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  友達でもなく仲間でもなく敵でもなく


氷魔法を振るいに振るって戦争を片づけると、絨毯を使ってこうへ帰る。
ぼろぼろになった戦士たちとは逆に無傷で上機嫌なジュダルは鼻歌まで歌っていた。

宮殿につき絨毯から飛び降りて部屋へと向かおうとすると、


『「あっ紅炎!」「いいとこにー!」』

「ジュダルか。今回の制圧では珍しく活躍だったらしいな」

『「やっだなー僕はいつでも真面目でしょ?」「報告は書面に起こしたからあとで持って行かせるね」「それと、この子今日から僕の側近にするから」「細かい手続きよろしくね」』

「…待て、ジュダル。誰だソイツは」

『「今回の制圧戦争の敵側の奴隷ちゃん」「気に入ったから浚ってきちゃった☆」』

紅炎が視線を向けると赤毛に特徴的な目元を持つ端正な顔立ちの彼はにこりと愛想よく微笑んだ。
しかし社交辞令の作り笑顔だとすぐにわかる顔だった。

着ているものは襤褸切れで首手首足首に赤黒い跡がある。
体つきは必要なところに無駄なく筋肉がついており、そうとう腕っぷしが強そうだ。何より…

「ファナリス…か?」

『「そうそう、あの絶滅寸前戦闘民族ファナリス!」「良い拾いものでしょ?」「僕が拾ったんだから僕のものでいいよね」』


紅い瞳を細めて有無を言わせぬ視線をよこすジュダルに、紅炎はそれでも第一皇子として反論を述べる。

「そんなどこの馬とも知れぬ輩を宮廷に入れることはできない。どうしてもというのなら然るべき施設で一通りの教育を受けてから…『うるさいな』

『「この子は僕のものだ。誰にも文句なんか言わせないし奪わせない」「別に君の許可なんていらないよ」「僕が直々に進言すればあの皇帝は間違いなく通すんだから」』

彼の傷だらけで剥き出しな腕に抱き付いて不機嫌を露わにする彼女はおもちゃを取り上げられそうになっている幼子そのものだ。
紅炎はそれを見てなんとも言いようのない不快感に襲われた。


「…好きにしろ。寝首をかかれても知らんぞ」

『「殺されたって僕は死なないし、彼はそんなことしないよ」「ね、そうでしょアルニラム」』

「もちろんですジュダル様。俺は、貴女の手足ですから」

淀みないその返答を聞いて、ジュダルは満足そうに口元を緩めた。

『「あ、早く怪我の手当てして服も着替えなきゃ!」「そんな恰好じゃせっかくの美男子が台無しだぜ!」「あの3階の窓まで運んでくれる?」』

「はい。しっかり捕まっていてくださいね」


甘えるように彼の首に手をまわしたジュダルをしかと抱えて地面を思い切り蹴ると、アルニラムと呼ばれた赤毛の獣は一瞬で彼女が告げた窓へたどり着いていた。

すぐにジュダルのはしゃぐ声が聞こえ、紅炎はそれを下から見上げるだけだった。



彼女が。

宮廷にいるときは毎日でも顔を合わせ、幾多の迷宮と数多の試練を共に乗り越えてきた"創世の魔法使い"が。


まるで、ただの女の子のようだった。

年相応、18歳の可愛らしい少女。



…どうして。
自分には、決して、



そんな心の底から安心したような顔など見せないのに。







「……ミソギさん、彼が気になるんですか?」

『「ん?」「ああ、紅炎のことかい?」「気になるんじゃなくて気に入ってるんだよ」「一応僕もマギだし、王候補ってやつを選んでるんだよ」「つまり彼ね。練紅炎が僕の選んだ王候補ってわけ」』

「それだけですか?」

『「おかしなことを聞くね、高貴ちゃん」「それ以外に何があるっていうの?」』

「いえ。貴女が気づいていないのなら、俺からは何も」

女官に持ってこさせたシンプルだが品の良い服へ着替えている彼に背を向けながら会話をするジュダルもといミソギは、妙な質問をするアルニラムもとい阿久根高貴に首を傾げた。

「(普段の貴女なら、あんなにもあからさまに拒絶などしないのに)」

同士以外に自身の領域に踏み込まれることを心底嫌う彼女は、無害な笑顔を浮かべつつ相手に気づかせないよう距離をとる。
自分の本心は欠片も見せないまま相手の心だけを惹きよせ絡めとり腐食させる。それが彼女の常套手段。
しかし、先ほどの彼女は剥き出しにした拒否を相手に叩き付けていた。得意の話術も持ち前の過負荷も使わずに真っ向から。一時だけではあるけれど「」すら外れて。

まるで、油断をしていたら相手に心を許してしまうとでも言うように。

相手と近づきすぎてしまうことを何より恐れるように。

嫌いな相手は絶望させたい、好きな相手は不幸にしたい彼女が、何故。

きっと、答えは一つだけ。

まだ気づかないその唯一に、彼女を誰より理解する臣だけが胸中にしまいこんだ。






友達でもなく仲間でもなく敵でもなく
(嫌悪には絶望を、好意には不幸を)
(ならば、愛には何を向けるのか)


……………………………………………
生徒会メンツにはもちろんだけど、過負荷組にも甘えられない(リーダーだし)ミソギちゃんは阿久根には甘えるイメージ
紅炎(→)(((←)))ジュダルです。両者自覚なし。
阿久根はミソギちゃんに幸せになってもらいたいので応援したいけど堕天の影響で彼女を失うことに恐怖しているので云々かんぬん。

Q.いつ報告書を書いたんですか?
A.空飛んでるとき

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