人生最大の不幸は生まれてきてしまったこと
キルアはまだ"反省"の途中だとかで独房に残ることを希望した。
横暴なんだか律儀なんだか分からない子だなぁ…
上記の理由により独房から出た僕は、とあることに気が付いた。
『「………あれ?」』
あの子がいない。
誰より人懐っこくて可愛いあの子がいない。
おかしいな、あの子はあんなにキルと仲が良かったのに。
目を閉じて集中し、円を広げてみる。しかし見つからない。思いつく部屋を周っても見つからない。
気が付けば一時間経っていたけれど、見つからない。
それならば、もう可能性は一つだろう。
あの子がいない理由は、一つしかないだろう。
円に引っかかったミルキの元へ行く。
僕とすれ違う形で独房に行っていたのだろう彼は、片手に一本鞭を持っていた。
僕はなるべくにこやかに努めて話しかけた。
『「ねぇ、ミル」』
「ん?姉貴、どうかしたの?」
『「んー」「ちょっと聞きたいことがあってね?」』
僕の笑顔から何かを察したのだろう。ミルキの表情が少し強張った。
その弱点を見逃す最弱の僕ではなかった。
『「アルカはどこ?」』
ビクン、とミルキの肩が跳ねた。
蒼い瞳が徐々に鋭さを増していく。
『「アルカはどこなのって聞いてるんだけどなぁ?」「ミルはゲームのやりすぎで耳まで遠くなっちゃったかなぁ?」「ねぇ、聞こえてるよね?」「答られるよね?」「ん?」「無理なの?」「お姉ちゃんにも言えないことなの?」』
みるみる顔が青くなる双子の弟に申し訳なく思う気持ちがないとは言わない。けれど、それでも譲れないことがある。
『僕に言えないようなことをアルカにしてるんだね』
ザワリと空気が揺れた。
世界を歪めるような過負荷と合わさった凶悪なオーラがミルキを襲う。
『アルカはどこにいるの。ミル、知ってるよね。案内して』
心まで引き裂くように口角を釣り上げる。
もちろん実弟のココロを折るつもりなんて毛頭ないけれど、同じ弟であるアルカの所在が懸っているとなればギリギリまで追い詰めるくらいはさせてもらう。
殺気すら滲ませるミソギの前に、長い銀髪を持った男性と豪奢なドレスを纏った女性が現れた。
ミルキは彼らを見た瞬間に、焦りを含んだ声を上げる。
「ぱ、パパ。ママ!」
『「ん?」「パパとママ?」』
念能力者でない者は押し潰されるような重圧に慄き、念能力者である者は圧倒的な格の違いに絶望する。シルバ=ゾルディックとは相手に否応なしに畏怖を感じさせる男だ。
彼に寄り添うキキョウ=ゾルディックもまた、流星街で培われた弱肉強食を生き抜く術を全身から感じさせる身のこなしだった。
彼らは、ミソギを拒絶した人間だった。
それは、暗殺一家という異常な職を持つ者にしては限りなく正常でまともな神経だった。
「ミソギ、帰ったのか」
『「え、あ、はい」「まあ帰ったっていうか戻ったっていうか…?」』
「…姉ちゃんどうかしたの?」
両親から庇うようにその大きな体にミソギを隠そうとしていたミルキは、ミソギの言動がいやに疑問形で浮ついていることに首をかしげた。
肉体的な強度は平均以下のミソギは言動で相手の心を乱してつけ入る戦法をとっていた。自身の最大の武器ともいえる"言葉"がはっきりしていないなんてことはほとんどないはずだった。
『「うーんとねー」「記憶の混濁とかかと思ってたんだけど、そうじゃなかったみたいだなって」』
しばらく思案していたミソギは何かを閃いたように顔を上げる。
鬱屈しすぎて屈託のなく見えてしまう笑顔を浮かべ、ミソギは言う。
血の繋がった、誰より愛する家族に向かって。
『「ぼく、弟のこと以外は思い出してないや」「この人たちのこと知らないんだもん」』
シルバとキキョウは言葉を失った。
表情は読めないまま、オーラだけが若干の凄みを帯びる。
「…俺たちのことを覚えていないのか」
『「はい、貴方たちが誰か分かりません」「ミルキとキルアとアルカとカルトのことしか覚えてません」「えーと、ごめんなさい?」』
笑顔を浮かべたままのミソギは胸が引き裂かれるような痛みに苛まれていた。
誰にも悟らせないまま、誰にも知られないように、たった一人で抱え込んだ。
ごめんなさい。
僕は世界一最低な嘘つきです。
家族にまで嘘を憑く最低です。
だから、嫌ってください。憎んでください。避けてください。忘れてください。
僕なんかを生ませてしまってごめんなさい。
ちゃんと忘れたふりをするから、安心してください。
ちゃんと関わらないでいるから、安心してください。
貴方たちのいないところで生きていくから、またゾルディックを名乗ることだけは、どうか許してください。
『「とりあえず」「僕のかわいいアルカに会わせてもらえませんか?」』
生まれてしまって申し訳ありませんでした
(もっと、"最低"なところに生まれたかったよ)
………………………………
第三者視点と主人公視点が混ざってしまい、どうもうまく修正できませんでした…
雰囲気でうまい具合に読んでください…
家族を愛すれば愛するほどそこに自分が混じってしまったことが許せなくて自己嫌悪するミソギちゃん。
あけましておめでとうございます。今年も頑張って更新したいと思います。
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