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  ごめんなさいと仲直り


『お前がこんなにも愚かだとは思わなかった。もう二度と私に関わるな!!!』

そう言われたときは、別に何とも思わなかった。

いつもの叱るような言葉と違って怒っているような態度だったのが少し気になったけれど、大坪はいつもならすぐに機嫌を直して俺に構ってくるから。

俺から関わりにいってるみたいに言うなよ。お前が勝手に話しかけてくるんだろ。なんて、そんなことを考えていた。


だから…


なあ、だからなのか?



「あ、大坪…」
『…………』

朝、校門で鉢合わせたから名前を呼んだ。大坪は無言で下駄箱のふたを開けた。

「きょ、教科書貸してくんね?」
『……………』

たまたま英語の教科書を忘れたから借りようと思ってクラスを訪ねた。
一瞬だけこちらを見た気がするけどすぐに友人と思しき女子のところへ行ってしまった。

「昼!一緒に食ってやってもいいぜ!」
『…………………』

購買で買ったパンを片手にもう一度クラスへ行き、今度は中まで入って目の前でそういった。
おもむろに立ち上がったかと思うと荒々しい足取りで教室を出て行ってしまった。


「おい!いい加減なんか言えよ!刺すぞ!?」
『…うるさい。関わるなと言ったはずだ』

放課後、部活前に体育館を覗いても一向にこちらに気づかないため部活が終わるまで待ってから話しかけた。

けれど、やっともらえた返答は…




すっと指先から冷えていった。

まさか、そんな、

大坪が本気で俺を嫌うなんて、

そんな、地を這うような声なんて
怒気はおろか無関心な表情なんて
どうでもいい物を見る視線なんて


それらを自分に向けられるなんて、夢にも思わなかった。


「ぉおつぼ…」

掠れるような弱々しい声で名前を呼んでも、大坪はちらりとも見てくれなかった。
床に落ちていたボールを拾い集めて用具倉庫に引っ込んでしまう。


「大坪、大坪、おーつぼ………」


以前ならば。
ほんの少し前までなら、俺がちょっと弱っていたらすぐに気づいて励ましてくれたのに。
心が折れそうになったらすぐに添え木のように支えてくれたのに。


もう、視界の中にも入れてくれない。



「おお…、」


嫌われた。


嫌われた。きらわれた。キラワレタ。

大坪に、嫌われた。

もう、ダメだ。

嫌われてしまった。見限られてしまった。

俺が、大坪に与えられるだけの関係にあぐらを掻いていたから。

大坪、ごめん。

ごめん。ごめんなさい…

やだ、やだよ

お前ともう喋れないなんて、やだ



「…ぅ……ぁ…ッ」



ゆるして…っ



「うわぁあああぁあぁああぁああああああああああああああッッッ!!!!」


目の奥がカッと熱くなったと思えば、あっという間に目頭に集まって溢れ、頬を流れた。
激しい痛みを発する喉を飲み下すこともできず、俺は赤子のように泣き叫んだ。

『宮地!?』

周りにいた女バスの部員たちが慌て始めるより前に倉庫から大坪が飛び出してきた。

大坪が俺を真っ直ぐに見てくれることや名前を呼んでくれたこと、心配して近寄ってきてくれたことが嬉しすぎて俺は大坪の名前を叫んで泣きじゃくった。

「お、おつぼぉ!!おーつぼ、おーつぼぉおおおおおおおおっ!!!」

手に持っていたバスケットボールを放り捨て、両手を広げてふらふらと大坪に向かって歩けば大坪はすぐ俺の体を受け止めてくれた。

ぽす、と包まれた温もりとこれ以上なく落ち着く大坪の匂いに何ともいえない気持ちになって、俺は大坪の体に手を回してしがみつくように抱きついた。

『宮地、宮地どうしたんだ?具合が悪いのか?保健室に行くか?』

ちがう。
ちがうよバカ。そんなわけあるかよ。

どうしたんだって、そんなの決まってるだろ。

「おおつぼぉ…っ」
『ああ、なんだ?』
「ごめんなさい…!!!」
『!!』

顔は見えないけど大坪が驚いているのが分かった。
そりゃそうだ。自他ともに認めるほどプライドが高い俺が謝っているのだから。しかも大号泣のおまけつき。

「ごめんなさ、おおつぼ…ごめんなさい…ゆるして、もう、むし、やだ…」
『宮地…』
「もう無理しないから。練習やりすぎないから。倒れたりしないから…!」

大坪の柔らかい胸に顔を埋めて、やだやだと首を振った。
涙や鼻水がついてしまったのは大目に見てくれ…

どうすれば許してくれるだろう。
生まれてこの方こんなに後悔したことも反省したこともない俺は、これ以上どう謝ればいいのか分からなかった。

土下座するか?そんなことされても困るだけかもしれない。もっと怒らせるかもしれない。
そもそも大坪が"愚か"だといったのは本当にオーバーワークのことだけか?俺の態度が悪かったんじゃないか?それならどう直せばいいのか…


『うん、約束してくれるなら…いいよ』

「えっ…?」

『いいよ、宮地。まさか泣くとは思わなかった…私も怒りすぎたよ』

ぐちゃぐちゃな顔を上げてすぐそこにある大坪の顔を見れば、俺の大好きな笑顔があった。

ふわっと優しげに穏やかに、慈愛に満ちた聖母のような笑顔。

俺の髪をそっと撫でる手からじんわり広がる暖かさ。

今まで意識していなかったけれど、俺は大坪の笑顔や頭を撫でてくれる手、窘める声が大好きだった。



大坪が、大好きだったんだ。



『約束してくれ、もう無理はしないと。自分の体をもっと大切にすると』

「する!誓う!!」

『…いい子だ』



俺は、


大坪の"母のような"笑顔が好きだ。




ごめんなさいと仲直り
(まだまだ蕾は堅く青く)


…………………………………
違うんだよ宮地くん。
ってことでみなさまよいお年を!!

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