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  一生分の涙で咲いた花に名前をちょうだい


少しだけ前の話をしよう。僕が誇り高きゾルディックの名をもらう前、ただの最低な過負荷だった時の頃のこと。







僕は自他ともに認めるほど惚れっぽい。
とくに女の子は見境なく好きになる。
何故って?それは簡単だ。



友情と違って愛情は一方通行でも成立するからだ。



僕なんかを友達にしてくれる人間なんているわけがない。聖人君子だってごめんだろう?
友情っていうのは双方から同じ矢印が延びて成立するもの。愛情は片想いという言葉があるように一方からの矢印でも成立するもの。

僕はね、僕なんかを好きになってくれる人なら誰でもいくらでも愛せるんだ。友達にも親友にも恋人にも家族にもなれる。
けど、いるわけないでしょう。こんな気持ち悪い僕と、こんな敗北を宿命づけられた僕と、友達になってくれるなんて殊勝な人間は。


いないよね。知ってるよ。


今まで"友達"はたくさんいた。

僕を恐れるが故に側にいる。
僕を気味悪がりながら愛想笑いをする。
僕を虐げるために隣に立つ。

どれもこれも"負"から生まれる感情ばかり。




僕は、


ぼくは、


ただ、


人と関わり共に生きて行きたかっただけなのに。
僕は…どうしようもなく孤独だった。



そんな僕が恋をした。
偽りだらけな僕の、本当の初恋だった。



阿久根高貴。
数ヶ月後には"破壊臣"として恐れられる彼を一目見て、僕はないはずの心を奪われた。

空っぽに荒んだその瞳、ギラギラと全てを拒むように光る髪、まるでこの世の全てがどうでもいいと言いたげな表情。

僕はきっと、ここで間違えた。

恋という感情を知ってしまったことは僕にとってマイナスにしかならなかった。





彼が安心院さんに告白をした。

───────ピキ、


彼がとある女の子を壊せなかった。

───────ビシッ、


彼が改心した。

───────パキ、







「俺には何もない。だから、お前が俺の何かになってくれ」





かれは、ぼくをかれのなににもしてくれなかった。



────────パリン、





こうして負完全は完成した。
かろうじて残っていた心が小さな音を立てて割れた僕は1つの目的を手に入れた。

これほど死にたいと思ったことも、これほど誰かを憎いと思ったことも、これほど涙を流したこともなかった。


僕に絶望を与えた彼は、今、とても幸せそうだ。


彼を改心させた彼女、そんな彼女につきまとう男と変えられた男。
全員が僕なんかとは比べものにならないくらいに幸せで人生も順調で努力すれば夢は叶って喧嘩をしても仲直りができる"エリート共"

あんな奴らがいるから僕は幸せになれない。

エリート共が僕らの痛みを知らずにのうのうと生きているだけで僕らは不幸になっていく。

そうだ。

みんなが幸せになれる世界を作ろう。

作り方なんて簡単だ。



あのエリート共を皆殺しにすればいい。



『「安心院さん、あのね」「僕がプラスな奴らを皆殺しにするって言ったら、貴女はどうする?」』

「ん?そうだな、止めるよ。だってミソギちゃんは、『あっそ』


生徒会室にある僕の執務机に座っている安心院さんの顔に螺子を叩き込んだ。

安心院さんとはどうせ戦うことになるしね。ラスボスはあの苛烈で過剰な少女だとしても、安心院さんが悪平等というこの上ないプラスである以上はそれ以外の選択肢なんてない。

余りにあっけなく螺子を食らった安心院さんに却本作り(ブックメーカー)を刺して追撃を加える。



頭と心の大切な螺子がごっそり抜け落ちた僕は坂を転がり落ちるように底辺の頂点へ到達する。



この日、僕は異常の頂点である少女に瀕死まで追い込まれ学校を去った。

この日以来、僕が男に恋をすることは二度となかった。

少女こと黒神めだかちゃんとの生徒会戦挙に敗北して改心してからも、−十三組のみんなと楽しい学校生活を送っていても、あの日僕から抜け落ちた螺子は戻ってこなかった。




僕は、人を愛してはいけない。

なぜなら僕は人を幸せにはできないから。

だから僕はたった独りで不幸になるべきだ。



僕には恋心を抱く資格がない。

誰かに愛してもらえる資格がない。

上辺だけ取り繕った愛を、今日も必死にかき集めるだけ。

あれだけ流した涙は、もう零れることはない。





目の前に揺れる、"彼"とは違う金糸を眺める。風に靡くそれが僕の頬を優しく撫でる。
規則的な振動とひと肌のぬくもりを全身に感じながら僕はぼんやりと考える。

僕が、球磨川ミソギでさえなければ、きっと。
"彼"のことも、そして目の前の彼のことも、きっと。

愛することができただろうと。



身じろぎをするふりをしてほんの少しだけ、首に回した腕の力を強めた。



一生分の涙で咲いた花に名前をちょうだい
(ぼくは、きみの"なにか"になりたかった)


「だってミソギちゃんは、そんなことをしても幸せになれないからね」


………………………………

ミソギちゃん→阿久根高貴です。
実はミソギちゃん→(←)阿久根だったんですけどね。
誰よりも愛し誰よりも大切にしてきた彼に裏切られたせいで自分は無価値だと思い込むミソギちゃんです。

いつまでクラピカの背中乗ってるんでしょうね、ミソギちゃんは。

ちなみに悪平等をプラスと言っていますが、ミソギちゃんは過負荷以外はみんなプラスだろう、とかそんな考えなだけです。全知全能だし。

 

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