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「#幼馴染」のBL小説を読む
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  はじめまして弟くん、君の名前は何ですか?


はぁい!テレビの前のよい子のみんな!今日も一日元気よく蟻の観察でもしていたかな?

なんて、僕なんかがテレビに出たら世界中がきっと大パニックだからやめておいてあげようね。僕は優しいから。


僕の名前はミソギ。この世界での名前は分かりません。だから、もしかしたら戸籍とは全く違う名前かもしれないね。


僕はある日、気がついたら死んでいた。
これは冗談ではないし誤植でもない。僕が世界一嫌いなものは冗談と漫画の誤植だ。

気がついたら土の中に丁寧に埋葬されてて、そこからゾンビのようにボコボコボコっと這い出てみた。
丁度よく髪が長いからサー○ーコー…って渾身のギャグをやったのだけれど誰も見てくれなかった。僕は孤独死だったのかな。

なんか見るからに毒を持っていそうな虫やら蛇やら蜥蜴やらにやられまくり、しかし何故だか毒が効かないまま、やたら大きい門の前についた。

コンクリの壁かと思ったけど門だった。こんな大きな門、誰が開けられるんだ。まさかこれを開けられないと入る資格なしとか?僕、無理じゃん。

だが!この立派で目立つ門はフェイクだと僕の長年の勘が言っていた。
そう、正しい出入り口は横にある小さな門だ!

さすがは僕だ。見事罠を看破してやったぜ。

鍵なんて小癪なものが掛けられていたからいつも通りに螺子伏せて門をくぐった。

外へ出ると(ぶっちゃけどっちが外でどっちが中なのか曖昧だったけど)舗装された道があった。

あたりを見渡せば、ここはどうやら山のテッペンらしい。
きょろきょろ不信な動きをしていたら、フェイクの門のそばにあった小さな小屋からおじさんが出てきた。

僕はいい子なので丁寧に挨拶する。

『「こんにちは、いい天気ですね」』

ちなみに空は真っ黒の土砂降りで激しい雷鳴がいくつも鳴っている。
うん、実にいい天気だ。


「ミソギお嬢様!?」


僕はいつお嬢様になったんだろう。
また安心院さんのお茶目なジョークかな?じゃあこの人は悪平等(ぼく)なのかもね。

『「僕は君のことなんて見たことも聞いたこともないのだけど、一体全体どうして僕の名前を知っているのかな?」「あ!さてはお前僕のファンだな!最近急増してるらしいんだよね!」「まあ僕は君が誰の何処さんで此処が何時の何かなのかなんてどうでもいいけど一つ言ってもいい?」』

まるでお化けでも見るような目で見てくるおじさんに、僕はいつもの通りに螺子を取り出して、



『「挨拶は返せよ。常識だろ?」』



グシャッとおじさんの頭に螺子を螺子こんで、僕は悠々と歩き出した。
まあ、挨拶を返してもらえないのもお化けでも見るような目で見られるのも慣れてるけどね!


僕はその後、世界中を転々とした。
どうやらここには箱庭学園どころか日本という国がないようだ。

世界地図は正確には覚えてないけどアイジエンとかヨルビアンとかいう大陸がなかったことくらいは覚えてる。
高校三年生ナメるなよ!

わけが分からなくなって困ったときの安心院さんに頼ってみた。早い話が自殺だ。

そして、聞いたところによると僕が死んだ後に大嘘憑きが発動するより前に安心院さんがやっぱりお茶目なちょっかいを出して僕を異世界へ飛ばしてしまったんだとか。

全く可愛いお茶目だな!可愛いから許す!今度からお茶目院さんって呼んじゃおう!

飛ばされちゃったなら仕方がない。僕は18歳にして第二の人生を楽しもうと思う。

楽しもうとしていたんだが、さすが僕。賞金首とかいう物騒な輩に気に入られてリアル鬼ごっこして何回か殺されたぜ。
僕が何をしてっていうんだ。僕が僕たる所以は世界ではなく僕自身にありってか。哲学者になれちゃいそうだ。

無論そんな輩と仲良くなんてなりたくないので、死ぬ物狂いでなんとか逃げ切った。シャルナントカちゃんが僕の新しい携帯をハッキングしてくるまでのつかの間の休息だ。


まずはハンター試験とやらを受けに行ってみよう。
ほらあれだよ。観光地に行ったら観光名所にいくでしょ?その土地の特別な郷土料理を食べるでしょ?そんな感じの記念受験だ。どうせ死にもしない。

でも素顔で行くのは恥ずかしいな…僕ってシャイっ子だから。

仕方ないな、ここは名瀬さんのマネをして包帯ぐるぐるの《劣化黒い包帯(マイナスブラックホワイト)》として参加するか!
あ、ナイフ持ってないや。螺子で代用しよっと。
フランケンシュタインみたいになったどまあいいや。





一張羅のセーラー服に新品の学ラン!そして顔には包帯と右おでこに突き刺さるおっきな螺子!
完璧だ…パーフェクトミソギと呼んでくれていいんだぜ?

デビルかっけぇ僕の格好に恐れおののいて周囲の人間は誰1人として寄ってこない。
僕は周囲のググサグサくる視線なんか物ともせず、もらった13の番号札に落書きをして−13にした。うんうんしっくりくる!
どこにつけるか迷ったからスカーフの中央につけてみた。魔法少女の変身アイテム的な位置だ。サタンかっけぇ!


さてさて一体全体何が始まるのかなぁ。
できれば過負荷(なかま)に会いたいところだけど、そこは我慢しなくちゃね。

と、期待に胸を膨らませていると、ぎゃあぁあああああ〜…という耳障りな悲鳴が聞こえた。
見れば、両膝ついて狼狽える男とピエロルックな男。狼狽える男には両腕がなかった。

男の悲鳴なんて聞きたくもない。うるさくて不愉快だ。
だからさっさと、


『「大嘘憑き(オールフィクシヨン)」「腕が切り落とされたことを、なかったことにした」』


どっかいってよね、僕はうるさいのが嫌いなんだ。


どよどよとざわめきが走る。全くうるさいったら。周囲を見回せば、いつぞやのような化け物を見る目。受け慣れた鋭い視線。

その場をさっさと離れようとすると、後ろからねっとりとした気配が放たれた。

「君…面白いねぇ◇」
『「君は面白い格好だね」』

例のピエロルック男だった。
トランプをいじりながら話しかけてくる奴の笑顔が不快だ。彼が纏う念は、粘り気があって湿っている、執着の塊のようだった。

「それは…君の念能力かい?」
『「いいや、僕は基礎しか覚えないようにしているからね」「これは生まれつきで曰く付きのただのマイナスだ」』

だってだって僕が強くなったりしちゃったら却本作り(ブックメーカー)が機能しなくなっちゃうじゃないか。
あれは僕が幸せになればなるほど効果がなくなっていくけれど、過負荷のみんなやめだかちゃん達と引き離された僕は現在不幸のどん底なんだよね。
つまり、却本作り(ブックメーカー)はかなり強い過負荷となっているわけだ。

念の最低限の基礎しか覚えてないのはそのためさ。


「マイナス…?」
『「君には関わりのないことさ」』
「つれないこといわないでおくれよ。ちょっと僕と遊んでいかないかい?」
『「下手なナンパだね、そんなんじゃ娼婦もついてこないよ」「君は狂っているだけでマイナスじゃない。マイナスじゃない奴に興味なんかないよ」』


過負荷じゃない奴と連む気なんかないよ。っていうか、無理でしょ。
めだかちゃんたちみたいな強靭な精神力を持っているなら別だけど、普通の人間が僕と一緒にいたら気が狂っちゃうよ。

ま、君はもう狂っているけどね。
でも君といるとまた何回も死ななきゃならなくなりそうだし、やっぱりやだ。


ああ、寂しい。寂しい。寂しい。
たった一人に耐えられるほど僕の心は強くなくて、仲間が欲しくてたまらなかった。
こんな僕でも受け入れてくれる人が欲しかった。

僕はそのためにここへきた。

僕のそばにいてくれる存在を捜すために。

僕を愛してくれる人を捜すために。



一次試験はマラソン。
しかも目的地も分からないなんてメンタルぼろぼろにする気満々の意地悪試験だ。

イイネ。

そういう性悪な難題をふっかけられればられるほど、僕のマイナスは成長し真価を発揮する。

とりあえず持久力のない僕は体力が底を尽きるたびに疲れをなかったことにして走りつづけた。

ひたすら走るだけという精神攻撃にも僕は揺らがないし弱らない。
大好きなみんなと引き裂かれたことに比べればこの程度のことは何でもない。

詐欺師の塒とかいう性悪を体現したような土地を死ぬ気で駆け抜けて(実は2回くらい死んだ)やっとこさ辿り着いたのは森の中。
大きな建物の前でむさ苦しい男どもがたむろっている。

くっそぅ…何故女の子がいないんだ!華がない!むさくるしい!!……あ、いた!
男の肉壁に埋まりそうになっている、丸い帽子をかぶったかわいい女の子発見!これは是非ともナンパしに行かねばならぬ。そして連絡先を交換したい。

そちらに向かおうとしたが、僕は気持ちが高ぶったせいで受験生の一人とぶつかってしまった。
なかなか強くぶつかったのでお互いによろけてしまう。

「ってーな…………っえ?」
『「ああ、ごめんよ少年」「ちょっとよそ見をしてたんだ」』
「あんた……」
『「まったくもってこれっぽっちも微塵も欠片も悪気はなかったんだ。許してくれない?」』

ふわふわの銀髪を持つ、僕より少しだけ背の低い男の子。
なかなか綺麗な顔立ちをしてるけど残念ながらショタコンじゃないんだ!ごめんね!

「ま、待って!お前、名前は!?俺のこと分からない!?」
『「…えーと」「前半の質問は下手なナンパだと思えなくもないけど…」』

いきなりそんなことを言われた僕は困惑してしまった。
こんな目立つ容貌の子なら、一度見たら忘れない気がするけどなぁ。どこかで会ったことがあるのだろうか。

『「ぼくの名前はミソギ」』

ぱあっ!と少年の瞳が輝いた。うん、猫みたいでかわいいね。

でもね、


『「君のことなんて欠片も分からないね」』


一転して絶望を映した瞳を見て、もう傷つき果てた心が痛みを発した気がした。



はじめまして弟くん、君の名前は何ですか?
(ミソギ姉ちゃん…っ!)
(顔が見えないけど、俺は分かるんだ)
(姉ちゃん、俺だよキルアだよ…っ!)


 

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