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「#幼馴染」のBL小説を読む
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  雲より高いその塔は絶望によく似ていた


執事の邸宅に着くと見知った気配が4つある。
僕は音を立てないようにドアを開けて背後に忍び寄った。

『「はーい」「みんなのアイドルミソギちゃんだぜ!」』

「わっ!」
「どわぁっ!!」
「っ!」
「びっくりさせんなよ姉ちゃん!」

いやー4人ともいい反応してくれるね。
気配をなかったことにしてある僕は常に絶をしているようなものだから能力者じゃないゴンちゃんたちには見つけられないらしい。
それにしてもレオリオちゃんの驚き方って親父くさいな…

「姉ちゃん一人で降りてきたわけ?死んでない?」
『「奇跡的に死んでないんだなこれが!」「ただ3回ほど重傷になった」』
「ギリギリじゃねーか」
「弱いんだから誰かについてきてもらえよ馬鹿だな」

キルとレオリオちゃん許さん。

「ミソギ大丈夫?怪我残ってない?」
「見たところ問題なさそうだが異常があれば麓についてから病院へ行くか」

ゴンちゃんとクラピカちゃん天使かよ。

「ミソギお嬢様…」
『「やあゴトー、久しぶりだね」「ツボネたちは元気かな?」』
「…ええ、息災でございます。お嬢様は、」
『「僕はまったく問題ないね!」「燃やされても刺されても沈められても撥ねられても元気いっぱいさ」』

問題ないことが既に問題なくらいには壊れてるわけだしね、僕。
ちなみに被害が全て受身系なのは蜘蛛の連中にやられたことだからです。あのチビいつか痛い目みせてやる。

さらにゴトーが何か話そうと口を開いたところで腕を強く引かれた。
目の前には見覚えのある赤い上着。クラピカちゃんの背中だ。

『「クラピカちゃんどうかしたの?」』
「いいからミソギはそこにいろ。そばを離れるな」

やだなにその少女漫画みたいなセリフ!イケメンのみに許された禁忌の言葉だぜ!
乙女とか生娘とかそんな言葉と無縁なぼくでもときめいちゃったじゃないか。

ところで何故いきなりイケメン発言に?と首をかしげたところで気が付いた。彼の視線の先に。

『「ありがとう」「気を使わせてごめんね」』
「私が勝手にやっていることだ」

守ってくれようとしてるのだ。この家の住人から悉く嫌われている僕を、背中に隠してくれている。
これだから強くてかっこいい男の子はずるいよね、惚れちゃいそうだぜ。冗談だけど。

『「そろそろバスが来る時間だね」「行こうか、みんな」』

嘘だよ、バスの時間なんて知らない。
早くここから立ち去りたいよ。嫌われることが怖いのではない。

僕は、守られることが怖い。

試験中にキルや兄さんやクラピカちゃんに守られていることが、本心では怖かった。
僕は誰かに守られたことなんてなかった。
守られることに慣れてしまったらどうしよう。好意に埋もれてしまったらどうしよう。


ありがとう、クラピカちゃん。でも、僕を守るのはやめてほしい。


そんな言葉が、言いたいのに言いたくなかった。

『「ねぇ、キル」』
「ん?」
『「キルに弟は何人いたっけ?」』
「はあ?んなのアルカとカルトの2人に決まってんじゃん。何だよ?」
『「ううん、ちょっと確認」「何でもないよ」』

そうだよね。本来、それが正しい世界なのだから。
僕がここにいることは間違いなのだから。


懐かしくもなかった実家を後にし、町まで降りた。
案の定乗り物酔いした僕を介抱してくれたクラピカちゃんには本当に感謝しかない。

そろそろ本格的にこの世界でやらなければならないことを探しに行くべきだろうか。
安心院さんが僕をこの世界に送り出した真意が分からないし、今となっては軽々しく自殺して聞き出すこともできない。
ハンター試験を受ける前までは「元の世界に帰る」ことが目標だったが、方法自体は分かったし、となると僕にはもう目的が存在しないわけで。

「ミソギはこれからどうするんだ?」
『「え?」』
「んだよ、姉ちゃん聞いてなかったわけ?」
『「うん、ごめん」「ちょっと考え事してた」』
「クラピカは雇い主を探しに行って、レオリオは勉強、俺たちはヒソカを探しに行くんだけど…ミソギはどうする?」

つまりクラピカちゃんが就職活動、レオリオちゃんが受験勉強、キルとゴンちゃんが自分探しの旅ってところか。っていうかヒソカ?僕、彼とろくに接したことないからよく知らないんだけど。

『「えーどうしようかな」「特にやることもないし」』

っていうか今まさにやることを探そうとしていたところなんだけど。

「じゃあ俺たちと一緒に行こうよ!」
「姉ちゃん放っておくと勝手に死ぬし」
『「こちとら好きで死んでるわけじゃないっつーの」「でも、いいの?友達と2人の方が楽しいでしょ」』

好き好んで保護者というか家族と一緒にいる歳でもないしねぇ、キルも。
と思っていたのだが。

「はあ?また死なれたり行方不明になったりしたら迷惑なんだよ!それなら目が届くところにいてくれた方がマシ!」
「キルア、普通に一緒にいたいって言えばいいのに」
「う、うるせぇなっ」

僕の弟がこんなにも可愛い…。
色白の肌を真っ赤にして慌てるキルが可愛くて仕方ないので床に寝転んでゴロゴロ悶えたい。もしくは抱きしめて頭を撫でてあげたい。
前者はただの不審者なので後者を選択した。

『「もーキルってばこのツンデレちゃんめ!」「そういうことなら仕方ないから暫く一緒にいてあげる!」「僕はお姉ちゃんだからね!」』
「なっ!や、やめろよ!恥ずいだろっ!」

僕とキルがいちゃいちゃしているうちに今後の方針が決まったらしい。
9月1日にヨークシンシティというところにみんなで集まるとか。つまり同窓会みたいなものかな。
でもそんな大きなオークションがあるとなると、ゾルディックの方にも何か仕事が回ってきそうだなぁ。

全員バラバラの飛行船に乗るため、明確な行き先が決まっていない僕とキルとゴンちゃんは待機。レオリオちゃんは丁度いい便があったためもう行ってしまった。
その後、ゴンちゃんとキルは少年特有の好奇心が刺激されたらしく空港の探検に行ってしまい、クラピカちゃんと僕だけが残された。

「相変わらずというかなんというか、ゴンとキルアは元気だな」
『「少年は無邪気で元気が一番だよ」「同い年の友達と一緒ならなおさらだね」「本当、僕がついていっちゃっていいものかな」』
「ミソギ、その話なんだが」

ぼんやりと飛行場が見える窓の外を眺めていたら、クラピカちゃんの声色が若干真剣みを帯びた。

「暫くゴンたちと一緒にいるということだったが、職を探す気はあるか?」
『「そりゃまあ、それなりには」「いつまでも遊んで暮らすわけには行かないし殺し屋を再開する気も毛頭ないしねぇ」』

無職の12歳は問題ないけど無職の19歳は許されないだろ、社会的には。学生でもないし浪人生でもないし?
そう言うと、クラピカちゃんは僕に提案してくれた。

「それなら、ひと段落着いたら私と合流しないか?」
『「え?」』
「おそらくハンター専用の職業案内所を見つけるのにはそれなりに時間が必要だ。見つかり次第連絡を入れるから、一緒に行かないか?」
『「僕は構わないけど」「どうして?」』

ありがたいがクラピカちゃんにメリットが見当たらない提案に、僕は首をかしげる。
理由を聞いてもクラピカちゃんは神妙な顔で黙り込んでしまったので詮索はしないことにする。

『「えっと」「クラピカちゃんには色々よくしてもらってて、すごく助かるよ」「お返しが何もできなくて心苦しいくらい」』
「いや、ミソギには蜘蛛の件でも世話になっているだろう」
『「まあちょっとだけね?」「さっきミルに言って携帯全部に厳重なロックかけてもらったからもうハッキングされる心配はないんだけど」』

たぶんこれであいつらからの襲撃は減るはず。
もしクラピカちゃんが僕といたがる理由に蜘蛛に襲われやすいことが挙がるなら、それはもうないので申し訳ないな。

「そうか。ならもうあいつ等に襲われる心配はないんだな。良かった」
『「え、あ、うん」「ありがとう…?」』

そんなことはなかったらしい。じゃあ何でだ…?
僕が頭上に「?」を浮かべまくっていたらアナウンスでクラピカちゃんが乗る飛行船の案内がされた。

「ではまた後日連絡をする。ミソギ、怪我にはくれぐれも気をつけろよ」
『「うん、クラピカちゃんもね」「無理しちゃだめだよ」』
「こちらの台詞だな」

金髪が視界から消える。
あの様子からだと、僕があまりにも弱弱しいから放って置けなくて心配してくれているってことなのかな。
2つも年下の相手に気遣われる僕ってなんなんだよ…

「ミソギー!」
『「ゴンちゃん、キル、おかえり」「楽しかった?」』
「通信室に忍び込んだら怒られちった」
「でも楽しかったな!」
『「どうせキルが唆したんでしょ!」「昔から悪戯好きだもんね」』
「ちぇー」

ぺしぺしとキルの猫っ毛を叩く。
口を尖らせてもだめです。可愛いけどだめです。

『「で、このあとどうするかは決まったの?」』
「あ、決まってないや」
「忘れてたな」
『「君たちそれ考えながら探検するとか言ってなかったっけ?」』

まあ楽しすぎて目的を忘れちゃうあたり子供らしくていいと思うけどね。

『「っていうかゴンちゃん、ヨークシンでヒソカを見つけて勝負するんだっけ?」』
「うん!そのつもり」
『「じゃあそれまで修行するのが一番じゃない?」「実力差を埋めなくちゃね」』
「へえ、姉ちゃんにしてはまともな案じゃん」
『「キルちょっとお姉ちゃんのことナメすぎじゃない?」』

僕、君よりこの世界で7年は長く生きてるんだけど?
元の世界の年数合わせたら3倍は生きてるんだけど?

「え?遊ばないの?」

ゴンちゃん気楽でいいなぁ…と遠い目をしていたらキルが思い切りゴンちゃんの額をごついた。
たぶん手加減していると思うけどね。キルの全力でごついたら頭蓋骨危ないから。

「ったく!いいか?ヒソカとハンゾーの実力差がこれくらいだとすると」

ガリガリと地面にヒソカたちのイラストを書くキル。え、めっちゃ上手い。

「お前はここ!かなりおまけで!」
「えー!じゃあキルアは!?」
「俺はまあ、このへんだろ」
「へえ、ハンゾーの方が強いんだ」

実際は念能力の差があるからもっと差がつくと思うけどね。
っていうかキル、たぶんこれ本気モードじゃないときだろうな。本気モードのキルだったらハンゾーより強いと思うし。身内贔屓なしでさ。

「じゃあミソギは?」
「俺、何キロも歩いていくの面倒」
『「僕そろそろ怒るよ!」「確かに弱いけど!」』

キロ単位で差があるってか!
言っておくけど念が使える分僕の方が強いかもしれないんだからね!たぶん、まあ、ひょっとしたら。
そう言えば念を教えてくれた人には「念使っても一般人に負ける子なんて初めて」とか言われたっけ…あれ、目から汗が。

「あ。姉ちゃんって金ある?」
『「ん?」「いや、最低限しか持ってないかな」「ハンター試験受けるからバイトやめちゃったし」』
「ミソギ、バイトしてたの?」
『「生活費は必要だしね」「蜘蛛のやつらが乱入してくるたびに首になって転職回数が数えられないくらいだけど」』

保護者がいない未成年ができる仕事を見つけるのにどれだけ苦労するのかあいつらわかってないよね。
お金ないの?盗めば?とか言ってるやつらだから。

「そっか。じゃあゴンは?」
「俺もあんまりないかな」
「実は俺も。そこでうってつけの場所がある!」
「え、どこ?」

僕とゴンちゃんが首をかしげると、キルは飛行船の行き先が書いてある掲示板のひとつを指差した。



「天空闘技場!」


ねえそこ戦う場所じゃない?僕、無理じゃない?





雲より高いその塔は絶望に似ていた
(クラピカちゃん連絡早くして、また死ぬ)


…………………………………
着々とクラピカにフラグを立てつつ。
試験中にヒソカとほとんど絡まなかった気がするのでちょっと大変。

ミソギの念の師匠の話って今まで出してなかったのでちょこちょこ出します。


 

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