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「#幼馴染」のBL小説を読む
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  無機質な瞳には、僕ではない僕が映ってる


学ランを下に敷き、クラピカちゃんから貸してもらった上着をかけて快適な夜を過ごした僕。
いい加減にターゲット探さなきゃなーっと思いつつ手がかりが何一つないので首をひねっているとぐきっと嫌な音がしたのでやめる。馬鹿な自殺はやめよう。

気配が近づいてきたため絶をしてやり過ごすと、ゴンちゃんだった。ぐったりした大柄の男を背負っている。


「よし、これでいいかな!」

『「何が?」「この人ゴンちゃんの知り合いなの?」』

「!?ミソギ、いつからいたの!?」

『「テンプレだけど最初からいたぜ?」「まあ僕はその昔自分の気配をなかったことにしてしまったから気づかなくても無理はないよ」』


転生したけどやっぱりなかったことにしたことは戻らない。僕は記憶にある限りの昔から気配がなかった。
もちろん念能力者には通じないので絶は使うが、一般人には僕を見つけることは困難らしい。
っていっても僕は気配云々よりも過負荷特有の空気を捻じ曲げる空気とやらを放っているらしいんだけど(安心院さん談)


「この人、矢で撃たれて倒れてたんだ」

『「ふぅん?」「でも矢だけじゃないよねこれ」「毒でも塗られてたかな?」』

「よく分かるねミソギ!!」

『「毒物の知識は何故か豊富でね」「筋弛緩系かな」「死ぬことはないね」』

本当に、どこで覚えた知識なんだか…物騒だな。
僕が毒蛇や毒蜥蜴に噛まれても何の影響もなかったのと関係があるのかな?

「…ねえ、ミソギは昔の記憶を取り戻したいって思ってるの?」

『「いや別に」「…正直言って、どうでもいいかなぁ」』

ゴンちゃんってたまにすごいタイミングでものを言うよね。心読まれちゃったのかと思ったじゃない!
こんな僕のことを心配そうに見てくれる天使のようにやさしいゴンちゃんには悪いんだけどさ、



『「記憶は、過去だから」「それを取り戻したところで今の僕の何が変わるでもないでしょ」「僕のことだから…どうせロクな記憶じゃないだろうしね」』


「そんなことないよ!!!」



ふっと嘲笑を浮かべてそう言えば、ゴンちゃんに力いっぱい否定されてしまった。
別に否定されることには慣れているけれど…

『「ん…?」』

「あ、えーと…そんなことないかもしれないよ?いい思い出もきっとあるよ!」

『「あー、ありがとうゴンちゃん」「試験が終わったらやることも特にないし」「記憶を探しに行くよ」』

そういう意味ね。いい子だね、ゴンちゃん。
まっすぐで綺麗な子。
改心する前の僕だったらそれをどう曲げて歪めて穢すかを考えるんだろうけど…どうも今の僕はダメだ。角っていうか棘がとれすぎてころころ転がっていきそうな丸さだぜ。

だから、僕は思うんだ。

この子と一緒にいちゃ…ダメだなって。


『「僕もそろそろプレート狩りに行かなくちゃ」「ゴンちゃん、難しいと思うけど頑張ってね」「たぶん死なないと思うけどね」』

「うん!ミソギも頑張ってね!!」

『………ありがとう』


本当に綺麗で…眩しい子。










もちろんゴンちゃんに言ったことは嘘なわけだが。
当てもないしやる気もいまいちない。つーかこの辺が落ち時じゃないかと思ってる。

僕はハンターになりたいわけじゃないし、いわゆる記念受験みたいなもんだ。
心境としてはこのプレートを何処にいるかも分からない僕がターゲットな受験生に譲ってあげてもいいくらい。

いっそ受験生を適当に見つけてプレート投げつけたあとに絶を使ってどこかに隠れてやり過ごそうかな。落ちるのは別にいいけど狙われて殺されるのはまっぴらだしね。

なーんて考えていたら覚えのある気配が頭上にやってきた。


「…いる?」

『「いること分かって聞いてるんだろキルアちゃん!」「呼ばれて飛び出てミソギちゃんだぜ」』

そう、未だに僕と微妙な距離であるキルアちゃんだ!
行動の所々に違和感を覚えたり引っかかったりするけれど、どうせ僕の記憶違いか勘違いだろうからそこまで気にしてない。
まだ視線が合ったことないとか名前呼んでもらったことないとか気にしてないからね。本当に気にしてないんだから!!!

「お前のターゲットって何番だっけ」

『「ん?」「198番だよ。ってかキルアちゃんにも見せたでしょ?」』


「……ん。」


差し出された丸いプレートに書かれた198。
…これは流石に驚いたぜ。


『「わお。」』

「俺のこと狙ってきた奴の。やる。」

『「…僕」「キルアちゃんに返せること何もないんだけど」』

「は?」

『「んー、だからね」「赤の他人にこんなに親切にしてもらえる人間じゃないんだけど」「僕ってさ」』

キルアちゃんの表情が痛そうなものになる。
どこか怪我でもしてるのかな。そしたら僕が治して(戻して)あげるんだけど。

「…赤の他人じゃ、ねーし」

『「ここまで死線を潜り抜けてきた仲ではあるけどさ」「それにしたってここまでの「いいからッ!!」

「俺の得点はもう集まってるから。捨てるのもアレだと思って持ってきただけだし…じゃあな」

『「…うん」「じゃあ、ありがたくもらっておくね」「ありがとうキルアちゃん」』


…キルアちゃんってツンデレ?






キルアちゃんがジャポニーズニンジャのように木の中に消えていったのを見届けて、僕は手に残されたプレートを見る。

会ったこともナメたこともない奇跡にみまわれた僕は、彼の厚意に免じて試験を続行しようと思う。
流石にここまでしてもらっておきながら「敵に襲われて奪われちゃったテヘペロ☆」なんて言えるわけがないことくらい分かってる。
僕は空気を読む女、ミソギ!

なんて思っていたら目の前に誰か現れました。僕の今の独白が見事にフラグになったようだ。

「お前のプレート、いただくぜ!!」

『「やなこった」』

飛び出してきたのは僕より大柄だがそれなりに統制のある筋肉をつけた男。武器は大刃のナイフ。
プレート隠しておけばよかったなぁ…殺されても死なないけどプレートを奪われちゃったら意味がない。

「さっさと立て!座ったまま死にたいのか?」

『「死ねるものなら死にたいね」「でも、君には無理だ」「僕のマイナスには及ばない」』

「なっ…このアマ!!!」

さてどうしようかな。
僕は体ごと突っ込んでくる男を他人事のように見ながら考える。
一度刺されてから男に触れて、彼の存在をなかったことにするか。

螺子を取り出してカウンターのように刺しだそうとした一歩前、聞き覚えのあるスパパパン!!!という音がした。


『「あ、イルミちゃんだ」「やっほー!」』

「…何、無防備にしてんの?バカ?」

『「おおう出会い頭に辛辣!?」「そんなこと言われても困っちゃうな」』


現れたのは、イルミちゃんでした!(某鷹CM風)
針まみれなグロッキーギタラクルちゃんではなく、世界が嫉妬する髪の持ち主イルミちゃん。
僕を襲おうとした男は丸焼きにされた豚のように顔中が針まみれになっていた。当然即死。


『「っていうか」「イルミちゃんこそ何してるの?」』

「暇だったから」

『「イルミちゃんは暇だったら赤の他人を助けちゃうの?」「変わってるね」』


しっかしタイミング良すぎない?キルアちゃんもイルミちゃんもどうして僕の場所がすぐに分かるわけ?見張ってたの?


「なんで念使えるのにここまで弱そうなの?っていうかなんで弱いの?」

『「そういうふうに生まれたからさ」「ま、どこの誰から産まれたかもわかんないんだけどねー」』

「…ミソギは、記憶がないの?」

『「ないね」「7年くらいより前の記憶は一切ない」「特に興味もないね」』
 

ベキンッという妙な音が聞こえた。音源を探すとすぐに見つかった。イルミちゃんの右手だ。持っていた3本の針がバキバキにへし折れている。


『「イルミちゃん、血が出てるよ」「針なんか握りしめるからだよ危ないなぁ」』

「…あ、ほんとだ」

『「仕方ないなー」「コレのお礼に治してあげるよ」』

コレとは当然僕の足下に転がっている死体のことだ。お礼はしなくちゃね。
それにしても折れた針の破片が突き刺さっているのにちっとも表情を変えないな、イルミちゃん。宗像くんを彷彿とさせるポーカーフェイスだ。 

イルミちゃんの手に触れるとぴくりと彼の体が跳ねた。僕に触られるなんていい気分じゃないと思うけど耐えてね、一瞬だから。


『「大嘘憑き(オールフィクション)!」「君の手の怪我をなかったことにした」』


僕は誰にも気づかれないような一瞬だけ、笑顔のまま硬直した。
大嘘憑きをつかった瞬間よく分からない悪寒のようなものが走ったからだ。レオリオちゃんやクラピカちゃんに使ったときは何ともなかったのに…


「ねえ、今の何?」
「何、今の。気持ち悪い」


イルミちゃんとよく似た声が頭に響いた。
今の感覚はキルアちゃんと話していたときにもあったけど…今回のは妙な感覚が悪寒とともに走り、さらには頭の痛みまで酷くなった。

なんだ、これ。


「ねえ、ミソギってば」

『「あ…えっと」「この力は大嘘憑き(オールフィクション)って言ってね、」』

ゴンちゃんたちにした説明と全く同じことをイルミちゃんに伝えた。すると、キルアちゃんと同じように「なかったことにしたことは戻らないのか」と聞かれた。だから僕は寸ぷん狂わず同じ返答をした。

『「それ、キルアちゃんにも聞かれたよ」「イルミちゃんもキルアちゃんもそんなに僕の力に興味があるの?」』

「別に。ちょっと疑問に思ったから聞いただけ。じゃ、俺寝るから」


なんだそりゃ。いきなりだな。
マイペースなイルミちゃん、さてはB型だな?


『「そうなの?」「おやすみー」』

「うん。おやすみ」


そう言うとイルミちゃんは僕の隣に穴を掘り始めた。そして地中に潜り込むと頭まで完全に埋まった。

彼の行動をそこまで呆然と見ていた僕は、彼の顔が見えなくなったと同時に叫んだ。




『そこで寝るんだ!?』





無機質な瞳には僕ではない僕が映っている
(地面が震えているように感じたのは)
(たぶん、僕の気のせいなんだろうな)


赤の他人なんかじゃない。
俺たちは血がつながった家族なんだって、言いたかった。
俺の知っている"ミソギ"はもう戻ってこないことなんて
分かっているのに。知っているのに。理解しているのに。

それでも、貴女の中にある貴女の影を探してしまう愚かな兄弟を許してほしい



…………………………………
最後の独白はイルミ、キルア両方の視点です。
どちらの独白になっても言い様に書いたつもりです…ゾルディックデレフィーバー。

マイハニー椎名ちゃんとそのお友達にささやかなお礼です!

 

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