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そしてまた、似て非なる日常が流れて行く。

よくできた模造品?違うね。

今までのそれが偽物だったんだよ。

ズタズタに引き裂かれて汚された本物よりも、綺麗で美しくて滑らかな贋作のほうが良いに決まってるのにね。





授業を受け、

弁当を食べ、

また授業を受けて…





また、部活の時間が始まる。






延々と続く無限のループ







『(また、見てる…)』



朝から気が付いていた。

この、刺すような、咎めるような、同情のような、哀愁のような…視線。

細かいことは分からないが、それを向けてきているのは間違いなくレギュラー達だ。込められている感情も、間違いなく負の感情。




それだけ分かれば十分だ。

十分過ぎる。









自分が拒絶されていることが分かれば、いいのだ。



分かっていた。


昨日の、あのとき、あの瞬間から、分かっていた。


受け入れてくれるはずがないんだ。


長年騙してきた自分の事なんて、許してくれるわけがない。


例え許してくれても、受け入れてくれても、自分は彼らに歩み寄れない。


何処までも、自分は臆病だから。


何処までも、自分は卑怯だから。








今日は珍しくシングルスの練習をした。

本当はシングルスなんて嫌いだった。
たった一人で戦っているような気がしたから。
幼いあの記憶と、何か似通った所があったから。

でも、もういいんだ。
誰も側にいてくれないのなら、独りでいる以外の選択肢なんて無いじゃないか。


休憩にはいると、誰にも告げることなくコートから離れた校舎裏の水道に来た。





さらさらと流れ続ける澄んだ水を手で受け止めた。

途端、冷たいそれは自らの手に溜まり、溢れて零れていく。

すり抜けていく。

自分の手からは、全てが…






「丸井先輩ッッ!!!!」






突然叫ばれた自分の名字にビクリと肩を跳ねさせた。

離れた両手からは、水が一気にバシャリと地面に落ちて吸い込まれていった。


『…………切原』


一度は驚きで見開かれた両目は、勢いよくこちらに駆けてくる後輩の姿を捕らえた途端、拒絶の防壁を構築していく。

その瞳に、切原も一瞬怯むが、すぐにまた駆け寄ってきた。



「丸井先輩!」


何のようだ。
俺を咎める?責め立てる?泣きわめく?





それとも、殴る?
あの男のように、あの女のように、俺を殴れば気が済むの?





「今日暑いッスね!水道めっちゃ混んでたんスよー」


はあ…?


『…………』


俺は何も答えなかった。
何て答えるんだよ、そんなこと言われても。

それから切原は突っ立ったままぺちゃくちゃとどうでも良いことを話し続けた。


俺は、それには一言も返さなかった。

返す必要なんてないし、言葉を交わすことが億劫だった。

でも、







「今日はシングルス何スね!」

これは、無視できなかった。





『…誰も組んでくれねぇだろぃ』




桑原も俺に距離を置いている。数年の絆なんてそんなもんだ。




「う……」


流石の切原もこれには声を詰まらせた…と思ったが、



「やっと答えてくれたっスね!良かったー!!」
『、え?』


その言葉に驚いて、俺はずっと地面だけを見つめていた視線を上げて、つい切原の顔を見てしまった。


切原の瞳は綺麗だった。俺をまっすぐに見てくれていた。

その瞳に写った…俺は…


「俺、ホントにショックだったッス。丸井先輩が騙してたって知った時。」



ズキ、と何かが痛む。



「ずっと仲間だと思ってたのに、すげー仲良くなれたと思ってたのに、裏切られた気がして」



体の中心が冷えていく。



「でも、嫌いになれないんス、先輩のこと」

『どうして…』


嫌ってくれてかまわないのに

嫌われて当然なのに

どうして、お前は俺を追ってきたの





「気づいたんスよ」

『何、に…?』





ぎゅう、と胸の中心を押さえて、顔が歪んで視界が潤んでいるのにも関わらず切原に視線を合わせた。


何かが変わる、予感がした。






「どんな性格でも、俺は丸井先輩が大好きだって!」






ふ、と胸を押さえていた両手から力が抜けた。
視線はもう上げない。


「す、すんませんっ嫌いな奴なのに…嫌ッスよね、こんなこと言われても…」



きらいじゃない

きらってないよ

きらえないんだ

きらいたくない


ぐちゃぐちゃでめちゃめちゃで俺にも分からないんだ


こわいだけなんだ

こわくてこわくて

なけもしないのに

このむねにある、

このかんじょうは


怖さ以外のナニカを秘めている。




「丸井せんぱ…『…か…や…』…え?」

『赤也………ありがとう』


俺を好きでいてくれてありがとう


「丸井先輩……!」
『…っ……っ!』

瞬間、すごい力で抱きしめられた。
他人の体温が移ってくる。
入り込んでくる。

俺の、中に


『いや…だ…ッ!!!』

両手を力いっぱい前に突き出した。ドンッという音が響くくらい強く突き飛ばされた赤也が尻餅をつく。


「先輩…?す、すんません!嫌だったッスか!?」

『ちがう…違うよ……ただ、でも、俺は、なんで…なんで……!』






あいつと赤也は違うのに


他人の体温が、存在が、近くにあることが…



『怖い……っ』



踵を返した俺は、振り返ることなく走り去った。

振り返ったら、あいつがいるような錯覚にとらわれて

俺は、いつまでもどこまでも逃げていた。






知らないよ、コレの正体なんて
(手を伸ばしたいのに)
(恐怖だけが募っていく)





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