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  君を殺して初めて君の愛おしさを知りました


イルミside







ミソギが俺のことを覚えていない。
それは四次試験のときに本人から聞いたことだった。すぐに両親に報告もしていた。

試験が終わって早々に仕事を片付けた俺に舞い込んできた連絡は、残酷だった。


「ミソギがキルアたちのことを思い出したようだ。しかし弟4人のこと以外の記憶は失ったままだと言っている」


どうして。

なんて、問わなくても答えは分かっている。
ミソギが思い出したのは"思い出したかった記憶"だけなのだろう。
俺や、両親たちのことは忘れていたい記憶だから沈んだまま。

でも、それならば

例の念能力ではないらしい"オールフィクション"という力は正常に働いていなかったということではないだろうか。つまり、家族に関するほかの記憶も"なかったこと"にはなっていなくて通常の記憶喪失と似たような状態だという可能性がある。


俺は針でミソギの脳を直接刺激して記憶を戻せないか試してみようと彼女を探すことにした。家につくと父への報告よりも先に執事にミソギの居場所を尋ねた。
昔の儘にしてある自室だというからまっすぐそこへ向かう。

「ミソギ、ちょっと…」

妹相手に遠慮することもないのでいきなり部屋のドアを開けると、ミソギは壁際のチェストに置いてあった小さいものを見つめていた。

それは、画用紙とセロテープで作った小さな栞だった。
濃いピンクの花を貼っただけの、拙い子供の工作。

時間が経ってしまって茶色に変色している部分も少なくない上に、放置されていたために埃をかぶっていたそれを、ミソギの傷一つない手が優しく撫でた。
埃を払うように、愛でるように、大切な脆い宝物を扱うように、そっと。

それを見て確信した。



「お前…俺のこと覚えてるね?」


バッと勢いよく振り向いたミソギの瞳は無機質に蒼い。キルとよく似た大きくて丸い瞳。
ミソギが俺を見る瞳はいつも凍てついていた。俺の瞳を鏡に映したように生気のない瞳だった。

『「イルミちゃんのことがなんだって?」「家族がどうのって話ならもうしたよね。僕はイルミちゃんを覚えてないよ」「イルミちゃんとはハンター試験で初めて会ったんだし」』

「嘘だね。俺のことをわざと名前で呼んで意識してるでしょ。他人に対する呼び方だよね、それ」

『「いや、だからね、」』

「あと、お前は嘘をつくのが下手すぎるよ」

俺はぐいっとミソギの手を掴んだ。
反射的に抵抗したため、こちらも反射的に捻りあげる形になってしまった。
開かれた手のひらが晒される。くっきりと残る、その赤い爪痕。

昔からの癖だった。
家族に、特に俺に何か隠し事があって嘘をつくとき、いつも手を強く握りしめていた。
それは4つの小さな爪痕になり、赤い傷になり、治る前にまた開いて血を滴らせていた。

体中に散る拷問の怪我と、無意識の自傷。

ミソギが常に自分の血の匂いを纏っていたことを、強く、強く覚えている。


『「…だって、忘れていた方がいいでしょ?」』


か細い声だった。
俯いたミソギから告げられた言葉にはいろんな感情が込められていて、心というものがよく分からない俺には理解することができなかった。

『「僕は…この家が好きだ」「家族が好きだ」「弟たちも兄さんも父さんも母さんもおじいちゃんもひいおじいちゃんも執事たちもみんなみんな大好きだ」「…でも、違うから」』

まずは、家族愛が。

『「弟たちしか、僕を望んでくれないから」』

そして、渇望が。

『「兄さんたちは、僕をいらないって言うから」』

その次には遺恨が。



『ころしたいほどきらわれてるから』



掠れる声で呟いたミソギは、丸かった瞳を尖らせて俺を見た。
見たことのない瞳だった。
人形のように振る舞っていた、感情を殺していた瞳ではなかった。

『僕はもう死にたくない。僕を認めてくれる仲間ができたよ。僕を想ってくれる弟たちがいたよ。もう、死にたくないよ。でも、僕がまた生きてたら、ゾルディックのまま生きてたら、兄さんたちは殺しに来ると思ったから。また、殺したいほど嫌われると思ったから、僕は忘れたふりをしていた。忘れていたかったよ!!』




あ、そっか

これか。





「ミソギと同じ…」

真っ直ぐな拒絶。意志を持った糾弾。
俺は、初めて"俺の妹"に会えた気がした。今、俺に敵意を向けているこの少女こそがミソギ=ゾルディックなのだと感じた。

そしてこれが、ミソギの痛みなのだろう。
胸の中央を抉られるようなこの痛みが、俺が彼女に与えて、沈めて、溺死させた痛みなのだろう。

「大好きな妹に嫌われるって、すごい、痛いね」

『「…誰が?」』

「ん?」

『「大好きって、誰が?」』

「俺がお前を」

『…………ぼく?』

「うん。俺の妹はミソギだけでしょ」

『…いま、』

僕のこと、妹って言ったの…?と、呆然とした様子でミソギが呟いた。


そうだね。
信じろって言う方が無理な話だった。
気づけなくてごめんね。


「ミソギが死んで…俺が、殺して。初めてお前が愛おしいと気付いたんだ。遅くて、ごめんんね」


ずっと、
ずっと、苦しめて、


「ごめんねミソギ、大好きだよ」



君を殺して初めて君の愛おしさを知りました
(君を殺した自分は涙など流せないのに)

「あ、そういえば。お前今日誕生日だっけ?」
『え。えっと…』
「じゃあこれあげる。そこに生えてたし」
『…ありがとう、兄さん』
「5分したら電撃の訓練はじめるから」

  ………

『「兄さん、僕の誕生日一昨日なんだけど…」』

『「しかもこれ、キョウチクトウじゃん…」「庭になんてもん生えてんの…」』


…………………………………
ミソギの本音。矛盾点ないかな…勢いで書いてるからな…
冒頭のしおりはキョウチクトウです。毒があります。
タイトルの"。"ではミソギ視点を少し書いてます

 

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