その表情の意味を、感情を、知ることなどありませんよう
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
「ちょっと昼寝をして起きてみたら僕のことを嫌っていた人たちが何故か優しくなっていた」
な…何を言っているのかわからねーと思うが僕も何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
とまあジョ○ョのコピペはおいといて。
実際みんな何があったって言うんだ。僕のことを化け物のように見ていた視線はどこへ忘れてきたんだい?
「ミソギおはよう!」
「よく寝ていたな。試合は3勝2敗で我々が勝利したぞ」
『「あ…あぁ、おはようゴンちゃん」「それはよかった。流石みんなだね…ん?」「2敗って僕の後に誰が負けたの?」』
「…………」
「無言で俺を指さすんじゃねーよキルア!あーそうだよ俺が負けたよ!!」
「…しかもそのせいで50時間ここで足止め」
『「?」「レオリオちゃんが負けたせい?」』
どういうこと?と首を傾げてキルアちゃんに問えば、それに割り込むようにクラピカちゃんが答えた。
「っ時間をチップに賭けをしたんだ。レオリオはそれで負けてしまったため、我々は負けた分の賭け金50時間を払わなくてはならないんだ」
『「ふーん」「レオリオちゃんギャンブル下手そうだもんねー」』
「なっ!下手じゃねえよ!」
「敗因はギャンブルの上手い下手ではないがな」
『「?」』
再び首を傾げたミソギに、クラピカはレオリオの試合のあらすじを話した。すると、
『「えー」「何してるのさレオリオちゃん!」』
『「うらやましいなコノヤロー!」』
部屋の空気が凍った。
『「いいなーいいなー」「女の子可愛かった?どんな子?」「囚人なんてむさ苦しい男だけだと思ってたのに!」「可愛い女の子がいたんなら起こしてよ!」』
「…ミソギ」
「何でお前そんなにテンション上がってんだよ…変態くせーぞ」
『「うるさいな!仮に変態だったとしても変態という名の紳士だよ!」「じゃなくて、僕はただ可愛い女の子が大好きなだけだからね!」「趣味は携帯集めとナンパです!」』
ビシッとキメ顔で言ってやったのにみんなドン引きした顔しやがった。失礼な。
可愛い女の子は正義だろ!?
「お前…そういう趣味か…」
『「何で可愛い女の子が大好きなだけで白い目を向けられなきゃならないんだ。」「別に恋愛対象ってわけじゃないからね」「可愛い女の子と可愛い年下にはやたらと構いたくなるんだよ昔から」』
"昔から"
その言葉にみんなの表情が曇るが、ミソギは気がつかない。気がつけない。
また何かおかしなことをいってしまったのかと頬を指で掻いている。
「昔から、というが…ミソギの出身地はどこだ?ハンターを志望した理由は?」
『「実はねクラピカちゃん聞いてくれるかい」「それが困ったことにね」「僕は自分の出身地とファミリーネームが分からないんだ」』
バッと大袈裟なくらいの身振り手振りは彼女の癖のようなもの。
子供のように無邪気な笑顔のまま、彼女は語り出す。
『「今から5、6年…いやそろそろ7年かな?それより前の記憶がすっぽり抜けててね」「僕が持ってる一番古い記憶は山奥で埋葬されていたことなんだけど」「そのとき僕は自分の名前と能力の大まかな使い方と一般常識の類しか覚えていなかったんだ」「ハンターを志望した一番の理由はそれかな」「僕は自分の記憶を探しに行こうと思ってるんだ」』
半分嘘で半分本当。
この世界で7年より前の記憶はない。本当。
それより前の、箱庭学園にいた頃の記憶やさらに前…水槽学園なんかにいたときの記憶ははっきりある。
ハンターを志望した理由の一つはそれ。でも一番じゃない。
別に僕、自分の記憶なんてどうでもいいし。
…って、あれ?
『「何でこんな重苦しい雰囲気になるの?」「記憶喪失なのはそこそこ困るけど深刻な事態でもないよ?」「普通に生活はできるし」』
まるでお通夜のようだ。
ゴンちゃんとか凄い思い詰めてるんだけどどうしたの?
あ。
『「みんなおなかすいてる?」』
「「「は?」」」
『「え?」「おなかすいてるからみんなテンション低いんでしょ?」』
「ガキじゃねーんだからんなことで機嫌悪くなるか!!」
「リオレオはおっさんだもんな」
「レ、オ、リ、オ!」
「時間的にいえば確かに昼時だな」
『「じゃあ僕何か作ってくるねー」』
「え?お前食えるもん作れるのか?」
『「何で今ひどいこと言われたの僕」』
確かに二次試験でやっちまったな☆とは思ってたけどそこまで?
これでも7年自炊してたんだからな!だって僕がレストランとか入ったらそれだけで営業妨害だし。食べてる人可哀想だよね、こんな気持ち悪い人間と食事なんて。
「ならば私も手伝おう」
『「クラピカちゃんまで僕を疑うのか…!」』
「ちっ、違う!1人で作らせるのは悪いと思っただけだ!」
僕は優しいからそう言うことにしておいてあげるけど。
次に失言しやがったら螺子串刺しの刑だぜレオリオちゃん!あ、僕は可愛い子ちゃんと美人さんには優しいからクラピカちゃんは除外ね!
部屋の隅にある簡易キッチンへ移動して冷蔵庫の中を見ると、3日間くらいは余裕で間に合う食材があった。
「食材はちゃんと用意されているようだな」
『「意外とハンター試験って親切だよね」「50時間くらいなら飲まず食わずでも余裕で生きていられるのに」「水さえあれば試験まるまる72時間食べなくても平気だし」』
「…内容はともかくミソギはなかなか博識だな」
『「内容ね…うーん何でだろうね」「サバイバル知識とか人体の急所とか」「やたらとマニアックな知識があるんだよねぇ僕」』
弱点の固まりであるが故に他人の弱点が手に取るように分かる性質とは別の、知識としての弱点。
僕にとっては必要ないも同然だから自分で学ぶはずはない。いったいどこで仕入れた知識なんだか…
野菜をいくつか取り出して洗い、クラピカちゃんと並んでトントン切り始める。
何だか新婚さんみたいだねっ…と言おうとしてやめた。クラピカちゃんに悪すぎる。彼にも選ぶ権利があると思う。
『「そういえば」「レオリオちゃんの試合の話は聞いたけど」「負けた試合より勝った試合の話が聞きたいな!」』
「誰が負け犬だコラァー!」
『「誰もそんなこと言ってないぜ負け犬ちゃん!」「あ、間違ったレオリオちゃん!」』
クラピカちゃんは丁寧にみんなの試合を語ってくれた。
ゴンちゃんの柔軟な思考で卑怯な相手を下したこと、キルアちゃんが暗殺一家の出身で手がバキバキに変化すること、そしてクラピカちゃん自身の試合のことも。
「私の相手は体は大きな男だったな」
『「体"は"って言っちゃったよ」「君なかなか辛辣だね」』
「その男は背中に蜘蛛の刺青をしていたのだが…」
『「え?」「それはおかしな話だね。」「だって今、幻影旅団は欠員なしのはずだぜ」「0から12までの計13人ただの1人も欠けてないってこの間聞いたばっかりだし」』
油を敷いた大きめの中華鍋に野菜と鶏肉を放り込んでで塩コショウ…ってまた部屋の空気が重くなった。
…僕、また何か地雷踏んだか。
「…それは、誰に聞いたんだ?」
『「ん?」「ああ、団長さん本人から」「1ヶ月くらい前かなー」』
カッとクラピカちゃんの瞳が紅く染まる。
ああ、クラピカちゃんクルタ族だったのか。なるほどなるほど。
そりゃああいつらを恨んでて当然だ。
「ッお前は!幻影旅団と関係があるのか!?」
『「あるっちゃあるよ」「週に2回のペースで殺される仲だけど」』
けろりと言い返せばみんなが困惑しているのが分かる。
でもその通りなのだから仕方がない。
『「えーと2年くらい前にたまたまクモが活動している場面に遭遇しちゃってね」「当然のように瞬殺されたわけ何だけど」「そいつらが立ち去る前に僕生き返っちゃってさ」「まあ"何こいつ"ってなるよね?」「すぐに捕獲されてちょっと拷問されたり殺されたりして」「その後何を血迷ったんだか勧誘されて」「僕は賞金首になるのはごめんだからって断ったんだけど」「それから年中追い回されて殺されて捕獲されて勧誘されるようになったんだよねー」』
僕の人生はあの時から狂い始めた。元々狂っていたけどあの時が最高潮だったに違いない。
イケメン腹黒エセ紳士シャルナークは僕の居場所すぐ突き止めやがるし。
センス皆無厨二病ハゲ予備軍クロロは僕の話聞かないし。
マチちゃんはクールビューティでパクノダちゃんはセクシーだからその2人は目の保養だけど。野郎はだめだ。滅べ。
「…私は同胞を奴らに殺された。私を止めるか?」
『「いやいや何で止めるのさ」「僕あいつらに単純計算で200回は殺されてるからね」「あいつら僕が死なないと分かるとまず殺してから捕まえることにしたらしくて」「つい3日前にも首をちょんぎられたぜ」』
言わずもがなフェイタンにね!くそぅあのチビ!しかも拷問の実験台にされたし!
『「っていうかむしろ協力してあげる」「あまり詳しいことは知らないけど」「容姿と名前と性格、あとケー番くらいなら教えられるよ」』
「お前自分を殺した奴とケー番交換してんのかよ…」
『「死んで生き返ったら登録されてた」』
「お前以外は言えねーセリフだな」
レオリオちゃんって僕に厳しいよね。なんで?善吉ちゃんを彷彿とさせる厳しさなんだけど。
善吉ちゃんにはいろいろした覚えはあるけど君にはないぞ!
どんっ!と出来上がった料理をテーブルに並べていく。
そこで心底驚いた顔をしてるおっさん、お前は食べなくていいからマジで。
「わあっ!おいしそうだね2人とも!」
『「実際にもおいしいといいけど」』
「その前に手を洗え、ゴン」
『「クラピカちゃんお母さんみたい」』
テキパキと人数分の箸や取り皿を並べていくと、キルアちゃんだけがテーブルに集まってくる気配もないことが分かった。
僕は何度目かもわからないが、首を傾げた。
「キルア、食べないの?」
「ああ。いらねー。俺そもそも数日は飲まず食わずでも普通に動けるし」
僕の手料理なんて気持ち悪くて食えたもんじゃないってことか…人間としてはとてもまともな感性だぜキルアちゃん。
暗殺一家の期待のエースとは思えないぜ。
………ああ、また。頭が痛いなあ。比喩じゃなくて、外傷でもない。得体のしれない脳みその中から湧いてくる痛み。
ハンター試験が始まってからたびたびこの頭痛が僕を襲う。
痛みには慣れているけど…不愉快だなあ。
この痛みは胸の中のもやもやまで広げやがるし、ああ、もう、嫌だなあ。
あ、でも、その前に
『「だめだめキルアちゃん!」「男の子はしっかり食べなくちゃ!」』
ばんばんとテーブルをたたいて座るように催促する。
あんな感じのつんけんした少年を見ると僕の先輩気質が騒ぐんだぜ!
しぶしぶといった様子で席に着いたキルアちゃんの口に無理やりできたての野菜炒めを押し込んでやった。
面食らっているキルアちゃんにニコッと笑いかけ、
『「遠慮なんてしなくていいんだよ」「なんてったって」「年下は年上に甘える義務があるからね!」』
───弟は姉に甘える義務があるんだよ
あれ、今の言葉、なんだろ?
僕に弟なんていないはずだけど…何かの漫画のセリフだっけ?
それより何でキルアちゃん泣きそうなのかな
僕のあーんはそんなに気持ち悪かったか…ショック。
その表情の意味を、感情を、知ることなどありませんよう
(頭を掠める)
(記憶にない記憶たち)
……………………………………
ミソギは徹底的にネガティブ。
ポジティブな口調でとんでもなくネガティブなことを言ったり考えたりしているマイナス。
文字色変えたとこ、薄すぎますかね…?見えねーよって方、ご連絡ください。修正します。
私的にはこの見えるか見えないか微妙なとこが好きなんですが…
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