮地。


「女を1人で帰すほど甲斐性なしじゃねーよ。俺も着替えてくっから用意しとけよ!」


理不尽なんだか照れ隠しなんだが分からない台詞を吐きながら宮地は第一体育館へ戻っていった。


にこにこといらいら
(風に揺られる新芽が一つ)

帰り道、

『宮地、まだ髪が濡れているぞ』

『宮地、そっちは車道側だ。こっちに来い』

『宮地、学ランのボタンが取れかけているが』


「お前は俺の母親かぁああああああ!!!」



………………………………
某知恵袋で女子でもダンクできると見かけたので、してもらった。

大坪さんは世話焼きだけどいつもにこにこ癒し系なイメージ。
女子からの人気が高そう。



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